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Archive for 2月, 2009

拍手レス(09/02/22)

日曜日, 2月 22nd, 2009

みもりん 様
お久しぶりです-。
って、年越しのレスですみません!(滝汗)
ご無沙汰しておりますが、今年も宜しくお願い致しますm(__)m

アイル 様
コメントありがとうございますー。
長くても構わないですか?
そう言って頂けると嬉しいです。っていうか、助かります(笑)
外堀から埋める書き方しかできないので基本的に長くなりがちです。
サイト用はなるべく短めを心がけてはいるんですけどね(^^;
そんなんでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。
ありがとうございますm(__)m
あ、「多分」は何かありました(笑)
良ければこちらもご覧下さい。

リリカルなのは フェイト×なのは

日曜日, 2月 22nd, 2009

リリカルなのはの、フェイト×なのはに、SSを1本追加しましたー。
タイトルは、
『バレンタインデー 当日(ネタバラシ)』
だす。
これでおわり。
あと、拍手レスも今からしますです。

バレンタインデー 当日(ネタバラシ)

日曜日, 2月 22nd, 2009

 六課のバレンタインデーも終業の時刻と共に終わりを告げようとしていた。

 本日は夜勤組と待機組以外の隊員は出動でもない限り残業も不可だ。

 はやて曰く。

 『遠足は家に帰るまでが遠足や』

 という事らしい。

 定時に上がるなんて何時ぶりだろうか。

 作成した資料を纏めながら、ぼんやりとフェイトは思う。

 明日からの仕事を考えると、残業したい気もする。

 しかし、こんな機会でもなければ早く帰る事はあまり、無い。

 今日ははやての好意に甘えて、なのはとヴィヴィオとゆっくりしよう。

 そんな父親のような事を考えながら、資料をホチキスで止めると、オ

フィスのスピーカーがざわついた。

『高町教導官、ナカジマ二等陸佐。至急、部隊長室まで来てや』

 誰からの呼び出しか一発で解る局内放送と。

「にゃ!」

「うわっ」

 重なるように聞こえた二つの悲鳴。

「なのはと……スバル、かな?」

 声のした方向と記憶からフェイトは声の主を探る。

 答え合わせのつもりで二人を見ると、顔を見合わせて苦笑いをしていた。

 どうやら当たりのようだ。

 しかも表情から察するに、呼び出される心当たりがあるらしい。

「……しょうがない、行こうか。スバル」

「そう、ですね……」

 渋々と言った風体で、立ち上がるなのはとスバルの足は重かった。

 明らかに気が乗っていない。

 呼び出しを掛けたのは間違いなく、はやてだ。

 緊急の出動要請が入った可能性もあるが、あの口調ではその可能性は

無いだろう。

「何をしたんだろう…」

 何となく。

 殆ど虫の知らせと言ってもいい位の勘ではあるけれど。

 二人でとんでもない事をしでかした気がしてならない。

『フェイト分隊長。部隊長室までお越し下さい』

「え?」

 再び響いた局内放送にフェイトは驚いた。

 これで呼び出されたのは、なのはとスバルと自分自身の、合計三人と

いう事になる。

 その内、二人は隊長クラス。

 そして、スバルもフォワード陣では一番の実力者といっても良いだろう。

 勝手にはやてのお小言の呼び出しだと思っていたけれど。

 本当に出動要請が飛び込んで来たのかもしれない。

 なのはとスバルにごめんと心で謝りつつ、フェイトは部隊長室へ急いだ。

「八神部隊長。ハラオウンです」

「あーフェイトちゃんかー。入ってやー」

「え、と、はい。失礼します」

 呼び出しとは真逆の口調に惑いつつ、フェイトは扉を開けた。

「フェイトちゃん、呼び出してごめんなー」

「大丈夫だよ。それよりも緊急の出動が入った……」

 言いかけた言葉を、フェイトは飲み込んだ。

「……って、訳じゃなさそうだね」

 代わりに、目の前の情景に額を押さえる。

「せや。だから安心してや。この二人にはある意味、非常事態かもしれ

へんけどな」

「みたい、だね」

 先に呼び出されていたなのはとスバルは、どこから調達してきたのか

解らないパイプ椅子に座らされていた。

 二人の前には、これまたどこから持ってきたのか知れない折り畳み式

の長机が組立てられている。

 なのはもスバルもその上で何かを必死で書いていた。

 その向かい側には同様のパイプ椅子が一つ。

 背凭れに脱いだ制服のジャケットを掛けたはやてが呆れた様子で座っ

ている。

「はやて、なのはとスバルは何をやったの?」

「フェイトちゃん開口一番がそれなの!?」

「あ、ご、ごめん」

「フェイトちゃんは謝らんでええよ。当たっとるから」

 怒るなのはに、反射的に謝るフェイトを、すかさずはやてはフォローした。

「ええからなのはちゃんは、スバルを見習ってさっさと書き」

「うぅ…。ちゃんとはやてちゃんの分のコーヒーも淹れたのにー…」

「何や。あれは買収材料やったんか?」

「ち、違うよ!ちゃんと感謝の意味で、はやてちゃんに淹れたよ!!」

「なら、大人しく反省文書こな」

 懐かしい単語を聞いて、はやてにフェイトは聞く。

「反省文?始末書じゃないの?」

「今んとこは、反省文」

「どちらにせよ、反省しなきゃいけない事はしたんだ」

 違いはよく解らないが、どうやらフェイトの勘は当たっていたらしく。

 なのはとスバルが何かをやったのは間違いないようだった。

 しかし、どんな問題を起こしたのかまでは、まだ知れない。

「はやて、二人はどんな問題を起こしたの?」

「問題って……フェイトちゃん酷い」

「ほんまの事やろ」

「うっ」

 腕を組んで睨むはやてに、なのはは縮こまる。

「本局に報告されたなかったら、はよ書き」

 本局の名にフェイトは驚いた。

 六課が機動してからずっと、はやては煩い上層部の盾になってくれている。

 そのはやてが、冗談とはいえ本局を出すという事は……。

「はやて、どうなってるの?」

「あぁ、たいした事やないで」

 振り返ったはやては、フェイトの不安を煽るくらい良い笑顔だった。

「今日のお昼にちょこっと。不可視魔法やら何やらを駆使して、飛行許

可も取らずに全力全開で飛び回りながら、本局のセンサーを潜り抜けた

だけや」

「………十分だね」

 本局に知れたら間違いなく呼び出しだ。

 ついでに減棒も確実に付いてくるだろう。

「あれ?でもスバルは飛行魔法使えなかったよね?」

 それを補う為にスバルのデバイスはローラーブーツ型で、空に道を創

る魔法を習得している。

「あたしは、なのはさんの指示に従ってウイングロードを展開しまして…

…はは」

「スバル、成長したね……」

 なのはが全力全開で飛べば、フェイト程でないとはいえ、かなりの飛

行速度になる。

 そのなのはに付いていけたと言うのは、大変喜ばしい成長だ。

 しかし、もっと素直に喜べる状況で知りたかったとフェイトは思う。

「まぁ、私が配置したセンサーに捕らえられたのが命取りやったけどな」

 本局を出し抜けたのが嬉しいのか、はやては満足そうだ。

「…だって、あんな所にセンサーを配置してるなんて聞いてなかったも

ん…」

「当然や。あれは本局に無断で配置しとるからな。言える訳ないやんか」

「それも十分だよ……」

「平和の為や」

 こっちはこっちで、十分呼び出されて減棒になりそうな事をしている。

 機動六課は一年と定められている、試用部隊だ。

 解散を余儀なくされているのは寂しいと思っていたけれど。

 解散した方が平和な気がフェイトはした。

「とりあえず、状況は理解できたよ」

 本来ならば、本局に報告しなければならない違反行為ではあるが、幸

いな事にそれを知っているのは、はやてのみ。

 元々情に厚いはやては、なのはとスバルの不始末を本局に報告はした

くない。

 また、違反を知り得た手段を知られるのもまずい。

 しかし、なのはとスバルには反省をしてもらわないと困る。

 その全てを考慮した結論が、始末書ではなく、反省文のようだ。

「反省文以外にもペナルティはあるの?」

「いや、特に問題を起こした訳ではあらへんみたいやし。これでお仕舞

いにするつもりやよ」

「そっか」

 温情のあるお叱りにフェイトは安心した。

「それじゃあ、二人ともしっかり書かないとね」

「……フェイトちゃんの意地悪ー……」

 弁護されなくて不満そうな、なのはも困りものだが。

「はい!しっかり反省します!!」

 反省していても元気なスバルも少し困りものだと、フェイトは思う。

「それにしても、はやて」

 なのはとスバルに配布された用紙を見ながらフェイトは聞く。

「よく原稿用紙なんて持ってたね」

 反省文に利用されている用紙はマス目で覆われた400字詰めの原稿用紙だ。

 仕事ではまず使用する事はない。

「思い出深い学生時代の名残や」

「お陰で、私は本当に補習を受けてる気分だよ…」

 しみじみとするはやての物持ちの良さに、苦い思い出をなのはは思い

出しているらしい。

「違反したなのはちゃんが悪いんやで」

「そうだよ。なのは」

「うぅ。解ってるけど……」

 こればかりは、はやてが正しいとフェイトは同意して。

「ちゃんと反省しなきゃ駄目だよ」

「せや。違反は誰にも解らへんようにやらんとあかんもんや」

「…それはもっと駄目だよ」

 怒る場所が違うはやてをフェイトは否定した。

「それで、はやて」

 これ以上、話をしていると親友達の将来が心配になりそうで。

「私は何をすればいいのかな?」

 呼び出された理由をフェイトは聞く。

「あぁ。反省文が書き終わるまで、この似た者師弟の監視をお願いでき

へんやろか?」

「それは構わないけど。はやては?」

「私はちょっとやる事が出来たもんで。後をお願いしたいんよ」

「仕事?」

「半分は、な」

「残り半分は?」

「折角、エースオブエースとその直属の部下がええデータくれたんや。

使わな勿体無いと思わへん?」

「……違法行為だけは駄目だよ」

 なのはとスバルのデータを、どこで、どの様に、どう利用するつもり

なのか。

 計り知れない爽やかな笑顔に、フェイトは注意を促す。

「大丈夫やって。ほな、フェイトちゃん後頼むな」

「書き上がった反省文は私が預かっておけば良いのかな?」

「あー。私のデスクの一番上の引き出しにでも放り込んどいてくれるか」

「了解」

「じゃあ宜しゅうー」

 ジャケットを羽織って、部屋を出て行くはやては喜々としていた。

 念のため、後で探りを入れておこうと決意して、空いた椅子にフェイ

トは腰を下ろす。

 なのはとスバルに視線を向けると、二人とも真剣に原稿用紙に向かっ

ている。

 何だかんだと言いつつも本当に反省はしているのだろう。

 進み具合を覗うと、原稿用紙の半分程度が埋まっている。

 この調子なら、あと数十分で無罪放免だ。

 特に問題なく終わりそうなはやてのお叱りに安心して、胸に仕舞って

いた事をフェイトは口にする。

「……私なら20分くらい、かな」

「え?」

 顔を上げたなのはに、フェイトは言う。

「ショッピングモールまでの往復」

「―――っ!」

 顔色の変わったなのはに、確信する。

 車やレールでショッピングモールまで行って買い物をするには1時間

という時間は短い。

 しかし、全力全開で飛んで行けば、片道程度の時間で往復出来る。

 足りない分のコーヒー豆を用意する事も可能だ。

「皆にお礼がしたいって気持ちは解るけど、違反行為したら意味が無いよね」 

