六課のバレンタインデーも終業の時刻と共に終わりを告げようとしていた。
本日は夜勤組と待機組以外の隊員は出動でもない限り残業も不可だ。
はやて曰く。
『遠足は家に帰るまでが遠足や』
という事らしい。
定時に上がるなんて何時ぶりだろうか。
作成した資料を纏めながら、ぼんやりとフェイトは思う。
明日からの仕事を考えると、残業したい気もする。
しかし、こんな機会でもなければ早く帰る事はあまり、無い。
今日ははやての好意に甘えて、なのはとヴィヴィオとゆっくりしよう。
そんな父親のような事を考えながら、資料をホチキスで止めると、オ
フィスのスピーカーがざわついた。
『高町教導官、ナカジマ二等陸佐。至急、部隊長室まで来てや』
誰からの呼び出しか一発で解る局内放送と。
「にゃ!」
「うわっ」
重なるように聞こえた二つの悲鳴。
「なのはと……スバル、かな?」
声のした方向と記憶からフェイトは声の主を探る。
答え合わせのつもりで二人を見ると、顔を見合わせて苦笑いをしていた。
どうやら当たりのようだ。
しかも表情から察するに、呼び出される心当たりがあるらしい。
「……しょうがない、行こうか。スバル」
「そう、ですね……」
渋々と言った風体で、立ち上がるなのはとスバルの足は重かった。
明らかに気が乗っていない。
呼び出しを掛けたのは間違いなく、はやてだ。
緊急の出動要請が入った可能性もあるが、あの口調ではその可能性は
無いだろう。
「何をしたんだろう…」
何となく。
殆ど虫の知らせと言ってもいい位の勘ではあるけれど。
二人でとんでもない事をしでかした気がしてならない。
『フェイト分隊長。部隊長室までお越し下さい』
「え?」
再び響いた局内放送にフェイトは驚いた。
これで呼び出されたのは、なのはとスバルと自分自身の、合計三人と
いう事になる。
その内、二人は隊長クラス。
そして、スバルもフォワード陣では一番の実力者といっても良いだろう。
勝手にはやてのお小言の呼び出しだと思っていたけれど。
本当に出動要請が飛び込んで来たのかもしれない。
なのはとスバルにごめんと心で謝りつつ、フェイトは部隊長室へ急いだ。
「八神部隊長。ハラオウンです」
「あーフェイトちゃんかー。入ってやー」
「え、と、はい。失礼します」
呼び出しとは真逆の口調に惑いつつ、フェイトは扉を開けた。
「フェイトちゃん、呼び出してごめんなー」
「大丈夫だよ。それよりも緊急の出動が入った……」
言いかけた言葉を、フェイトは飲み込んだ。
「……って、訳じゃなさそうだね」
代わりに、目の前の情景に額を押さえる。
「せや。だから安心してや。この二人にはある意味、非常事態かもしれ
へんけどな」
「みたい、だね」
先に呼び出されていたなのはとスバルは、どこから調達してきたのか
解らないパイプ椅子に座らされていた。
二人の前には、これまたどこから持ってきたのか知れない折り畳み式
の長机が組立てられている。
なのはもスバルもその上で何かを必死で書いていた。
その向かい側には同様のパイプ椅子が一つ。
背凭れに脱いだ制服のジャケットを掛けたはやてが呆れた様子で座っ
ている。
「はやて、なのはとスバルは何をやったの?」
「フェイトちゃん開口一番がそれなの!?」
「あ、ご、ごめん」
「フェイトちゃんは謝らんでええよ。当たっとるから」
怒るなのはに、反射的に謝るフェイトを、すかさずはやてはフォローした。
「ええからなのはちゃんは、スバルを見習ってさっさと書き」
「うぅ…。ちゃんとはやてちゃんの分のコーヒーも淹れたのにー…」
「何や。あれは買収材料やったんか?」
「ち、違うよ!ちゃんと感謝の意味で、はやてちゃんに淹れたよ!!」
「なら、大人しく反省文書こな」
懐かしい単語を聞いて、はやてにフェイトは聞く。
「反省文?始末書じゃないの?」
「今んとこは、反省文」
「どちらにせよ、反省しなきゃいけない事はしたんだ」
違いはよく解らないが、どうやらフェイトの勘は当たっていたらしく。
なのはとスバルが何かをやったのは間違いないようだった。
しかし、どんな問題を起こしたのかまでは、まだ知れない。
「はやて、二人はどんな問題を起こしたの?」
