逮捕しちゃうぞ フルスロットル DVDオリジナルより

 夜の帳が下り、マンションの駐車場で車が皆眠りにつく頃、よう

やく夏実と美幸は部屋に帰る事が出来た。

 一日の疲れを流すようにシャワーを浴び、身も心も綺麗にした夏

実はソファーに深々と腰掛ける。

「はー。今日も一日疲れたー」

 大きく伸びをして体の力を抜くと、合わせたように目の前にビー

ルの缶が置かれた。

「どうせ飲むんでしょ?」

 言う、美幸の手には長方形の盆が持たれている。

 上にはおつまみ用の豆腐サラダと野菜の炒め物、そして夏実の好

物であるビッグカツが数枚乗っていた。

「飲む飲む。サンキュー、美幸」

 魅力的な誘惑を素直に受け取り夏実はビールのプルタブを開ける。

「美幸もたまには飲まない?明日は非番なんだし」

「そう思って私の分も持ってきたわ」

 盆の隅に乗せた甘みのある酎ハイを美幸は見せた。

「おや珍しい」

 勧めておいて驚くのも失礼な話だが夏実は驚いた。

 酒豪の夏実と異なり、美幸は然程アルコールを口にしない。

 交通課の宴会や頼子達と食事に出掛けた時に付き合う程度だ。

 まだコンビを組んで間もない頃、夏実は聞いた事がある。

 飲めない訳でもないの何故飲まないのかと。

『理性を失うのは好きじゃない』

 美幸の答えは至極簡単で深かった。

 直感派の夏実とは真逆の美幸は理性を失うのを極端に怖がる節が

ある。

 感情よりも理知的に理論的に物事を組み立てようとする美幸にとっ

て、理性を失うのは自分を見失うのに近い行為で。

 そのきっかけとなるアルコールはあまり好きじゃないとの事だった。

 最も夏実と暮らすようになってからはそれも大分緩和され、勧め

れば家でも飲むようになった。

 それでも積極的に飲もうとする姿はなかなかお目にかかれない。

「どういう風の吹き回し?」

「たまには夏実にお付き合いしないとね」

「こりゃどうも」

 おどけるように笑って、腰を浮かした夏実は美幸のスペースを作る。

 盆の上のつまみをテーブルに移動させ、美幸は夏実の隣に座った。

 酎ハイのプルタブを開け、美幸は夏実に言う。

「今日も一日お疲れ様」

「美幸もね。お疲れ様」

 軽く缶をを合わせ、夏実と美幸はお互いを労った。

「それにしても、突然新人指導しろと言われた時はびっくりしたわぁ」

 言って、ビールを夏実は傾ける。

「あら。遅刻しなかったらそこまでびっくりしなかったと思うわよ」

「しょうがないじゃない。美幸が起こしてくれなかったんだから」

「ちゃんと起こしたわよ。ベッドの周りに証拠があったでしょ?」

「それは、あるにはあったけど・・・」

 目覚めた夏実の周囲は凄まじかった。

 何発打ったのか聞きたくもないBB弾の山。

 何で転がってるのか知りたくない溶けかけた氷の数々。

 何をしたのか聞かぬが仏の+と-の電極。

「片付けるの大変だったんだからね」

「起きない夏実が悪いんじゃない」

 言って、美幸は溜め息をつく。

「最近、寝坊が少なくなったなぁと思ってた矢先にこれなんだから」

「…だって、懐かしい夢見たんだもん・・・」

「懐かしい夢?」

「美幸と初めて会った時の夢」

 言って、夏実はビールを傾けた。

 喉を通る苦味が今朝見たばかりの思い出を蘇らせる。

「私さ。最初にコンビを組む時、美幸に性格合わないからコンビは

組めないって言ったでしょ」

「ええ」

「でもさ。その後の暴走車を追いかけている時に美幸は凄いと思い

直したんだよね」

 もう何年も前も昔の事の筈なのに。

 昨日の事のように思い出せるのは、夢のお陰だろうか。

 体に回るアルコールが記憶の波へと夏実を誘う。

「その時はモトコンポの吹き上がりが凄かったのが一番だったんだ

けど。美幸の考え方とか仕事への姿勢とか。話しているうちに、本

当に凄いと思ったのよ」

「夏実・・・」

「同居の話を持ち掛けられた時はびっくりもしたけど、しめた!と