「う…」

「スバルにまで手伝わせて。なのははもう止める立場なんだから」

「う、うん…ごめんなさい」

 素直に謝るなのは、恐らくはやてからも同様に怒られているだろう。

 だからこそ、反省文という事になっている筈で、その意味も理由もな

のははしっかり受け止めている。

「もうしちゃ駄目だよ」

「……はい」

 これ以上、怒っても良い結果にはならないと判断して、もう少し言い

たい気持ちを溜め息にしてフェイトは締めた。

「あ、あの!」

「スバル?」

「悪いのはあたしなんです」

「え?」

 挙手して、告白するスバルをフェイトを見る。

「あたしがチョコレートを焦がしちゃったからっ」

「チョコレート?」

 規定違反とチョコレートを焦すのがどう繋がるのか。

 把握しきれないフェイトは首を傾ぐ。

「いいよ、スバル。フェイト隊長が言ってる事は正しいんだから」 

「で、でも。あたしがあそこで失敗しなかったら」

「スバルは初めてだったんだから失敗は当然だよ。私が注意していれば

済んだ事だしね」

「で、でもっ!」

 お互いを庇い合う師弟は美しく、微笑ましい、けれど。

 けれど、今の会話だけではバレンタインデーが関わっているという事

以外は解らない。

「あ、あの……」

 混乱し始めたフェイトは、観念したかの様に控え目に挙手した。

 なのはとスバルの視線がフェイトに向く。

「最初から、説明してくれない、かな……」

「ふぇ?」

「あ」

 二人の声がはもった。

 困り顔で言葉を待っていると、なのはとスバルが声を出して笑い出す。

 はやてが称してたように、似た者師弟の息はぴったりだった。

 すっかり置いてけぼりになったフェイトはティアナを呼びたいと思う。

「ご、ごめんね。フェイトちゃん」

 一頻り笑ったなのはは、目尻に溜まった涙を拭った。

「本当は隠しておきたかったんだけど。ちゃんと、お話するね」

「う、うん。お願い」

 真っ直ぐ向き直るなのはに、フェイトもまた話を聞く体勢を整える。

「あのね。私、バレンタインデーを忘れてたって言ったけど、本当は覚

えてたの」

「やっぱり」

 覚えてなければ、あのタイミングでホットチョコレートは用意出来ない。

「でも、フェイトちゃんは本当に忘れてたみたいだったから。私だけ覚

えてたの知ったら、変に気にしちゃうかなと思って」

「うっ」

 実際、ずっと気にしていたフェイトは何も言えない。

「だから、一日ずらして、明日チョコレートを渡そうと思ってたんだけど」

 そこで言葉を切って、なのはは上目遣いでフェイトを見つめる。

「フェイトちゃん、凄い落ち込んじゃってたから……」

 前倒しにした、というなのはに、フェイトは気づいた。

「ご、ごめん!」

 仕事が忙しかったらしょうがない。

 その言葉をなのはに言わせたのは、誰でもないフェイト自身だった事に。

「私が忘れたりしたからっ!」

「それはいいの。今、フェイトちゃんがとても忙しいのは解ってるから」

 顔の前で手を振って言う、なのはは怒っていない。

 しかし、それが返ってフェイトを居たたまれなくする。

「で、でも!」

「本当にいいの。一緒にいられるだけで私は嬉しいし、ね?」

「……なのは」

 頬に赤味が差したなのはは、フェイトと同じ想いで、立場も理解して

くれていた。

 嬉しさと申し訳ない気持ちで、思わず涙腺が緩む。

 しかし、零れそうになる寸前で、フェイトは堪える。

「そ、それでね。皆にコーヒーを配った時に、その、フェイトちゃんに

はホットチョコレート…あげた、よね?」

「う、うん」

 とても吃驚したけれど。

 今まで一番甘くて、美味しかった。

「作ってたらスバルもティアナにやりたいって言うから、教えたんだけど」

 なのはが隣のスバルへ視線を流すと、乾いた笑みが頭を掻きながら続ける。

「いやぁ。初めてだったもので、チョコレートを溶かす時に焦しちゃい

まして……」

「材料が足りなくなっちゃったの」

「……すみません」

 ぺこりと、スバルが頭を下げた。

「私もフェイトちゃんとヴィヴィオの分くらいしか用意してなかったか

ら、分ける事ができなくって」

「それで、買いに行ったんだ」

「うん。元々、スバルにはコーヒー豆をお願いしてたからそのついでに、ね」

「そっか」

 暫く話を聞いていた、フェイトは、頭の隅に引っ掛かっていた疑問が

解けた。

 お昼頃、帰って来たなのはとスバルが何故バリアジャケットを纏って

いたのか。

 皆へのコーヒーを配り終えた時、どうして、様子がおかしかったのか。

 顔色が悪かったのは、フェイトが知れば心配しながら怒られると思っ

ていたからだろう。

 頭の中で記憶になのはの説明を付けて整理したフェイトは、重大な事

に気づいた。 

「あれ?なのは、もしかして最初からスバルに違反行為させるつもりだっ

たの?」

 ホットチョコレートが上手く出来たとしても、コーヒー豆を買いに行

かせるつもりだったのなら、スバルの規定違反は最初から計画に組み込

まれていた事になる。

「ち、違うよ!スバルがお店に詳しいって言ったのは本当なの!!」

 慌てて否定したなのはフォローをお願いするようにスバルを見た。

「ティアナとよく買いに行くので、あたし比較的近くて良い店を知って

るんです」

「そっか。良かった…」

 その視線に応えたスバルの言葉に、フェイトは胸を撫で下ろす。

「でも、どうするつもりだったの?」

「ヴァイス君からオートバイを借りてそのお店に行ってもらう予定だっ

たの。それでギリギリ間に合いそうだったから」

「なるほど、ね」

 オートバイなら渋滞もないし、小回りも利く。

 車やレールを利用するよりもかなり時間は短縮される。

「でも、スバルはホットチョコの材料を売ってる店は知らなかったから……」

「なのはも一緒に行く事にしたんだ」

「そんな、感じ……かな」

 ここで規定違反を覚悟したらしく。

 なのはは、曖昧に笑う。

「フェイトちゃんは知ってるけど、ああいうお店って、モールでも奧の

方にあるじゃない?」

「あぁ、そうだね」

 以前、なのはと買い物に行った時のお店は飲食店も兼ねていたせいか、

モールの奧にある食堂街にお店を構えていた。

「モール内はオートバイ入れないし、お店の場所も知らないと時間が掛

かっちゃう。とか考えてたら……つい、全部飛んじゃえとか思っちゃって」

「飛んじゃえ、って……なのは」

 にゃははと、笑うなのはにフェイトは額を押さえた。

 細かい事を一切ぶち抜く砲撃手らしい考え方ではあるけれど。

 それは、任務の時だけにして欲しいと思う。

「だ、だって!スバルの気持ち……解っちゃうんだもん……」

 語尾が小さくなっていった声にフェイトは顔を上げた。

 心なしか、なのはの頬に赤みが差している

「私も、やっぱりバレンタインデーはチョコレートあげたいと思うし。

喜んでくれたら、もっと嬉しいし……」

「……なのは」

 なのはが言いたい事は痛い程、フェイトには理解出来る。

 フェイト自身もなのはにチョコレートをあげる時は、喜んでくれたら

嬉しいと考えたりする。

 そして、喜んでくれると、もっと嬉しくなる。

 好きな気持ちで胸が一杯になって、愛しくなる。

 そんな想いを知っているからこそ、スバルに協力して、なのはは無茶

をしたのだろう。

 もしも、自分がなのはの立場だったら。

 考えると、フェイトには怒るに怒れなくなった。

 なのは程の無茶はしないにしても、きっと出来る限りの協力はする。

「それに、私も」

 両手の指を引っ付けて、ぽつんとなのはは言う。

「ホワイトデーを体験してみたいなぁ。なんてのもあって」

「え?でも、ホワイトデーは何時も交換してるよね?」

「うん。交換はしてるけど……お返しは貰った事、ないよね?」

「あ、あぁ…うん」

 なのはとバレンタインデーにチョコレートを交換するのは、毎年の恒例。

 そして、ホワイトデーもお返しと言いながら、交換し合っている。

 そう、何時も交換で。

 お返しはした事がない。

「フェイトちゃんが忘れてるなんて滅多にないから。チャンスだとか思っ

たりもなんかしちゃって……」

「そ、そっか」

 完全に真っ赤になってしまったなのはに、フェイトは困った。

 こんな事を言われたら、もう注意もできない。

 それどころか、今直ぐ抱き締めたいとすら思ってしまう。

 しかし、なのはの隣にはスバルがいる。

 それは、出来ない。

 溢れる情に流されそうになる弱い心を止めようと、頭の中で局員規定

を第1条からフェイトは大声で読み上げる。

「でも、はやてちゃんにバレちゃって。フェイトちゃんにまで迷惑を掛

けちゃったよね」

「そ、そんな事ないよ!」

 なのはの気持ちは嬉しい。

 ホットチョコレートも本当に美味しかった。

 結果的には、規定違反になってはしまったが、迷惑だとは少しも思っ

てはいない。

「全然、迷惑じゃないから」

「本当?」

「うん。その、嬉しかったよ」

 なのはの瞳を見つめて、フェイトは言った。

「良かった。ありがとう、フェイトちゃん」

 ホッとしたように、ふわりとなのはが微笑む。

「………っ」

 限界だった。

「スバル」

「はい?」

 つい、と指先を伸ばして、フェイトはスバルの原稿用紙の一部を叩く。

「ここの字、間違ってるよ」

「えっ?」

 フェイトの指先を追って、スバルが原稿用紙を覗き込む。

『なのは』

 同時に、フェイトはなのはに念話を飛ばす。

「ふぇ?」

 呼ばれて、顔が上がる一瞬を見計らって、フェイトは腰を浮かした。

 重なる柔らかい感触。

「…………え?」

 何が起きたのか解らないと言った顔に微笑んで、フェイトは耳元で囁く。

「無茶をした、お仕置き」

「――――っ!!」

 耳を押さえたなのはがフェイトを避けるように立ち上がった。

 パイプ椅子が大きく揺れ、カタカタと足踏みする。

「なのはさん!?」

「スバルは反省文を書いててっ!!」

「は、はいっ!」

 上司の叫びに近い声に背筋を伸ばして、スバルは原稿用紙に向かった。

 そんな、なのはの瞳は羞恥からか、潤み気味だ。

 可愛いな、なんて思いながら見つめていたフェイトだが。

「スバル。私の見間違いだったみたい。その字、合ってるよ」

 つと、思い出したようにスバルに言う。

「そうなんですか?」

「うん、ごめん」

 これは、騙した事に対する謝罪。

「なんだー。良かったー」

「ごめんね。スバル」

 これは、なのはの八つ当たりに対して。

「そんなに謝らなくても大丈夫ですよー」

 けれど、スバルはその真意には気づかない。

 残り数行を埋めようと、頑張り始める。

「ほら。なのはも書かないとスバルに負けちゃうよ」

 トンと、なのはの原稿用紙を指で叩くと、まだ赤い顔が無言で席に座った。

 誰のせいで中断したと思っているのか。

 睨むような瞳が文句を言う。

 けれど、そんな顔も可愛いな、なんて思っているフェイトには効果がない。

「早く終わらせて帰ろう。なのは」

 さらりと反省文の続きを促す。

 まだ念話を使う余裕もないまま書かれた最後の数行は、文字が踊っていた。


バラして、バラされて、ハッピーエンド。
これで全部終わりm(__)m
……やっと終わったー……。

リリカルなのは フェイト×なのは

水曜日, 2月 18th, 2009

リリカルなのはの、フェイト×なのはにSSを追加しました。
タイトルは。
『バレンタインデー当日(後)』
だす。
これでおわり。………多分ね。←え?

バレンタインデー 当日(後)