「問題って……フェイトちゃん酷い」
「ほんまの事やろ」
「うっ」
腕を組んで睨むはやてに、なのはは縮こまる。
「本局に報告されたなかったら、はよ書き」
本局の名にフェイトは驚いた。
六課が機動してからずっと、はやては煩い上層部の盾になってくれている。
そのはやてが、冗談とはいえ本局を出すという事は……。
「はやて、どうなってるの?」
「あぁ、たいした事やないで」
振り返ったはやては、フェイトの不安を煽るくらい良い笑顔だった。
「今日のお昼にちょこっと。不可視魔法やら何やらを駆使して、飛行許
可も取らずに全力全開で飛び回りながら、本局のセンサーを潜り抜けた
だけや」
「………十分だね」
本局に知れたら間違いなく呼び出しだ。
ついでに減棒も確実に付いてくるだろう。
「あれ?でもスバルは飛行魔法使えなかったよね?」
それを補う為にスバルのデバイスはローラーブーツ型で、空に道を創
る魔法を習得している。
「あたしは、なのはさんの指示に従ってウイングロードを展開しまして…
…はは」
「スバル、成長したね……」
なのはが全力全開で飛べば、フェイト程でないとはいえ、かなりの飛
行速度になる。
そのなのはに付いていけたと言うのは、大変喜ばしい成長だ。
しかし、もっと素直に喜べる状況で知りたかったとフェイトは思う。
「まぁ、私が配置したセンサーに捕らえられたのが命取りやったけどな」
本局を出し抜けたのが嬉しいのか、はやては満足そうだ。
「…だって、あんな所にセンサーを配置してるなんて聞いてなかったも
ん…」
「当然や。あれは本局に無断で配置しとるからな。言える訳ないやんか」
「それも十分だよ……」
「平和の為や」
こっちはこっちで、十分呼び出されて減棒になりそうな事をしている。
機動六課は一年と定められている、試用部隊だ。
解散を余儀なくされているのは寂しいと思っていたけれど。
解散した方が平和な気がフェイトはした。
「とりあえず、状況は理解できたよ」
本来ならば、本局に報告しなければならない違反行為ではあるが、幸
いな事にそれを知っているのは、はやてのみ。
元々情に厚いはやては、なのはとスバルの不始末を本局に報告はした
くない。
また、違反を知り得た手段を知られるのもまずい。
しかし、なのはとスバルには反省をしてもらわないと困る。
その全てを考慮した結論が、始末書ではなく、反省文のようだ。
「反省文以外にもペナルティはあるの?」
「いや、特に問題を起こした訳ではあらへんみたいやし。これでお仕舞
いにするつもりやよ」
「そっか」
温情のあるお叱りにフェイトは安心した。
「それじゃあ、二人ともしっかり書かないとね」
「……フェイトちゃんの意地悪ー……」
弁護されなくて不満そうな、なのはも困りものだが。
「はい!しっかり反省します!!」
反省していても元気なスバルも少し困りものだと、フェイトは思う。
「それにしても、はやて」
なのはとスバルに配布された用紙を見ながらフェイトは聞く。
「よく原稿用紙なんて持ってたね」
反省文に利用されている用紙はマス目で覆われた400字詰めの原稿用紙だ。
仕事ではまず使用する事はない。
「思い出深い学生時代の名残や」
「お陰で、私は本当に補習を受けてる気分だよ…」
しみじみとするはやての物持ちの良さに、苦い思い出をなのはは思い
出しているらしい。
「違反したなのはちゃんが悪いんやで」
「そうだよ。なのは」
「うぅ。解ってるけど……」
こればかりは、はやてが正しいとフェイトは同意して。
「ちゃんと反省しなきゃ駄目だよ」
「せや。違反は誰にも解らへんようにやらんとあかんもんや」
「…それはもっと駄目だよ」
怒る場所が違うはやてをフェイトは否定した。
「それで、はやて」
これ以上、話をしていると親友達の将来が心配になりそうで。
「私は何をすればいいのかな?」
呼び出された理由をフェイトは聞く。
「あぁ。反省文が書き終わるまで、この似た者師弟の監視をお願いでき
へんやろか?」
「それは構わないけど。はやては?」
「私はちょっとやる事が出来たもんで。後をお願いしたいんよ」
「仕事?」
「半分は、な」
「残り半分は?」
