にゃーを飼いたい(大人ひびみく)

風や厳しい寒さが吹き始める11月下旬。
外を歩く人はコートやジャンパーを羽織り、首にはマフラーを巻いて防寒する。
屋内では暖房器具が設置されて、暖まった部屋で過ごす。
本格的な冬の到来に、響と未来も非番を利用して準備を開始した。
手始めに未来がエアコンのフィルターとファンヒーターの掃除を行う。
その間に響は押し入れから運び出した炬燵布団をベランダで干して、部屋に掃除機を掛ける。
手分けをした流れ作業は、短時間で暖房器具と部屋の掃除を完了させた。
掃除が終われば設置である。
ファンヒーターを持ち上げながら、未来に響は聞く。
「ファンヒーターは寝室でいいよね?」
「うん。お願い」
言われた通り、寝室に運んでコンセントを響は差す。
試しにスイッチを入れるとファンが回転し、吹き出し口から暖かい空気が流れ出た。
「 動く動く」
ついでに少しだけ手を温めて、響はスイッチを切る。
リビングに戻ると、エアコンが稼働していた。
ファンヒーターより静音だがモーターの駆動音が微かに聞こえる。
若干肌寒かった部屋が徐々に暖まっていく。
暖房の風に当たりながら響は言う。
「なんか冬ー。って感じがするよねー」
「そうだね」
外で木枯らしが吹いていても部屋着の上に一枚羽織れば屋内は過ごせた秋とは異なり、本格的な暖房器具がないと部屋の中でも寒いと思う冬。
こうして暖房器具の準備をすると、季節の変化をはっきりと実感する。
「炬燵布団はどれくらい干しておけばいいのかな?」
「仕舞う時にクリーニングには出してあるから、綿が膨らむくらいでいいと思うけど」
エアコンとファンヒーターの準備が整えば、残りはリビングの炬燵だけだ。
「じゃあ一時間か二時間くらい?」
「お天気も良いし、それくらいでいいんじゃないかな」
「そっかー」
待ち侘びている響はそわそわしている。
「響、炬燵好きだよね」
「冬はやっぱり炬燵と蜜柑だよっ!」
冬の定番に拳を握る響に未来は苦笑した。
未来としては炬燵はあってもなくても、どちらでもいい。
動きが鈍くなるから、ない方が良いとも思う。
けれど、響は炬燵に拘りがあるらしく、寒さが厳しくなり始めると炬燵炬燵と言い始めるのだ。
そんな響の意見が尊重されたリビングは冬になると炬燵が設置され、ソファーは座る家具ではなくただの背凭れになる和洋折衷の部屋が構築される。
「響、炬燵で寝ちゃ駄目だよ」
「う、うん。 解ってるよ」
そう言いながら、冬の間に数回は炬燵で響は寝てしまう。
元々、体が丈夫だからなのかただの幸いなのか、風邪をひくまでは至っていない。
とはいえ、体にはよいわけでもなく。
炬燵を出す度に未来は同じ会話を繰り返している。
ある意味、これも風物詩と言えるかもしれないと未来は思う。
「あとは待つだけだし、コーヒーでも淹れるね」
「うん。 ありがと、未来」
炬燵布団の乾燥は時間の問題だ。
折角の非番なのだから、のんびり待とうとダイニングへ未来は向かう。
コーヒーを待つ間にテーブルの上を片付けて、暫くは座らないであろうソファーに響は腰掛ける。
リモコンを取ってテレビのスイッチを入れると、取り留めも無くチャンネルを変えていく。
地上波で見たい番組がないと解ると今度はケーブルテレビに切り替える。
最近になって響と未来はケーブルテレビに加入した。
三交代制勤務の上に有事になると本部泊まり現場泊まりが当たり前の職についていると、通常の番組編成の波にはなかなか乗れない。
最初は録画機器で録画していたものの、今度は見る時間が取れなくて、結局見ないまま消していた。
日頃、命を賭している分だけ、休みの日くらいはテレビを着けて呆けたい時もある。
そう思った響の提案で、専門チャンネルが主流のケーブルテレビを導入しようと流れになったのだ。
未来もまた地上波では放送されない海外ドラマや映画の専門チャンネルに興味があったので、反対する事もなく了承した。
チャンネルを変えていた響の指がとあるチャンネルで止まる。
傍にあったクッションを抱えて見ているとコーヒーカップを二つ手にした未来が戻って来た。
「猫の番組?」
番組に映っている猫じゃらしで遊んでいる子猫とナレーションから予想した未来は聞く。
「うん。 チャンネル変えてたら何か気になっちゃって」
「……炬燵の準備をしてたからじゃない?」
「あ、そうかも」
炬燵、蜜柑、猫。
日本の冬の三点セットとも言えるような連想ゲームが響に動物チャンネルを選択させた。
コーヒーを啜りながら、未来に話し掛ける。
「未来は猫を飼いたいと思う?」
「猫は好きだけど、飼うのは考えた事ないかも」
「そうだよね。 今の仕事してるとなかなか難しいよね」
現場の響よりは管理職である未来はまだ規則的な勤務時間だが、有事になれば指揮に当たる。
そうなると、誰が面倒を見るのか、という問題が生じてしまう。
命を助けるために小さな命を犠牲にするわけにはいかない。