水曜日, 2月 18th, 2009

 六課のオフィスで、昼食を摂るのは正解だった。

 時々、チョコレートを渡しに来るが、他部署のオフィスという事とフェ

イトが食事中のを見て、長居をしようとしない。

 一度に来訪する人数も三、四人と少数で済んでいる。

 これが開放された食堂ならば食事もままならなかったかもしれない。

 良い判断だな、とティアナをフェイトは賞賛する。

「そういえばティアナ」

 サラダを口に運びながら、ティアナにフェイトは話しかけた。

「はい?」

「ティアナはスバルにチョコレートをあげたの?」

「ぶっ」

 何気なく聞いたつもりが、ティアナの口が局地的に爆発した。

「な、ななな何を言い出すんですか!?」

「え?だってバレンタインデーの内容は知ってるよね?」

「それは……八神部隊長の企画書を拝見しましたから……」

「だよね」

 だからこそティアナを含め、フォワード陣はフェイトとなのはにチョ

コレートを用意する事が出来たのだ。

「渡さないの?」

「私は別にスバルにお世話になってないですから!!」

「そっちの意味じゃなくて」

 真っ赤な顔で、あえて義理チョコをチョイスする辺り、ティアナが意

識をしているのはフェイトにも直ぐに解った。

「……渡さないの?」

 もう一度問うと、首まで赤く染まった。

 半分俯いてしまった顔はどんな表情をしているのか見えないが、何と

なく予想はつく。

 それ以上深くは追求せずに、ティアナの言葉をフェイトは待つ。

「スバルは……今、一生懸命夢を追いかけています」

 か細い声が、ぽつぽつと話し出した。

「うん」

「憧れのなのはさんの教導を受けて、その思いに応えようと必死で頑張っ

てます」

「そうだね」

「そんな彼女の邪魔は……できません」

「でも、頑張ってるのはティアナも一緒だよね」

「え?」

 驚いたように顔を上げたティアナにフェイトは微笑む。

「もしも、スバルがそういう意味でチョコレートを渡してくれたら。ティ

アナはスバルの好意を邪魔だと思うのかな?」

「そんな訳ないです!」

「じゃあ、スバルも同じじゃないかな」

「あ……」

「ティアナは困ってる人を助けたいよね?」

「……はい」

「護りたいと思う?」

「はい」

 強く、はっきりと、ティアナは答えた。

「なら、自分の想いも護ってあげないとね」

「自分の想い……ですか?」

「そして、大切な人の想いもね」

「大切な人の、想い」

「うん」

 フォークをトレーに置き、ティアナの瞳を見つめて。

「自分と、自分の一番大切な人を護れなかったら、他の人なんて護れないよ」 

 真っ直ぐにフェイトは言った。

 こくりとティアナが息を飲んだ。

 瞳はまだ揺れているけれど。

 フェイトの言葉は確かに伝わっていた。

「なんて。私が昔、言われた事なんだけどね」

「え?」

 驚くティアナにフェイトは苦笑する。

「はやてや地球にいる親友に似たような事を言われたんだよ」

 フォークを持ち直して、フェイトは言った。

 しかし、食事を再開する訳ではなく、手慰みのようにおかずを突っつ

いている。

「それも、何度も、ね」

 伝える側も勇気がいる厳しい言葉を、何度も重ねて教えてくれた親友達。

 感謝してもしきれない想いは今でもこの胸の中にある。

「私は弱いから」

「そんなっ!フェイトさんは強いですよ!」

「ありがとう」

 立ち上がってまで否定してくれるティアナにフェイトは素直に礼を言う。

「でもね、私は何時でも、どんな事に対しても迷ってるんだ」

 なのはとの恋愛だけでなく。

 仕事でも、迷いが無かった事なんて一度もない。

「自分の想いは、本当は迷惑なんじゃないかって、私の独りよがりなん

じゃないかって」

 スカルエッティと対峙した時も、彼の言葉に動揺した。

 プレシア母さんと同じ事を、エリオとキャロにしていると言われて、

心が揺らいだ。

「けれど、その度に皆が私に教えてくれるんだ」

 あの時、エリオやキャロの声が届いていなかったら、恐らく今、フェ

イトは此処にいない。

「私は間違っていない。自分を信じてって」

 沢山の人に貰った大切な言葉。

 それは、何時でもフェイトを助けてくれた。

 決断する勇気をくれた思いの積もった言葉。

「だから、私はなのはの傍にいると決めたんだ」

 そして、誰よりも。

 一番最初に、なのはが教えてくれた言葉だから。

「なのはを護るって誓ったんだ」

 何があっても。

 繋いだ手を絶対に離さないと、自分に誓った。

「……一つ、質問しても良いですか?」

「何かな?」

 躊躇するティアナをフェイトは優しく促す。

「もし、もしもですけど。なのはさんが拒絶したら……フェイトさんは

どうしたんですか?」

「何も変わらないよ」

 はっきり、とフェイトは言った。

「私がなのはの事を好きなのは変わらないし、変えられない。なのはを

護り続けるよ」

「なのはさんに、他に好きな人が出来ても、ですか?」

「…そうだね。そうしたら傍にはいられなくなるけど。でも、変わらな

い、かな」

「辛くはないんですか?」

「辛いよ」

 ティアナが言っている事はフェイトも考えた事がある。

 あの時は、それだけで涙が溢れて、零れた。

「辛いけれど、私なりに傍にいるよ」

 けれど、想いは消えなかった。

 なのはを護りたい気持ちはそのままだった。

「それが私だから」

 もう自分を否定しない。

 辛い想いもそのまま受け止める。

 ただの我が儘かもしれないけれど。

 沢山の人に支えられて、ここまで来たのだから。

 その人達の気持ちを拒絶するような真似はもう、しない。

「…やっぱり、フェイトさんは強いですよ」

 悔しいのか、それともやるせないのか。

 ティアナの声は震えていた。

「そうでも、ないよ」

 どれだけ時が経っても、きっと自分が強いとは思える日は来ない。

 でも、それで良いとフェイトは思う。

「ティアナは、強いよ」

「そんな事、ないです」

「それに、本当はスバルの気持ち、気づいてるよね」

「そ、それは……」

「あれだけ、ティアーティアー、って叫んでたら、解るよね」

 真面目な話から一転して、楽しそうな笑みを浮かべるフェイトに連い

て行けず。

 ティアナは視線を逸らす。

「……意地悪ですよ。フェイトさん」

「うん。私も昔、そう思った」

 先刻から話している内容の殆どは、フェイトが言われた事ばかりだ。

 その大半は、アリサとはやてに言われた台詞ばかりなのだから、意地

悪な物の言い方になってしまう。

「ついでにいうと、今のティアナの台詞も言った覚えがあるよ」

「…どなたにですか?」

「確か…はやてに、だったかな」

 中学の卒業間近だっただろうか。

『お互い相手の気持ち知ってるんやから、ええ加減に引っ付けっ!』

 そんな風に怒られた時に呟いた気がフェイトはする。

「何て言うか…八神部隊長らしいですね」

「そうだね」

 少し乱暴な言い方だったけれど。

 はやてらしい背の押し方だったと、フェイトは笑う。

「はやてみたいな上手な事は私には言えないけれど。二人が仲良くして

くれると嬉しいな」

 控え目に応援するその気持ちが伝わったのか。

「………考えてみます」

「ありがとう」

 赤い顔のままティアナは頷いた。

「さて。そろそろ食事を済まさないと休憩時間が終わっちゃうね」

「あ、そうですね」

 話に夢中になってしまった二人の手はすっかり止まってしまっている。

 まだ殆ど手つかずのランチを、フェイトとティアナは再開した。

 パンを千切り、口に運ぶと、入り口で豪快な音が響いた。

 驚いたフェイトとティアナが同時に振り返る。

「な、なのは!」

「スバル!」

 扉が全開になった出入り口には肩で息をする、なのはとスバルが立っ

ていた。

 二人ともバリアジャケットに身を包み、腕には大きな茶色の紙袋を抱

えている。

「ま、間に合った……」

 息を切らすなのはの頬を汗が伝う。

 表情はまるで全力疾走の後のように険しい。

「なのはさん…残り時間は、あと30分です……」

「……了解。もう一頑張りするよ。スバル」

「はい!」

 時間を確認して、再びオフィスを飛び出して行こうとするなのはに、

慌ててフェイトは声をかけた。

「なのは!」

「フェイトちゃん!?」

 焦っていた為か、フェイトの存在に気づいていなかったのだろう。

 フェイトを認めたなのはの顔が、あからさまに引き攣る。

「スバル!」

「ティア!?」

 その後で、ティアナに呼ばれたスバルも同様だった。

 じりじりと後ずさる二人に、フェイトは立ち上がる。

「二人で何やってるの?」

「え、あの……」

 言い淀むなのはの目は泳いでいる。

 なのはもあまり隠し事できるタイプではない。

 第一、出動要請も入っていないのに、二人ともバリアジャケットを纏っ

ている時点で、明らかに不自然だ。

 何か重大な事を隠しているとフェイトは確信する。

「なのは」

「え、えと……。あ、フェイトちゃん、ここでご飯食べてたんだ…」

「うん。ティアナがランチを運んでくれたから」