「折角、エースオブエースとその直属の部下がええデータくれたんや。
使わな勿体無いと思わへん?」
「……違法行為だけは駄目だよ」
なのはとスバルのデータを、どこで、どの様に、どう利用するつもり
なのか。
計り知れない爽やかな笑顔に、フェイトは注意を促す。
「大丈夫やって。ほな、フェイトちゃん後頼むな」
「書き上がった反省文は私が預かっておけば良いのかな?」
「あー。私のデスクの一番上の引き出しにでも放り込んどいてくれるか」
「了解」
「じゃあ宜しゅうー」
ジャケットを羽織って、部屋を出て行くはやては喜々としていた。
念のため、後で探りを入れておこうと決意して、空いた椅子にフェイ
トは腰を下ろす。
なのはとスバルに視線を向けると、二人とも真剣に原稿用紙に向かっ
ている。
何だかんだと言いつつも本当に反省はしているのだろう。
進み具合を覗うと、原稿用紙の半分程度が埋まっている。
この調子なら、あと数十分で無罪放免だ。
特に問題なく終わりそうなはやてのお叱りに安心して、胸に仕舞って
いた事をフェイトは口にする。
「……私なら20分くらい、かな」
「え?」
顔を上げたなのはに、フェイトは言う。
「ショッピングモールまでの往復」
「―――っ!」
顔色の変わったなのはに、確信する。
車やレールでショッピングモールまで行って買い物をするには1時間
という時間は短い。
しかし、全力全開で飛んで行けば、片道程度の時間で往復出来る。
足りない分のコーヒー豆を用意する事も可能だ。
「皆にお礼がしたいって気持ちは解るけど、違反行為したら意味が無いよね」
「う…」
「スバルにまで手伝わせて。なのははもう止める立場なんだから」
「う、うん…ごめんなさい」
素直に謝るなのは、恐らくはやてからも同様に怒られているだろう。
だからこそ、反省文という事になっている筈で、その意味も理由もな
のははしっかり受け止めている。
「もうしちゃ駄目だよ」
「……はい」
これ以上、怒っても良い結果にはならないと判断して、もう少し言い
たい気持ちを溜め息にしてフェイトは締めた。
「あ、あの!」
「スバル?」
「悪いのはあたしなんです」
「え?」
挙手して、告白するスバルをフェイトを見る。
「あたしがチョコレートを焦がしちゃったからっ」
「チョコレート?」
規定違反とチョコレートを焦すのがどう繋がるのか。
把握しきれないフェイトは首を傾ぐ。
「いいよ、スバル。フェイト隊長が言ってる事は正しいんだから」
「で、でも。あたしがあそこで失敗しなかったら」
「スバルは初めてだったんだから失敗は当然だよ。私が注意していれば
済んだ事だしね」
「で、でもっ!」
お互いを庇い合う師弟は美しく、微笑ましい、けれど。
けれど、今の会話だけではバレンタインデーが関わっているという事
以外は解らない。
「あ、あの……」
混乱し始めたフェイトは、観念したかの様に控え目に挙手した。
なのはとスバルの視線がフェイトに向く。
「最初から、説明してくれない、かな……」
「ふぇ?」
「あ」
二人の声がはもった。
困り顔で言葉を待っていると、なのはとスバルが声を出して笑い出す。
はやてが称してたように、似た者師弟の息はぴったりだった。
すっかり置いてけぼりになったフェイトはティアナを呼びたいと思う。
「ご、ごめんね。フェイトちゃん」
一頻り笑ったなのはは、目尻に溜まった涙を拭った。
「本当は隠しておきたかったんだけど。ちゃんと、お話するね」
「う、うん。お願い」
真っ直ぐ向き直るなのはに、フェイトもまた話を聞く体勢を整える。
「あのね。私、バレンタインデーを忘れてたって言ったけど、本当は覚
えてたの」
「やっぱり」
覚えてなければ、あのタイミングでホットチョコレートは用意出来ない。
「でも、フェイトちゃんは本当に忘れてたみたいだったから。私だけ覚
えてたの知ったら、変に気にしちゃうかなと思って」
「うっ」
実際、ずっと気にしていたフェイトは何も言えない。
「だから、一日ずらして、明日チョコレートを渡そうと思ってたんだけど」
そこで言葉を切って、なのはは上目遣いでフェイトを見つめる。
「フェイトちゃん、凄い落ち込んじゃってたから……」
