キリン (レヴュースタァライト)

 聖翔音楽学園の地下深く、選抜された生徒しか招待されないオーディション用の舞台がある。真円を描く舞台には誰も立っていない。中心になるセンターに目印の目張りがT字に貼られているだけだった。舞台の外周には観客席がある。ぐるりと一周囲むように用意されていた。その観客席から眺めていたそれは呟いた。

「始まるのですね……わかります」

 観客席の転落防止の柵よりも遥かに高い場所から舞台を見下ろす首は長い。中心を見つめる瞳は慈愛に似た優しさがあり、整った長い睫がパチパチとキラめいている。体は黄色、いや黄土色に近く、ブラウン状の縞が縦横に入っていた。その姿は例えるのならば偶蹄目キリン科キリン目のキリンにそっくりだ。しかし種が特定できるような特徴はなく、なによりキリンは喋らない。

 どこからどう見てもキリンだが、キリンに似た得体の知れないナニカだろう。

「わかります……わかります……」

 キリンが再び呟いた。

 一体、何が解っているのだろう。誰に向かって話しているのだろう。

「私は見たいのです。最高にキラめいた、観客もキャストも予測のつかない最高の舞台を……」

 きりんの尻尾がふるりと揺れた。筆になっている先端の手前にリボンが結ばれている。蹄では結べない筈のリボンは誰が結んだのか。

「わかります。あなたのジレンマ……わかります」

 きりんの瞳が舞台の中央を見つめる。何時の間にか一人の女子生徒がいた。生徒は舞台は私の物と言うように仰向けで寝転がっている。

「今回の再演どうしちゃったのかなぁ……初めての事ばっかり」

 戸惑っているような台詞なのに声は脳天気だ。

「やっぱり……台本通りじゃなくっちゃっね」 

 あっけらかんとした声には意気込みを感じた。そして微かに声にはうねりがあった。

 低く決意に満ちているのに。意志を貫く強さ感じるのに。不安になる脆さが会場に響く。

「……わかります。あなたの強さ、望み、寂しさ、弱さ……わかります」

 慈愛に満ちた瞳が女子生徒に囁く。

「あなたのために……一つ演出を差し上げましょう。誰も予測できない、脚本家であり演出家でもあるあなたですら予想がつかない最高の、演出を」

 きりんが首をもたげて天井を仰ぐ。天井には舞台に立つ少女達を映えさせるスポットライトが敷き詰められている。だが、今は消灯していた。点灯していないライトは薄暗く、存在も覚束ない。

「もし最高の化学反応が起きたのならば、あなたにもこの気持ちがきっと……わかります」

 キリンが昂ぶった。前足が床を踏み鳴らす。大きな体躯が起こした振動は床を伝い、舞台を廻って、劇場の奥深くまで届く。

 劇場の最奧にはアカシアの木が一本生えていた。葉もなく枝もかさついた今にも倒れてしまいそうなアカシアの木を禍々しいまでに純粋なキリンの欲が揺らす。幹から朽ちる音がした。

 それでもアカシアの木は立っていた。触れたら崩れてしまいそうな痛々しい姿で。人を魅了するキラめきを失ってもなお、立っていた。キリン以外は誰にも気がつかれないままに。

 舞台では女子生徒の姿が消えていた。観客席のキリンの姿もなくなっている。

 誰もいなくなった劇場でオーディション開始の合図が鳴り響いた。

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