「そ、そっか」

「なのはは、お昼も食べずにスバルと何をやってるの?」

 先刻よりも強めにフェイトは追求した。

 お昼の休憩時間を逆算しているのだ。

 食事はまず間違いなく摂っていないだろう。

 普段、人にはご飯は三食食べなさいと言っているのに、自分は食べず

に何かをしている。

 少しばかりの怒りを含ませて、フェイトは名前を呼ぶ。

「なのは」

「え、えと……」

「なのはさん、時間が」

「う、うん。解ってる」

 やたらと時間を気にするスバルに、フェイトを見つめたまま、なのは

は答え。

「フェイトちゃん、ごめん!」

 一気にフェイトに背を向けた。

「なのはっ!?」

「今は時間がないの!お話は後でするからっ!!」

「ティア!私もなのはさんと同じで!!」

「ちょ!スバル待ちなさいよっ!!」

 ティアナを振り切って、スバルはなのはを追いかける。

 あっという間に姿が見えなくなった二人が残していったのは、果てし

ない疑問。

 そして、呆然とするフェイトと、状況の収拾を押しつけられたティア

ナだった。

「あの、フェイトさん……?」

 また子供返りしていないか警戒をしながらティアナはフェイトを見る。

 しかし、ティアナの予想は外れ、無言のまま、フェイトは席に腰を下

ろした。

 何も言わず、語らず。

 ついでに、子供のように泣きもせず。

 食事を再開するフェイトに、ティアナも無言のまま習う。

「……ティアナ」

「は、はい」

 ぽつりと呼ぶフェイトに、肩を震わせて、ティアナは顔を上げる。

「スバルとの事。本当に頑張ってもらえるかな」

「……変なプレッシャーをかけないでください……」

 怒っているのか、それとも落ち込んでいるのか。

 はたまたスバルに嫉妬しているのか。

 ぐるぐると渦巻く黒いオーラで全身を包んだままフェイトは、こめか

みを押さえるティアナと一緒に決して消化に良くない昼食を終了させた。

- – - – - – - – -

 休憩時間の残りが3分になった頃。

 なのはとスバルが帰って来た。

 どちらもバリアジャケットは解除しており、なのはは武装隊の制服を、

スバルは六課の制服を着用している。

 先刻の慌てた様子が嘘のように二人とも落ち着きを取り戻していた。

 そんななのはとスバルは食堂で使用されている大きなトレーを持っている。

 トレーに乗っているのは無数の白いカップ。

 これまた食堂で食事の時に使用されている物だ。

 カップからは白い湯気が立ち上り、香ばしい香りをさせている。

「はーい。注目ー」

 両手でトレーを水平に保ったまま、なのはは言った。

 オフィス内の視線がなのはに集中する。

「八神部隊長の企画により今日はバレンタインデーです」

 凜とした教導官としてのなのはの声は、オフィスに緊張を走らせた。

 まもなく休憩時間が終わり、仕事を再開する時刻だ。

 オフィスにはほぼ全ての人間が戻って来ている。

 その全ての人間が真剣な面持ちで、なのはの次の言葉を待つ。

「バレンタインデーは、好きな人にチョコレートを渡す日でもあります

が、お世話になっている人に感謝をする日でもあります」

 そこで、一度言葉を切って。

「そんな訳で。不肖私、高町一等空尉より皆に飛びっきり美味しいコー

ヒーをご馳走したいと思います」

 無邪気な笑顔をなのはは浮かべた。

 一瞬、オフィスの空気がぽかんと呆け、緊張が弾け飛び、次の瞬間に

は歓声が響き渡った。

「順番に配るから皆、席に着いててねー」

 それに負けないように叫んで、なのはは入り口の隊員から白いカップ

を手渡していく。。

 同時に、砂糖が必要な人にはスティックシュガーを。

 ミルクが必要な人には小さなポーションを。

 美味しく飲んで貰える心配りと、個人の嗜好も配慮して。

 バレンタインデーのプレゼントを配った。

 自分のトレーが空になるとスバルとトレーを交換して、再び配り始める。

 その様子を自席で見つめていたフェイトは、ようやくお昼休みのなの

はの態度に納得した。

 六課の一部署とはいえ、それなりの人数がいる。

 その全ての人間にコーヒーを淹れるとなれば、時間が掛かってしまう。

 更に、なのはは飛びっきり美味しいと言っていた。

 それはつまり、喫茶店の娘としての腕を振るったという事だ。

 インスタントでもそれなりの時間が掛かるのに、正式な淹れ方をすれ

ばもっと時間は掛かる。

 昼食も摂らず、休憩時間を一杯一杯使って。

 なのはは、バレンタインデーの準備をしたのだろう。

 一通り配り終えたなのはは、一番最後にフェイトの元にやってきた。

「フェイトちゃん、先刻はごめんね」

 言って、フェイトのデスクに白いカップを置く。

「なのは、この準備をしてたんだね」

「うん。この人数のコーヒーを淹れると、時間が掛かっちゃうからお話

する時間が無くて…」

「大丈夫だよ。でも、なのはは大変だったんじゃない?」

「ちょっとね。でも、皆には何時も助けてもらってるからどうしてもお礼

がしたかったの」

 少し照れたように笑うなのはに、フェイトは微笑む。

「凄いね。なのは」

「ふぇ?」

「だって、休憩時間を使ってこれだけの準備したなんて」

「そ、そんな事無いよ。その、私もバレンタインデーの事、忘れてて…。

本当に何も準備してなかったし……」

「そうかもしれないけど。でもやっぱり、凄いよ」

 仕方ない、と諦めてしまった自分と、ギリギリまで頑張って用意した

なのは。

 その差はとても大きい。

 そして、その違いがなのはの圧倒的な強さであり、エースオブエース

と言われる所以だと、フェイトは思う。

「やっぱり、敵わないなぁ…」

「え?フェイトちゃん、何か言った?」

 ぽつりと零した悔しさは、なのはには聞こえなかったらしく。

「ううん。何でもない」

 首を振って、フェイトは苦笑に変える。

「でも、この人数分だと、豆が足りなかったんじゃない?」

 淹れる為の器具は部屋にある自前のをなのはは利用した筈だ。

 しかし、肝心のコーヒー豆は風味が落ちるからと、それ程買い置きを

していない。

「あー…え、えと」

 すぅとなのはの視線がフェイトからそれ、宙を彷徨う。

「なのは?」

「あ、ほら。スバルがこっちのお店詳しかったからっ」

「あぁ。それでスバルを連れてったんだ」

 大きな茶色の紙袋を持っていたなのはとスバルをフェイトは思い出す。

「う、うん。そんな感じ、だと思ってるくれると助かる、かな」

 しどろもどろと、歯切れの悪いなのはの視線は落ち着かない。

 額にも微かに汗が滲んでいる。

「なのは、具合悪いの?」

「え?」

「だって、何か落ち着かないし。顔色も悪いよ」

「あ、だ、大丈夫!全然元気だよ!!」

 心配するフェイトに、なのははガッツポーズを作った。

「ちょっと頑張っちゃったから。それだけだよ」

「そう?無茶は駄目だよ?」

「う、うん」

「皆、なのはの気持ちに喜んでるけど、肝心のなのはが倒れちゃったら

心配になっちゃうよ」

「だ、大丈夫だよ。うん。元気元気」

「なら良いけど」

 心配そうに覗き込むフェイトから、一歩二歩と、後ろに下がってなの

はは曖昧に笑う。

「そ、そろそろ。私も仕事に戻らなきゃ」

「あ、うん」

「じゃあフェイトちゃん。また帰りにね」

 すこし慌てながら自席へ戻るなのははの様子はおかしかった。

 なのはの大丈夫をあまり使用していないフェイトが、遠目で様子を窺う。

 動向を注意していると、ふと、スバルの元気な声がフェイトの耳に届いた。

「ティア、ティア。ティアのだけは私が特別に作ったんだよ」

「え?」

「なのはさんに教えて貰って私が用意したんだ。早く飲んでみてよ!」

「わ、解ったから少し落ち着きなさいよ。……って、これコーヒーじゃ

ないじゃない」

「だから特別なんだってば!」

 そんな可愛い会話を聞いて、冷める前にとフェイトも白いカップに

 手を伸ばす。

 そして、気づいた。

 なのはの様子がおかしかった理由に。

 白いカップの中身はブラックではなく、ブラウン色をしていた。

 立ち上る湯気も香ばしい香りの代わりに。

 甘い、香り。

 視線を上げてなのはを見ると、一瞬目が合ったが、直ぐに逸らされた。

 吹き出しそうになる口元を押さえてフェイトは堪える。

 本当に敵わないな、と思う。

 ゆっくり香りを楽しんでから、フェイトは白いカップに口を付ける。

 『特別』なコーヒーは、フェイトの寂しさを吹き飛ばし、暖かい幸い

で包み込んだ。

 ホワイトデーは、3倍返しが相場だっただろうか。

 そんな事を考えながら飲むホットチョコレートは、香りに負けない位、

甘かった。


バレンタインデー終了終了。
おそまつさまでごじゃりましたm(__)m
なにげにスバティア込み(笑)

リリカルなのは フェイト×なのは

月曜日, 2月 16th, 2009

リリカルなのはの、フェイト×なのはにSSを一本追加しました。
『バレンタインデー当日(中)』
だす。
もうね。どんどん長くなるから、当日アップは諦めました…(もう過ぎてる)

バレンタインデー 当日(中)