前倒しにした、というなのはに、フェイトは気づいた。
「ご、ごめん!」
仕事が忙しかったらしょうがない。
その言葉をなのはに言わせたのは、誰でもないフェイト自身だった事に。
「私が忘れたりしたからっ!」
「それはいいの。今、フェイトちゃんがとても忙しいのは解ってるから」
顔の前で手を振って言う、なのはは怒っていない。
しかし、それが返ってフェイトを居たたまれなくする。
「で、でも!」
「本当にいいの。一緒にいられるだけで私は嬉しいし、ね?」
「……なのは」
頬に赤味が差したなのはは、フェイトと同じ想いで、立場も理解して
くれていた。
嬉しさと申し訳ない気持ちで、思わず涙腺が緩む。
しかし、零れそうになる寸前で、フェイトは堪える。
「そ、それでね。皆にコーヒーを配った時に、その、フェイトちゃんに
はホットチョコレート…あげた、よね?」
「う、うん」
とても吃驚したけれど。
今まで一番甘くて、美味しかった。
「作ってたらスバルもティアナにやりたいって言うから、教えたんだけど」
なのはが隣のスバルへ視線を流すと、乾いた笑みが頭を掻きながら続ける。
「いやぁ。初めてだったもので、チョコレートを溶かす時に焦しちゃい
まして……」
「材料が足りなくなっちゃったの」
「……すみません」
ぺこりと、スバルが頭を下げた。
「私もフェイトちゃんとヴィヴィオの分くらいしか用意してなかったか
ら、分ける事ができなくって」
「それで、買いに行ったんだ」
「うん。元々、スバルにはコーヒー豆をお願いしてたからそのついでに、ね」
「そっか」
暫く話を聞いていた、フェイトは、頭の隅に引っ掛かっていた疑問が
解けた。
お昼頃、帰って来たなのはとスバルが何故バリアジャケットを纏って
いたのか。
皆へのコーヒーを配り終えた時、どうして、様子がおかしかったのか。
顔色が悪かったのは、フェイトが知れば心配しながら怒られると思っ
ていたからだろう。
頭の中で記憶になのはの説明を付けて整理したフェイトは、重大な事
に気づいた。
「あれ?なのは、もしかして最初からスバルに違反行為させるつもりだっ
たの?」
ホットチョコレートが上手く出来たとしても、コーヒー豆を買いに行
かせるつもりだったのなら、スバルの規定違反は最初から計画に組み込
まれていた事になる。
「ち、違うよ!スバルがお店に詳しいって言ったのは本当なの!!」
慌てて否定したなのはフォローをお願いするようにスバルを見た。
「ティアナとよく買いに行くので、あたし比較的近くて良い店を知って
るんです」
「そっか。良かった…」
その視線に応えたスバルの言葉に、フェイトは胸を撫で下ろす。
「でも、どうするつもりだったの?」
「ヴァイス君からオートバイを借りてそのお店に行ってもらう予定だっ
たの。それでギリギリ間に合いそうだったから」
「なるほど、ね」
オートバイなら渋滞もないし、小回りも利く。
車やレールを利用するよりもかなり時間は短縮される。
「でも、スバルはホットチョコの材料を売ってる店は知らなかったから……」
「なのはも一緒に行く事にしたんだ」
「そんな、感じ……かな」
ここで規定違反を覚悟したらしく。
なのはは、曖昧に笑う。
「フェイトちゃんは知ってるけど、ああいうお店って、モールでも奧の
方にあるじゃない?」
「あぁ、そうだね」
以前、なのはと買い物に行った時のお店は飲食店も兼ねていたせいか、
モールの奧にある食堂街にお店を構えていた。
「モール内はオートバイ入れないし、お店の場所も知らないと時間が掛
かっちゃう。とか考えてたら……つい、全部飛んじゃえとか思っちゃって」
「飛んじゃえ、って……なのは」
にゃははと、笑うなのはにフェイトは額を押さえた。
細かい事を一切ぶち抜く砲撃手らしい考え方ではあるけれど。
それは、任務の時だけにして欲しいと思う。
「だ、だって!スバルの気持ち……解っちゃうんだもん……」
語尾が小さくなっていった声にフェイトは顔を上げた。
心なしか、なのはの頬に赤みが差している
「私も、やっぱりバレンタインデーはチョコレートあげたいと思うし。
喜んでくれたら、もっと嬉しいし……」