「響は猫を飼いたいの?」
「うーん、今は未来と同じ考えだけど。 いつかは飼いたいかな」
「いつかって?」
「…………定年退職してから、とか?」
もう第二の人生の計画である。
「かなり先の話だね……」
「……うん。 そうだね」
数十年先の計画に響と未来は苦笑いを隠せない。
「でも、それもいいかも」
こくりと、コーヒーを飲んで未来は微笑む。
現時点では想像はしづらいけれど。
このまま歳を重ねていけば、いずれは現役を退く時期が必ず来る。
その時もまだ響が隣にいてくれるのならば、悪くないと未来は思う。
「じゃあ、その時は犬も飼おうよ」
「犬も?」
「ほら、散歩って運動になるからボケ防止になるって言うし」
「……どれだけ先の話なの?」
「え? 名案だと思ったんだけど」
腕を組んで、響は考える。
「未来と一緒に、猫や犬の世話をするのも楽しそうだと思ったんだけどなー」
どうやら響の第二の人生計画には最初から未来の存在が在るらしく。
首を捻る響に思わず未来は問う。
「……響、意味は解ってる?」
「ん? なにが?」
「なんでもない」
コーヒーカップで顔を隠しながら響の様子を窺うと、テレビを見ながら可愛いと呟いている。
たまたま着けた番組により発せられた響の将来設計には当然のように未来が存在していた。
幸せだと未来は思う。
けれど、それはまだ何十年か先の話で、叶えるにはこれからも努力が必要だ。
暫く思考を巡らした末に、コーヒーカップをテーブルに未来は置いた。
そして、響の服の袖を引っ張って呼ぶと。
「にゃー」
一声、未来は鳴いた。
響が固まる。
「……え?」
「猫を飼うのは大分先の話だから、ちょっと真似してみたんだけど」
画面の中の猫に夢中な響が喜ぶかと思って取った未来の行動は、意外性が高すぎたらしく。
「え、ちょ、ま、へ」
再起動した響は大慌てだ。
「ま、待って! ちょっと待ってっ!!」
持っていたコーヒーカップを乱暴にテーブルに響は置く。
跳ねたコーヒーがテーブルに染みを作った。
「駄目だった?」
「駄目じゃないっ! 駄目じゃないからっ!!」
未来の両肩をがっしりと掴んで、響は言う。
「もう一度お願いします」
その真剣な眼差しは、発端である未来を引かせるには十分で。
「……やだ」
未来は断った。
「何でっ!?」
「響、真顔で真剣過ぎるもの」
「そんな事されたら真剣になるよっ!」
不意打ちだったせいで響は半分聞き流してしまった。
もう一度と願う響に未来は提案する。
「じゃあ、わん」
「へ?」
「響が、わん、って言ってくれたら、もう一回するね」
「え、えー……」
炬燵布団の陰干しを待つ間をテレビを見ながらのんびりするだけのつもりだった響に突然妙な試練が飛び込んで来た。
甘えたり情を表に出すのが苦手な未来の大出血サービスのような仕草をきちんと見たい、いや聞きたい、と響は思う。
しかし、それには試練をクリアしなければならない。
響は逡巡した。
これでもかというぐらいに頭を使って悩んだ。
そして。
「わ、わん……?」
一声、鳴いた。
そんな響に未来は手を差し出す。
「おて」
未来の手に響が右手を置く。
ご丁寧にグーを握っている。
「おかわり」
未来の手に響が左手を置く。
こちらもご丁寧にグーを握っている。
「って、ここまでしなきゃ駄目なのっ!?」
反射的に従ってしまった響は我に返った。
そんな響を抱き締めて、くすくす未来は笑う。
「響、可愛い」
「あまりいじめないで……」
「ごめんね」
お詫びと響の頬に未来は口付ける。
そして、約束通り響の耳元で。
「にゃー」
一声、鳴いた。
「あ、もう駄目」
脳天に直撃した鳴き声に、未来を思い切り抱き締めて、響は押し倒す。
予想外の行動に出られた未来の瞳が瞬く。
「ひ、響?」
狼狽える未来の唇を自分の唇で響は塞ぐ。
未来の喉が反った。
舌が絡み合い、唾液が顎を伝う。
呼吸が乱れ出した頃に、ゆっくりと響は唇を離す。
「お預けは、言われてない」
言う、響の瞳はもうお預けが出来る状態ではなくなっていて。
失敗したと未来は思う。
しかし、この状況を作ったのは未来のちょっとした悪戯心だ。
責任を取ろうと響の首に未来は腕を回す。
「今度、覚えてね」
「……無理」
拒否して、もう一度未来の唇を響は塞ぐ。
お互いの熱で体が熱くなる。
二人の間に冬の到来はなかった。

響×未来
ペニーワイズの利便性

久しぶりの二人っきりの旅行。一泊だけど任務のない羽根伸ばし。S.O.N.Gが用意するホテルとは異なる …

響×未来
保護中: 昨夜はお楽しみでした (18禁 (御礼リク))

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響×未来
保護中: かぷかぷしてる (みくひび 18禁)

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