月曜日, 2月 16th, 2009

 オフィスに戻って、チョコレートを整理した後、フェイトは仕事を再

開した。

 その後は突発休憩時間の放送もなく、概ね順調に仕事は進んでいる。

 ただ、お昼の休憩時間を考えると、少し憂鬱にフェイトはなった。

 15分間だけでも、それなりの騒ぎになったのだ。

 これが、1時間の休憩となると、他の部署の人も加わる。

 はやてに貰った紙袋は、もう3分の1埋まっていた。

 自信過剰かもしれないけれど。

 もう一袋、用意した方がいいかな、とフェイトは思う。

 そんな明後日の事を考えながらも手はコンソールを叩き続けていて。

 はやてに頼まれていた書類をフェイトは仕上げた。

 急ぎで頼まれた仕事ではないにしても、提出が早いに越した事はない。

 プリントアウトして、フェイトははやての元に向かう。

 部隊長室へ向かう間、ちらほらと視線を感じるのは恐らく気のせいで

はない。

 なのはやはやてに鈍感と評されるフェイトだが、経験があれば視線の

意図は理解出来る。

 オフィスに帰る前に購買に寄ろうと、フェイトは決意した。

「八神部隊長。ハラオウンです」

 部隊長室の扉をノックして、フェイトは名前を告げる。

「どうぞ」

「失礼します」

 扉を開けて、フェイトは部隊長室へと入った。

「八神部隊長。先日頼まれました書類が仕上がりました」

「ご苦労様です」

 書類を手渡すと、真剣な顔ではやては内容をチェックする。

 その姿は、部隊長の風貌だった。

「内容も問題ないです。ありがとうございます。ハラオウン隊長」

「いえ」

 フェイトが敬礼すると、ふにゃりと、はやての顔が緩んだ。

 瞳から真面目さが消え、幼馴染みの顔に変化する。

「さて。フェイトちゃん」

「何かな。はやて」

「そちらの盛況はどうや?」

 主語がなくとも、はやてが何を聞いているのかは、一目瞭然だった。

「正直、大変。だよ」

「せやろなぁ」

 自分の状況を口にすると、満足そうにはやてが笑う。

「フェイトちゃんもなのはちゃんもみんなの憧れの的やからな。そんな

二人に近づけるチャンスは滅多にあらへん。みんなええ気晴らしにな

るやろ」

「まるで珍獣だね」

「失礼な。そんなつもりはあらへんって」

 皮肉を込めたフェイトの一言は簡単に否定された。

「アイドル扱いしとるだけや」

「どちらにせよ私は望んでないよ…」

 珍獣だろうと、アイドルだろうと、注目されるのが苦手なフェイトに

してみれば、あまり大差はない。

 単純に巻き込まないで欲しいとフェイトは思う。

「アイドルは冗談やって。でも、色々な人とコミュニケーション取るのは

重要やと思わへん?」

「それは、解るけど」

 仕事を離れた他人との接触をフェイトはあまり得意としない。

 執務官になってからは昔よりは慣れたけれど、ファーストコンタクト

はやはり苦手意識がある。

 こういう機会がなければ他の部署の人と話す機会はあまり持てない

だろう。

「そう思とったんやけど…ほんまにごめんな」

「はやて?」

「まさかなのはちゃんが何も用意してへんとは思わへんかったから」

 はやてにもなのはの行動は想定外だったらしく。

 謝るはやては、本当に申し訳なさそうな顔をしている。

「はやてのせいじゃないよ」

 ふるりと首を横に振って、フェイトは言う。

「私も忘れていたし、なのはも忙しかったしね。……仕方ない、よ」

 何度目かの、仕方ない、にフェイトの心がツキリと痛む。

「それに私が長期任務に就いてたりすると、当日会えない事もあるから。

一緒にいられるだけで十分だよ」

 感じた痛みを紛らわすようにフェイトは微笑んだ。

「チョコレートは明日にでも渡すよ」

「……そうか」

 それ以上は、何も言わずにはやては眉根を下げた。

「まぁ近いうちになのはちゃんもフェイトちゃんもお休みが取れるよう

にするから。そん時に今日の分まで逢瀬重ねてや」

「お、逢瀬って……」

 大胆なはやての発言にフェイトの顔が赤く染まる。

「ん?意味解らへんかった?もっとストレートに言った方が……」

「い、言わなくていいよっ!」

 十分伝わる言い回しを更に直接的な表現にされた日には、なのはの顔

を見る事すら困難になる。

 絶対に遠慮する、首を横に振るフェイトに、はやては楽し気に喉を震わす。

「何時まで経ってもフェイトちゃんは可愛いなぁ」

「何時まで経ってもはやては意地悪だよね」

 お互いに意地悪な感想を述べ、はやてとフェイトは顔を見合わせて、

笑い合う。

 気のおけない話が出来る相手がいるのは、嬉しい。

 目に見えない気遣いは、優しい。

 少し気持ちが浮上したフェイトは、笑顔ではやてに言った。

「じゃあ、はやて。私はそろそろ戻るよ」

「せやね。間もなくお昼の休憩時間やし」

 デスクの上に両肘を突いて、にんまりはやては笑う。

「気張ってや」

「了解」

 笑いながら敬礼をして、部隊長室をフェイトは出た。

 ふぅと息を突いて、扉に凭れ掛かる。

 空を見るように視線を上げると、蛍光灯の光が眩しい。

 また思考の渦に飲まれそうになり、ふるりとフェイトは首を振る。

「一緒にいられるんだから。幸せだよ」

 言い聞かせるように独り呟いて。

 ゆっくりとフェイトはオフィスへと戻った。

- – - – - – -  

 オフィスへの帰り道、行きの視線は予想通り、呼ぶ声に変わった。

「ハラオウン執務官」

「ハラオウン隊長」

 様々な役職で呼ばれては、足を止められる。

 その度に手の中に甘い箱が増えていく。 

 必然的に購買でもう一枚紙袋を買う事になり、オフィスに到着する頃

には、その紙袋もかなり埋まっていた。

 自席に紙袋を置いて、フェイトは時間を確認する。

 お昼の休憩時間はもう10分経過していた。

 チョコレートの整理は後にして、なのはの姿を探すが見あたらない。

 オフィス内のどこにもなのはの姿はなかった。

「もう食堂に行っちゃったのかな?」

 帰って来るまでに思いの外、時間を取られてしまっている。

 オフィス内も、みんな出払っており、ティアナしか残っていなかった。

 仕事上、なのはとフェイトが同時に休憩が取れる事は然程多くない。

 フェイトが席を外していた事で、先に昼食に入ってしまったかな、と

フェイトは思う。

「ティアナ、なのはがどこに行ったのか知らないかな」

 それでもと、ティアナにフェイトは聞いた。

「なのはさんなら、スバルを連れて出掛けましたよ」

「スバルと?」

「はい。急いでたみたいで、1時間しかない、って叫んでましたけど」

 昼の休憩は1時間。 

 その間に、何所で何をするつもりなのだろうか。

 フェイトには見当も付かない。

 ただ、単独ではなくスバルを連れて行くというのは珍しいとフェイト

は思う。

「行き先は聞いてるかな?」

「いえ。そこまでは」

「……そっか」

 はぁ、と大きな溜め息をフェイトは突いた。

 なのはとお昼も別々という事実が、マイナス思考に拍車を掛ける。

 元々あまりプラス思考ではない事は、身内や周囲に言われて自覚して

いたけれど。

 バレンタインデーを忘れていた失態。

 大切な人からのチョコレートお預け。

 お昼ご飯のすれ違い。

 この三連攻撃はとても厳しくて。

 デスクに両腕を突いてフェイトは項垂れた。

「あ、あのフェイトさん」

「……ん?」

「その、全身全霊で落ち込まないで下さい」

「……ティアナ」

 子犬が縋るような顔で、ティアナはフェイトは見上げられる。

 その、微かに潤んだ瞳に一瞬、心臓が高鳴ったティアナだが、次の瞬間。

「フェ、フェイトさんっ!?」

 本当に全身で縋られた。

「ティアナ。スバルになのはをとられちゃったよ……」

「へ、変な言い方しないでください!」

「ティアナもいけないんだよ。スバルをちゃんと捕まえておかないから

こんな事に」

「どうしてそんな話になるんですか!っていうか、どんな理由ですかっ!!」

 完全に壊れたフェイトに、ティアナは頭痛を覚える。

 フェイトには言わなかったが、なのはは飛び出していく前に、ティア

ナに特殊任務を命じていった。

 それは、フェイトの護衛。というよりも見張り。

 命令の内容は、こうだった。

 フェイトは優しいから人の誘いをなかなか断れない。

 バレンタインデーだからチョコレートは貰っても良いけれど、それ以外は

断らせるように。

 何とも私情しか挟まれていない難しい命令を、とても強い口調でティアナに

 命じたのだ。

 出来るなら断わりたかったティアナだが、その時に掴まれた肩の痛みと、白

煙のように立ち上る桜色の魔力光に、二つ返事でつい請け負ってしまった。

 しかし、護衛は引き受けたけれど。

「フェ、フェイトさん。とりあえず離してくれませんか?」

「やだ」

「やだって……」

 子供のお守りは受けてない、と痛い頭でティアナは思う。

 とはいえ、何時までもこのままでいる訳にはいかない。

 今、ティアナはフェイトに抱きつかれている状態だ。

 ここでなのはが帰って来たら、確実に『お話』である。

 それに、今日はバレンタインデー。

 唯でさえ、フェイトのファンがあちらこちらとウロウロしている。

 ファンにとやかく言われたり恨まれたりする分には、一向に構わない。

 勝手に言ってろ、としか思わない。

 けれど。

 この状況を見られたら間違いなく勘違いされる。

 そして、それが何かの拍子で上司の耳に入ってしまったら。

 やはり待っているのは『お話』である。

「……そうだ」

 何とか現状打破を試みたティアナは良い方法を思いついた。

「あの、良い物があるんです。ちょっと、離して頂けませんか?」

「良い物?」

 やんわりと話しかけると、ティアナの首に回していた腕をゆっくりフェ

イトは外す。

「これ、受け取って頂けますか?」

 言って、ティアナが差し出したのは4つの箱。

 長方形だったり正方形だったりする箱を包む包装紙は、購買の特設売

り場で見た物だった。

「バレンタインデーのプレゼントです」

「あ、ありがとう」

 4つの箱を受け取り、フェイトは丁寧に一つ一つ確認する。

 箱には各々メッセージカードが付いており、その書体は全て異なっていた。

「これはエリオやキャロからのもあるのかな?」

 見覚えのある書体にフェイトは問う。

「はい。その、大変そうだったので。私が代表で預かったんです」

 なのはさんにはスバルが、とティアナは付け足した。

「受け取って頂けると皆喜ぶんですけど」

「ありがとう。凄く、嬉しいよ」

 ふわりと微笑むフェイトに、ティアナは安堵する。

 大切そうに箱を何度も確認するフェイトは、ティアナが尊敬する上司

の姿に戻っていた。

 そして、エリオやキャロのメッセージカードを読む姿は、母親だった。

「フェイトさん、昼食はどうされますか?」

「今から食堂で食べる予定だけど」

「ここで私と食べて頂けませんか?」

「ここで?」

「ええ。是非!」

 首を傾げるフェイトに大きくティアナは頷く。

 今は落ち着きを取り戻しているフェイトだが、食堂でまた子供返りさ

れたら、と思うとゾッとする。

「でも、お弁当とか持ってきてないんだけど」

「私が食堂からランチセットを運びます」

「そんなのティアナに悪いよ」

「いえ。食堂に行かれると私の身が……じゃなくて。今日はフェイトさ

んが食堂に行かれるとパニックになりかねないですから」

「あぁ……」

 午前中の突発休憩の間の状況、部隊長室とオフィスの短い距離の間の

視線。

 そして、紙袋にこれでもか、と言わないばかりに入っているチョコレート。

 ティアナの言いたい事を、自分の視点で解釈したフェイトは頷いた。

「じゃあ、お願いできるかな」

「はい。じゃあちょっと待ってて下さい」

 昼食の調達に出掛けるティアナを見送り、フェイトは自席に腰を下ろ

した。

 背凭れに体重を預け、瞳を伏せる。

「なのは……」

 昨年のバレンタインデーをフェイトは思い出す。

 去年は運良く午後からだったけれっど、二人とも時間を取る事が出来

た。

 デート気分で、ウィンドウショッピングをして、そのまま夕食を共に

して、フェイトの部屋で、チョコレートを交換し合った。

 食べさせ合ったりして、少し恥ずかしい思いもしたが、楽しくて嬉し

かった。

 なのに、今年は擦れ違いばかり。

 こんな事で、なのはの気持ちを疑ったりはしないけれど。

 寂しいと思っているのは、自分だけなのかと考えてしまう。

「本当に、仕方がない。のかな」

 もっと何か方法があったのではないだろうか。

 自分に出来る事があったのではないだろうか。

 悔やんでも、時間はもうあまり無くて。

 チョコレートをあげたい大切な人も、それを気にしてない。

「やっぱり、寂しいよ……なのは」

 フェイトの呟きは、無機質なデスクの上に消えて。

 開けた瞳には誰も映らなかった。


中って!もうバレンタインデー過ぎてるよ!!(只今2月16日の夜中)
ティアナとスバルを絡ませたらさらに長くなってもうたー……。

リリカルなのは フェイト×なのは

土曜日, 2月 14th, 2009

リリカルなのはの、フェイト×なのはにSSを一本追加しました。
タイトルは、バレンタインデーですので。
『バレンタインデー 当日(前)』
だす。
前、って事は後があるんだよ・・・。あと、半分あるんだよ・・・

バレンタインデー 当日(前)