「……なのは」
なのはが言いたい事は痛い程、フェイトには理解出来る。
フェイト自身もなのはにチョコレートをあげる時は、喜んでくれたら
嬉しいと考えたりする。
そして、喜んでくれると、もっと嬉しくなる。
好きな気持ちで胸が一杯になって、愛しくなる。
そんな想いを知っているからこそ、スバルに協力して、なのはは無茶
をしたのだろう。
もしも、自分がなのはの立場だったら。
考えると、フェイトには怒るに怒れなくなった。
なのは程の無茶はしないにしても、きっと出来る限りの協力はする。
「それに、私も」
両手の指を引っ付けて、ぽつんとなのはは言う。
「ホワイトデーを体験してみたいなぁ。なんてのもあって」
「え?でも、ホワイトデーは何時も交換してるよね?」
「うん。交換はしてるけど……お返しは貰った事、ないよね?」
「あ、あぁ…うん」
なのはとバレンタインデーにチョコレートを交換するのは、毎年の恒例。
そして、ホワイトデーもお返しと言いながら、交換し合っている。
そう、何時も交換で。
お返しはした事がない。
「フェイトちゃんが忘れてるなんて滅多にないから。チャンスだとか思っ
たりもなんかしちゃって……」
「そ、そっか」
完全に真っ赤になってしまったなのはに、フェイトは困った。
こんな事を言われたら、もう注意もできない。
それどころか、今直ぐ抱き締めたいとすら思ってしまう。
しかし、なのはの隣にはスバルがいる。
それは、出来ない。
溢れる情に流されそうになる弱い心を止めようと、頭の中で局員規定
を第1条からフェイトは大声で読み上げる。
「でも、はやてちゃんにバレちゃって。フェイトちゃんにまで迷惑を掛
けちゃったよね」
「そ、そんな事ないよ!」
なのはの気持ちは嬉しい。
ホットチョコレートも本当に美味しかった。
結果的には、規定違反になってはしまったが、迷惑だとは少しも思っ
てはいない。
「全然、迷惑じゃないから」
「本当?」
「うん。その、嬉しかったよ」
なのはの瞳を見つめて、フェイトは言った。
「良かった。ありがとう、フェイトちゃん」
ホッとしたように、ふわりとなのはが微笑む。
「………っ」
限界だった。
「スバル」
「はい?」
つい、と指先を伸ばして、フェイトはスバルの原稿用紙の一部を叩く。
「ここの字、間違ってるよ」
「えっ?」
フェイトの指先を追って、スバルが原稿用紙を覗き込む。
『なのは』
同時に、フェイトはなのはに念話を飛ばす。
「ふぇ?」
呼ばれて、顔が上がる一瞬を見計らって、フェイトは腰を浮かした。
重なる柔らかい感触。
「…………え?」
何が起きたのか解らないと言った顔に微笑んで、フェイトは耳元で囁く。
「無茶をした、お仕置き」
「――――っ!!」
耳を押さえたなのはがフェイトを避けるように立ち上がった。
パイプ椅子が大きく揺れ、カタカタと足踏みする。
「なのはさん!?」
「スバルは反省文を書いててっ!!」
「は、はいっ!」
上司の叫びに近い声に背筋を伸ばして、スバルは原稿用紙に向かった。
そんな、なのはの瞳は羞恥からか、潤み気味だ。
可愛いな、なんて思いながら見つめていたフェイトだが。
「スバル。私の見間違いだったみたい。その字、合ってるよ」
つと、思い出したようにスバルに言う。
「そうなんですか?」
「うん、ごめん」
これは、騙した事に対する謝罪。
「なんだー。良かったー」
「ごめんね。スバル」
これは、なのはの八つ当たりに対して。
「そんなに謝らなくても大丈夫ですよー」
けれど、スバルはその真意には気づかない。
残り数行を埋めようと、頑張り始める。
「ほら。なのはも書かないとスバルに負けちゃうよ」
トンと、なのはの原稿用紙を指で叩くと、まだ赤い顔が無言で席に座った。
誰のせいで中断したと思っているのか。
睨むような瞳が文句を言う。
けれど、そんな顔も可愛いな、なんて思っているフェイトには効果がない。
「早く終わらせて帰ろう。なのは」
さらりと反省文の続きを促す。
まだ念話を使う余裕もないまま書かれた最後の数行は、文字が踊っていた。
バラして、バラされて、ハッピーエンド。
これで全部終わりm(__)m
……やっと終わったー……。