も思ったなぁってね。そんな事を考えてたら遅刻しちゃったのよ」

 照れ臭いのか、夏実は大仰にビールを煽る。

 大きな口を開けて息を吐くと、静かな声が耳に届いた。

「…そうね。私もあの時の事は覚えてるわ」

 酎ハイを軽く口に含む美幸の頬は紅が差している。

 アルコールが回り始めているのだろう。

「初日から遅刻する人は初めてだったもの」

 覚えて無くても良い痛い思い出を言われ、夏実は滑った。

「迎えに行ったら歩道をモトコンポで暴走してるじゃない。追いか

けたら追いかけたでバイクを抱えてお寺の境内すら登って行くんだ

もの。思わず私も燃えちゃった」

「美幸ぃー…」

 情けない声でか細く泣くと、おかしそうな笑い声が止めを刺した。

 自分のしでかした事とはいえ、あんまりだと夏実は思う。

「でもね。少しも憎めなかったのよ」

 ふと、笑いが止まった。

 見つめる夏実に柔らかい微笑みが言う。

「時間にルーズな人はあまり好きじゃないのに、夏実だけは嫌いに

なれなかった。それどころかもっと知りたいと思ったの」

 不思議よねと苦笑した美幸が懐かしそうに宙を見つめた。

 懐かしい思い出に思いを馳せているであろう視線を夏実もまた追う。

 美幸の台詞はそのまま夏実の気持ちも代弁していた。

 出会った時の印象を一瞬にして打ち消した凄さを差し引いても夏

実にとって美幸は苦手なタイプの人種だ。

 仕事上の付き合いだけならともかく。

 同居などまず考えられない。

 その証拠に同居したばかりの頃は喧嘩が絶えなかった。

 本気でコンビ解消を考えた事もある。

 なのに、気づくと美幸を探す自分がいた。

 何があっても、美幸だけは嫌いになれなかった。

「運命、なのかねぇ」

「え?」

「ほら、かおりちゃんとさくらちゃんが言ってたじゃない。私達が

出会ったのは運命だったんですね。って」

「あぁ…」

 思い出したのか美幸は夏実へと視線を移す。

「夏実はどっちだと思う?」

「私?私はー……」

 逆に問われて、夏実は首を捻った。

 出会ってから数年。

 移動や研修で分かれては、また共に在る。

 それを何度も夏実と美幸は繰り返して来た。

 警察社会を考えれば、それ程あり得る事例では無いだろう。

 夏実の心情的にも美幸以外が隣にいる事は考えられない。

 離れて、連絡が取れない時間が続いても心の中には美幸しかいな

かった。

 それは運命の出会いと言っても過言では無いのかも知れない。

 しかし、夏実には言い切るだけの根拠がなかった。

 そもそもどうすれば運命の出会いだと言えるのかが解らない。

「駄目。私には解んないわ」

 考えれば考える程、そうとも言えて、そうとも言い切れない問答

に夏実はお手上げと考えるのを止めた。

「夏実らしいわね」

「でも、これだけは言えるよ」

 手にしたビールの缶を持ち上げて、美幸を夏実は見つめる。

「これからも宜しく。相棒」

 この出会いが運命とは言えないけれど。

 美幸以外の相棒はいない確信はある。

「こちらこそ宜しくね。相棒」

 今までの様に。

 今まで以上に続く、たった一人の相棒に感謝して。

 夏実と美幸は缶を鳴らした。

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お粗末な即興です(爆)
本当はもちっと艶っぽくするつもりがえらい爽やか路線になってもうたー・・・・・・。
一応サブタイトルは『相棒』って事でどないだ?

鈴様
コメントありがとうございますm(__)m
夏実×美幸良いですよね-。
お仲間さんがいてくれて嬉しいです。
なんだかよく解らないチャンポンサイトですが(新しいカテゴリーできてるし)夏実×美幸も頑張って更新します!
コメントありがとうございました-。

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