土曜日, 2月 14th, 2009

 八神部隊長のから緊急告知から一日が経過した。

 所謂、バレンタインデー当日である。

 その日の、機動六課は何時もと違っていた。

 どこか雰囲気が柔らかく、甘い匂いを醸し出している。

 仕事に忙殺されそうになっていた昨今では珍しいゆとりがそこかしこ

と窺えた。

 それでも、通常業務は滞る事無く処理されている辺り、はやての言う

通り、みんな真面目なのだろう。

 なのはを丸め込む為だけと思われた口八丁は、案外にも的を得ていた。

「流石は部隊長ってところ、かな」

 六課のオフィスに用意された自席に座っていたフェイトは、その観察

眼と手練れを素直に賞賛する。

「でも、執務室が使えないのはちょっと困るんだけどなぁ」

 今日一日、はやての命令で執務室は使えない。

 正確には執務室だけでなく、個人にあてがわれた全ての部屋が閉鎖さ

れている。

 今回のイベントが発動中は、部屋に篭る行為自体が禁止事項に当たる

らしく。

 部隊長権限で、どの部署もオフィスをメインに利用するように通達された。

 ただし、どうしても必要であれば、利用を許可されている。

 その代わり部隊長の許可が必要だ。

 フェイトも執務室の利用許可を申請したのだが、即座に却下された。

「フェイトちゃんとなのはちゃんは六課の華や。絶対にオフィスにおら

なあかん」

 良い塩梅に公私混同した部隊長命令が、なのはとフェイトには別に下

されている。

 お陰でフェイトの仕事は今日一日ほぼ停滞が確定された。

「気持ち的に楽ではあるけれど、ね」

 他人に見られても支障のない、案件を画面に映し出しながら、フェイ

トは呟く。

 普段は機密事項が多い任務が多いせいで報告書一つでも気が抜けない。

 仕事の重要性を落とすつもりはないけれど。

 幾分か肩の力が抜けるのは本当だった。

 コンソールを叩きながら、仕事をこなしていると、突然館内放送が響いた。

『みなさん。仕事お疲れ様です』

 声の主は、はやてだった。

『突然ではありますが、今から15分間、休憩時間とします』

「え?」

 何を言い出すんだ、と聞き耳を立てていると、はやての固い口調が砕

け散った。

『さぁイベントのお時間や!みんな好きに動いてええでっ!!』

「………はやてー」

 この場にいなくとも、拳を握って満面の笑みを浮かべている姿があり

ありとフェイトには想像が出来てしまい、頭痛がする頭を抱える。

「あの、ハラオウン隊長……」

 ふと、声を掛けられた。

 顔を上げると、女の子が二人、傍に立っている。

「その、これ…受け取って頂けますか?」

 遠慮がちに差し出されたそれは、紛れもないチョコレート。

 地球のようにバレンタインデー特有の包装はされてはいないが、可愛

いラッピングが施されている。

「あ、ありがとう」

 微笑んで、フェイトが受け取ると、それが合図となった。

「ずるい!」

「私も渡そうと思ってたのに!」

「俺だってっ!」

 そんな罵声に近い叫びが幾つも木霊する。

 微妙に男性職員の声が交じっているのは、例の流行のせいだろう。

 途端、フェイトの周囲には人だかりが出来た。

「ありがとう……」

 一つ、一つを丁寧に受け取りながら、フェイトは地球で過ごした学生

時代を思い出す。

 最初はバレンタインデー自体を知らなくて、なのはに聞いた。

 教えて貰った時は、そんなイベントがあるんだと吃驚して、自分には

無縁だと思ったものだ。

 けれど、実際は沢山チョコレートを貰ってしまって。

 こんなに貰っても良いのかと困惑していると、アリサやすずか、はや

てがフォローしてくれた。

 勿論、なのはも率先して助けてくれた。

 それから、五人でチョコレートを交換したり、お互いのチョコの感想

を言い合ったりして、一日を過ごして、楽しんだ。

 しかし、今年のバレンタインデーは五人集まる事が出来ない。

 その上、なのはからのチョコレートが無いと思うとつい気分が沈む。

「ハラオウン隊長?」

「あ、何でもないよ」

 浮かない気分が顔に出ていたらしく、局員の一人が心配そうな顔をし

ている。

 出来る限り、微笑んで、フェイトは再びチョコレートを受け取った。

 ちらりと、なのはのデスクに目を向けると、フェイト同様に人の壁が

出来ている。

 恐らく部隊長室も大変な事になっているだろう。

 沢山の義理チョコを貰うのはお互い変わらないのに、どうして今年は

本命同士で交換が出来ないのだろう。

 理不尽だと、身勝手な思考に陥りそうになった頃、再び館内放送が響いた。

『はーい。休憩終了ー。みんな仕事に戻ってやー』

 部隊長の威厳を捨てた声に、フェイトを囲んでいた職員が散り散りになる。

 オフィスに静寂が戻り、何時もの仕事風景がフェイトの目の前に広がった。

 見事なまでの統率と、チームワークにフェイトは半分呆れ、半分感心する。

 フェイトもまた、画面に視線を移して仕事を再開しようとしたが、デ

スク上のチョコレートの山に手を止めた。

 このままにしておくのは失礼だ。

 とはいえ、デスクの引き出しに仕舞えるような量でもない。

「購買で紙袋でも買ってこようかな」

 本当に学生時代に戻った気分でチョコを整理していると、誰かの指先

がトンとデスクの端を叩いた。

「フェイトちゃん」

「なのは」

 ふわりとフェイトの顔が綻ぶ。

「購買に紙袋買いに行くんだけど一緒に行かない?」

「うん」

 誘われたフェイトは嬉しそうに立ち上がる。

 入り口に向かう途中、なのはのデスクに振り返ると、フェイトのデス

クに負けず劣らずの山が築かれていた。

 なるほど、と納得してフェイトはなのはと一緒に部屋を後にする。

「みんな、凄かったね」

 ふぅと息を突くなのはの感想に、フェイトは頷いた。

「本当だね。でも何時用意したんだろ?」

 はやてが企画書を提示したのは昨日だ。

 風習がないから、企画書を見てからチョコレートを用意した事になる。

「そういえば、昨日購買部が凄い盛況だったって聞いたけど」

 思い出したように言うなのはに、フェイトは足を止めた。

「え?それってまさか……」

「………多分」

 同じ結論に達したのだろう。

 顔を見合わせたフェイトとなのはは購買部に走り出す。

 そして、知った。

 みんながどうやってこの短期間にチョコレートを入手したのかを。

 購買部には、特設のチョコレート売り場が出来ていた。

 しかも、並んでいるどのチョコレートも既に完売の札が立っている。

 見本の包装紙は、先刻貰ったチョコレートと同じで。

「はやて、何時から企画してたのかな……」

「さぁ……?」

 一両日で用意するのは不可能な万端さに、なのはとフェイトは呆れた。

 先の先まで読めなければ部隊長は務まらない。

 手際の良さ、行動力、周到さが仕事でも活かされるのなら、はやての

資質はやはり指揮官向きなのだろう。

 そんな事を思いながら、ぼんやりと仮設のチョコレート売り場を見て

いたフェイトは気づく。

 購買の事を知っていれば、昨日のはやてとの交渉は必要なかった。

 そして、先に教えてくれれば、こんな思いをせずに済んだ。

「って、はやてのせいじゃない、か」

 溜め息を突いて、フェイトは額を押さえる。

 忘れていたのは自分の落ち度だ。

 人のせいにするべきじゃない。

 どうも、今日はマイナス方向にしか思考が向かないようだ。

 戒めるように自分の頭をフェイトは、こつりと叩く。

「フェイトちゃん?」

「あ、何でもないよ」

「本当に?」

「うん。はやて凄いな、と思ってただけだから」

「はは。そうだね」

 苦笑するように笑うなのはに応えるように微笑むと、後ろから声を掛

けられた。

「おー、お二人さん。やっぱり来とったなー」

「はやて」

「はやてちゃん」

 振り返ると、何時の間にかはやてが立っている。

 手には何も入っていない白い大きな紙袋を持っていた。

「ほい。大人気のお二人に差し入れ」

 言って、紙袋をはやては、なのはとフェイトに渡す。

「あ、ありがとう」

「はやてちゃん。私達が紙袋を買いに来るって解ったの?」

 なのはの疑問は最もだった。

 二人でその場で決めた買い物に居合わせるには、あまりにもタイミング

が良すぎている。

「ミッドでは初のバレンタインデーやろ?地球とは違うから、自分らの

人気を見くびって何も用意して来ぃへんと思ったんや」

「はぁ…」

 そこまで予測されていると、フェイトはもう何も言えない。

「特にフェイトちゃんは自分を知らない傾向があるからな」

「そう、かな?」

「そうや」

「そうだよ」

 二つの声がはもった。

「え?」

 見ると、はやてだけではなく、なのはも大きく頷いている。

「な、なのは?」

「本当、昔からフェイトちゃんは自分の人気を解ってないよね」

「せやね。私らの中でもいっちゃん人気があるのに、全然理解してへん

もんな」

「あの、二人とも……」

「どれだけ私がヤキモキしてたかも、気づいてくれないし」

「そうそう。そのなのはちゃんを宥めるのに、私やアリサちゃんやすず

かちゃんがどれだけ大変やった事か」

「はやてちゃんは、揶揄って遊んでたよね」

「せやっけ?」

「そうだよ」

「え、と。私は、どうしようかな……」

 昔のほろ苦い思い出話を興じるはやてとなのはは、楽しそうだった。

 途中で話を中断させるのも悪い気がして、フェイトは先に戻ろうか悩む。

 困りながら、オフィスの方へ振り返ると、チョコレート売り場が目の端

に映った。

 どれ位の数が売られたのか解らないけれど。

 フェイトが貰った分だけでも相当な数がある。

 そのうちの一つでも手に入れる事が出来たのならなのはは喜んでくれ

ただろうか。

 未練がましい自分にフェイトは自嘲する。

 みんなの気持ちは嬉しく思う。

 けれど、一番大切な人からのチョコレートが無いのバレンタインデー

は寂しい。

 多くの気持ちよりも、たった一人からの大切な想いが欲しかった。

 今年は本当に、仕方ない、で終わりそうで。

 つい、嫌だなと考えてしまう。

「フェイトちゃん、フェイトちゃん」

 袖口を引っ張られたフェイトが視線を落とすと、なのはが見上げていた。

「そろそろ戻ろ」

「あ、うん」

 仕事を抜け出して、購買に来ているのだ。

 あまり油を売っている訳にはいかない。

「はやては?」

 何時の間にか、はやての姿が消えている。

「先刻、リインちゃんに連行されてったよ」

「そうなの?」 

 連行とはまた重々しい響きで連行されたな、とフェイトは苦笑いした。

「あんなにはやてちゃん叫んでたのに、フェイトちゃん気づかなったの?」

「ちょっとぼーとしてて」

 まさかなのはからのチョコレートがないバレンタインデーは嫌です。

 なんて言える筈もなく、フェイトは曖昧に笑って誤魔化す。

「もしかして、体調悪いの?」

「そんな事ないよ」

 心配するなのはの肩をぽんと叩いて。

「さ、戻ろうか」

 フェイトはオフィスへとなのはを促した。


あと半分・・・(息切れ)
なんでこんなに無駄に長いんだぁぁぁぁ(泣)

 

バレンタインデー 前日

土曜日, 2月 14th, 2009

 JS事件に終止符を打ち、ミッドに再び平和な日々が戻って来た。

 しかし、機動六課はいつに増して忙しい日々が続いていた。

 JS事件の事後処理と日常的に起きる事件の依頼。

 特に事件の依頼は、功績が認められたお陰で飛躍的に増えている。

 どの部門も毎日、てんてこ舞いの日々を余儀なくされた。

 フォワード陣はその応援に駆り出され、なのはやフェイト、ヴィータ

と上位クラスはJS事件の事後処理と本局への報告で一日が終了する始末だ。

 猫の手も借りたくなる忙しさの中、はやてはフェイトの執務室を訪れた。

「フェイト隊長、JS事件の事後処理はどれ位進みましたか?」

「被害規模や被害者の総数はほぼ解析が終了しました。ただかなりの規

模ですので、復旧支援に関する事項や対応策、被害にあった住民へのア

フターケアについては、まだ時間が掛かります」

「そうですか。引き続きお願い致します」

「はい」

「……まぁ、あれだけの事件やったし何をするにしても時間は掛かるわな」

 ふっと、くだけた物言いになるはやてにフェイトは苦笑する。

「そうだね」

「なのはちゃんも教導を休みにして飛び回ってるもんなぁ」

 言って、ソファーに腰をはやては下ろした。

「うん。朝から晩まで凄い勢いで仕事してるよ」

 JS事件の前線にいた者として本局に求められた詳細な報告書を、早々

に認めたなのはは、朝から晩まで復旧支援や被害住民への救援物資の配

給の補助。

 本当に朝から晩まで飛び回っている。

「無茶しとらんか心配やなぁ」

「うん。でも、言っても聞いてくれないんだ」

 疲れていないか聞いても大丈夫としかなのはは言わない。

 逆にフェイトの事を心配する始末で、正直、聞きづらい部分があった。

「ヴィヴィオのお陰で、夜は休んでくれる分、まだ前よりは安心出来る

んだけど」

 愛娘のお陰で、流石のなのはも夜は早めに宿舎に帰って来る。

 少しの時間でも部屋で寛いで、寝てくれる分だけ、安心出来た。

「そういうフェイトちゃんはどうなん?」

「私?」

 話の論点を自分に向けられたフェイトは聞き返す。

「最近、夜中まで仕事してるやろ?」

「そんな事ないよ」

「嘘つきは泥棒の始まり。私が捕まえたろか?」

「それは、困るな」

 午前様が常となっている事を見抜かれたフェイトは苦笑する。

「大丈夫。ちゃんと寝てるよ」

「ほんまに?」

「本当だよ」

 信じていない瞳に、フェイトは肩を竦めた。

「なのはと可愛い娘がいるから、気持ちよく寝れるよ」

「あー……さよけ」

 当てられたはやては、それ以上聞くのを止める。

「ま、うちの子達も遅くまで仕事してはるし。みんな、お疲れ様や」

「で、その総責任者の部隊長は、ここに何しに来たのかな?」

 ソファーにどっかりと腰掛け、のんびりと寛ぐはやてにフェイトは問いた。

 この課全体が忙しいなか、はやての周囲だけ時間の流れが穏やかなの

は恐らく気のせいじゃないとフェイトは思う。

「さぼってると、リインに怒られるよ」

「さぼってへんよー。ちゃんと仕事しとるでー」

「じゃあ、ここで報告しても良いかな」

「それは勘弁」

 どこまでが息抜きで、どこからが仕事モードなのか。

 言動が一致しないはやてを見ながらフェイトは苦笑いを浮かべる。

「ほんまの話。最近はみんな残業の嵐やないか」

「まぁ、そうだね」

 補佐であるシャーリーも、本日は手を離せないフェイトの代わりに本

局へ赴いている。

 そのついでに幾つかの資料もお願いした。

 帰って来るのは恐らく夜になるだろう。

 また、フェイトの周囲を差し引いても仮眠室の使用が順番待ちと化し

ている時点で、どれだけ忙しいかは十分見て取れる。

「そろそろ息抜きが必要だと思わへん?」

「……何をする気なの?」

 はやての言い方に数ある部隊長権限を駆使した『息抜き』を思い出し、

フェイトは警戒した。

「私は何もせえへんよ」

「本当に?」

「ちょこっと六課の共用掲示板に企画書を提示しただけや」

「企画書?」

 一体、どんな企画なのだろう。

 ただ口の端を上げるはやての表情から言って、あまり良い内容ではないと

フェイトは確信する。

「フェイトちゃん、気になるか?」

 後で確認しようと思っていたフェイトの心は、はやてに先回りされていた。

「フェイトちゃんも忙しい身やし、特別に私が直々に教えたろか」

「……どうも」

 はやてが率先して教えてくれる時は、フェイトやなのはが大きく関わっ

ている事が多い。

 と、いうより、良くも悪くもほぼメインと言っても過言ではない。

 警戒心を解かないフェイトに、にっこり笑いながらはやては言う。

「フェイトちゃん、今日が何日か覚えてるか?」

「何日って……」

 デスクの上のカレンダーを確認しようとするフェイトにはやては早口

で付け足す。

「あ、地球時間で考えてな」

「地球の時間で?」

 ミッドと地球では暦の数え方も違えば季節も一致しない。

 資料を片手にしたまま、頭の中で本日が地球だと何日に当たるかフェ

イトは計算する。

「え、と。2月の…13日、かな」

「せや。バレンタインデー前日や」

 フェイトの手から資料が滑り落ちた。

「え?あ、えぇ!?もうそんな時期だっけ!?」 

「こっちではバレンタインデーという風習があらへんから関係あらへんけど」

 言って、フェイトにはやては顔を近づける。

「フェイトちゃんには、関係あるよなぁ」

「―――っ!」

 したり顔のはやてに、フェイトは二の句が告げない。

 中学を卒業して、ミッドに移り住んで、早数年。

 最初は戸惑ったミッドの生活にも今はすっかり馴染めている。

 しかし、地球での風習をフェイトは忘れないようにしていた。

 それはなのはも同様で。

 日にちを地球時間に換算しては、なのはとお祝いするようにしてきた。

 なのに、今回に限ってすっかりフェイトは忘れていたのだ。

 しかもよりによって、恋人同士のメインイベントの一つ、バレンタイ

ンデーを。

 日々の忙しさに飲まれて、なんて言い訳に過ぎない。

 何とかせねば、とフェイトは頭をフル回転させた。

 今からでは手作りは無理だ。

 そんな時間はない。

 ならば、既製品に頼るしか手はない。

 しかし、買いに行く時間があるかと言えば、それも無いに等しかった。

 フェイトが現在いる、機動六課は郊外に設置されている。

 面積も広く、訓練施設も充実してるが、逆に言えば、それしかない。

 僻地である。

 ミッドにない風習の物を手に入れるにはそれなりのショッピングモー

ルまで出向かなければ手に入らない。

 お昼の休憩時間は1時間。

 ショッピングモールに行って、チョコレートを選んで、帰って来るに

は厳しい時間だ。

 むしろ、チョコレートを選ぶだけで1時間以上掛けられる自信がフェイ

トにはある。

「はやてお願いがあるんだけど!」

「15回」

「え?」

 速攻で返ってきたはやての返事に、フェイトは瞳を瞬かせた。

「胸を15回揉ませてくれたら、休憩時間の延長を認めるで」

「なっ――!?」

 足元を見た取引にフェイトは歯噛みした。

 いくらはやてが相手とはいえ、なのは以外に触らせるつもりはフェイ

トには毛頭無い。

 しかし、隊長としての立場、それ以前に仕事中である以上、部隊長の

認可なしで、休憩時間をオーバーする訳にはいけない。

 絶体絶命。

 そんな単語がフェイトの脳裏を過ぎる。

「じ、10回!」

「うわ。フェイトちゃんセコいなぁ」

「はやてには言われたくないよ!」

 心中でなのはに謝りつつ、フェイトはぎりぎりラインの交渉を持ち込む。

「10回かぁ」

 求めた回数よりも5回少ないフェイトの提示に、顎に手を当ててはや

ては真剣に考える。

「フェイトちゃんの胸は、なのはちゃんの監視が厳しくて触れられへん。

レア物やからなぁ」

「レア物って…」 

 凄い言われようだと、フェイトが思っていると、はやての中で決着が着い

たらしく。

「よっしゃ。それで手を打つわ」

 はやてが本当に両手を打った。

「10回。代わりに休憩時間を1時間延長。それでええか?」

「う……う…」

 腑に落ちないところは多々あるが、背に腹はかえられない。

 フェイトが承諾しようとしたその時。

「はやてちゃーーーんっ!!」

 執務室の扉を壊しそうな勢いでなのはが入ってきた。

「なのはちゃん」

「な、なのは!?」

 吃驚顔で見つめるはやてとフェイトの元に、怒り顔のなのはが迫って

くる。

「この企画書はなに!?」

 言って、手にしている企画書をはやてになのはは突きつけた。

「なのはちゃんあかんよ。掲示板の掲示物を勝手に剥がしたら」

「そうじゃなくてっ!」

 胸倉を掴みそうな勢いでなのはは、叫ぶ。

「この企画のせいで女の子だけじゃなくて男の子まで浮き足立っちゃっ

て仕事にならないよっ!」

「男の子?」

 不思議そうにフェイトは首を傾げた。

 確かに地球に住んでた頃も男の子もチョコレートが貰えるか解らない

せいか、そわそわしてはいたけれど。

 風習のないミッドでも、心境はやはり同じなのかな、とフェイトは思う。

「今、どれだけみんなが忙しいか、はやてちゃん知ってるよねっ!?」

「せやから息抜きが必要なんやろ」

「だからってこれは無いでしょっ!」

「あ、あの。な、なのは」

「何!?フェイトちゃん!」

 はやてに向けていた視線のまま振り返られて、フェイトの背筋が凍る。

「えと。はやての企画って……どんなもの、なの、かな?」

 それでも、勇気を振り絞って問うと、鋭い視線が和らぎ、瞬いた。

「フェイトちゃん、この企画書見てないの?」

「うん。今日はずっと執務室に詰めてたから」

「そっか。じゃあ見てみて」

 なのはから手渡された企画書にフェイトは目を通す。

 ピンクのハートや黄色の星が書かれているファンシーな企画書は、企

画書と言うよりはお菓子会社のチラシのようだが、イベント的には合っ

ている。

 企画内容は概ねフェイトが思った通りだった。

 バレンタインデーの説明と開催日の限定。

 場所は六課内のみ。

 要するに、意中の人やお世話になっている人にチョコレートを渡しま

しょう。

 ただし、ミッドの風習じゃないから、六課内の人間限定ね。

 そんな内容だった。

 ただし、最後に一文。

 わざわざ波線まで引かれた箇所には『男女問わず』と記述されていた。

「あれ?バレンタインデーって女の子が男の子にチョコレートを渡すイ

ベントだったよね?」

 本来の目的は、好きな相手への告白のイベントだが、実際には女の子

の友達同士で交換し合ったりする。

 フェイトも地球に住んでいた時は、アリサやすずかともチョコレート

を交換した。

「あぁ、それはな。今年は逆チョコ言うて、男の子が女の子に渡すのも

ありらしいんよ」

「そうなんだ」

「すずかちゃんが今年の流行や言うてたから企画に取り入れてみました」

「凄いね。はやて」

 地球の流行にも精通するはやてを素直にフェイトは感心した。

「フェイトちゃん感心しないのっ!」

「は、はい!」

 同時に飛んできたなのはの声に、思わずフェイトは姿勢を正す。

「とにかく!この企画は却下っ!」

「なんや、なのはちゃん。フェイトちゃんへのチョコレートを心配しと

るん?」

「してないっ!」

「な、なのは……」

 はっきり告げるなのはに軽くフェイトはショックを受ける。

「フェイトちゃんが人気あるのは昔からだからもう慣れたよ!」

「ほんまにー?」

「そりゃあ中学の頃は断らないフェイトちゃんにちょこっと殺意も沸い

たけど!フェイトちゃんは私の事だけを好きだって言ってくれるし、私

もフェイトちゃんの事好きだからそれはもう良いの!」

「……なのは」

 さらりと嬉し恥ずかしい事と、怖い事を言われた気がフェイトはした。

 しかし、それを確認できる雰囲気なく、静かになのはとはやての動向

を見守る。

「何気に惚気なんか?」

「そうじゃなくてっ!お仕事の話っ!!」

 のらりくらりとかわすはやてになのはのヒートアップは止まらない。

 血管が切れそうだなぁ、とぼんやりフェイトは心配する。

「あんな、なのはちゃん」

「何!」

「ちょ、怒鳴らんと。聞いてや」

 なのはを宥めながら、はやては言う。

「なのはちゃんの言う通り、JS事件の事後処理や任務やらみんなもの凄

く頑張ってくれてる。それは私も解ってるし感謝もしとる」

「だったら!」

「せやから息抜きが必要なんとちゃうか?」

 コホンと咳払いをして、真剣な顔をしたはやては、部隊長だった。

「仕事ばかりじゃ心に余裕がのうなってまう。余裕の無い仕事はミスに

繋がる。下手したら重大な事にだってなりかねへん」

「それは……」

 はやての言いたい事はなのはにも理解出来る。

 ほんの些細なミスが命取りになりかねない職場では、どんな状況であ

ろうと思考する余裕が必要だ。

「やけど、みんな真面目さんやからね。休め言うてもよぉ休んでくれへん」

 なのはちゃんもな、とはやては笑う。

「そこでこの企画や」

 フェイトの手にある企画書を指して、なのはにはやては続けた。

「六課内だけのイベントやけど、少しは仕事を忘れる事が出来るやろ」

「……うん」

「それにバレンタインデーは一日限定。次の日からはまた仕事の嵐や」

 なのはの肩に手を置きながら、はやてはお願いする。

「少し位、みんなで遊んでもバチは当たらへんとちゃう?」

「………そうだね」

 ふぅと息を吐いて、なのはは頷いた。

「仕事ばかりじゃ駄目だよね」

「そうそう」

 にっこりと笑い、なのはの肩を叩きながら密かにVサインを送ってくる

はやてに、フェイトは感心する。

 上手く言いくるめたなぁ、と。

「なのはちゃんも明日は肩の力を抜いてな?」

「うん。折角の部隊長の心遣いだもんね。私も明日はみんなを見守る事

にするよ」

「そうしたって」

 すっかり何時もの明るい雰囲気を取り戻したなのはに、ほっとフェイ

トは安堵する。

「ところで、なのはちゃんは今年はどんなチョコを用意しとるん?」

「え?今年は何も用意してないよ」

 しかし、フェイトの平和は束の間だった。

「……フェイトちゃんにも、か?」

「だってそんな暇なかったよね?」

「それは、そうやろうけど…」

 バツが悪そうに歯切れの悪いはやての顔には大きく、しくじったと書

かれており。

 固まって呆然としているフェイトに、視線がごめんと謝罪した。

「フェイトちゃんは私に何か用意してくれてたの?」

「え!?あ……その……」

 用意しようと思って、はやてと交渉してました。

 なんて、言える筈もなく。

「ごめん……。私も用意、してない……」

 素直にフェイトは吐露する。

「そっか。でも今年は大きな事件とかあったし、しょうがないよね」

「…うん。そ、うだね」

 明るくなのはに言われてしまったら、もうフェイトは頷くしかない。

 自分も用意するどころかイベントそのものを忘れていたのだから、な

のはを責めるのはお門違いだ。

 まして、本当にミッドを揺るがすような事件直後だ。

 未だに終わりが見えない事後処理の量を考えれば、仕方がない。

 その言葉がしっくりくる状態だ。

 フェイトも解ってはいる。

 けれど、どこかで期待をしていた。

 忘れていた自分を棚に上げる考えだけれど。

 バレンタインデーに気づいた瞬間から、なのはからチョコレートが貰

えると確定していた。

「じゃあフェイトちゃん、はやてちゃん。私は仕事に戻るね」

「あ、うん」

「はやてちゃんも早く部隊長室に戻ってね。リイン、きっと怒ってるよ」

「はは…。解ってます」

 元気に仕事に戻って行くなのはを、元気がなくフェイトとはやては見

送った。

「……あー、フェイトちゃん……」

「……何、はやて」

「休憩時間の延長の話、やけど」

「いらないよ……そんなの」

「……せやね。でも、普通の休憩だけは取ってな」

 休憩そのものを忘れそうな暗雲立ち篭めるフェイトの肩を叩いて。

 はやては一言。

 ほんまにごめん、と謝った。


前日SSぎりぎりせーふ(只今2月13日20:04)
果たして当日SSは当日にあがるのか!?

リリカルなのは フェイト×なのは

金曜日, 2月 13th, 2009

リリカルなのはの、フェイト×なのはに、SSを一本追加しましたー。
タイトルは、
『バレンタインデー 前日』
だす。
色々とギリギリセーフ…。当日SSが当日に上がるかびみょーだけど(爆)
あ、他のジャンルも2月中にバレンタインデーSSをあげる予定です。

リリカルなのは なのは×フェイトに追加

水曜日, 2月 11th, 2009

リリカルなのはのなのは×フェイトに一本追加しましたー。
タイトルは、
『夜空-なのは-』
だす。
夜空-フェイト-のなのはさん視点のお話。

夜空-なのは-

水曜日, 2月 11th, 2009

 事件もなく、平穏な時間が流れる夜は、とても静かだった。

 突然のアラートもなく、ゆったりとした寛げる時間。

 自室のソファーに腰掛けて、なのはは雑誌を広げていた。

 特に見たい記事があった訳でもなく、暇潰しの感覚で目を通す。

 一ページ、二ページとページを捲り、残りのページよりも読んだペー

ジが多くなり始めた頃、なのはは時計へ視線を移した。

 時刻は十時を回ろうとしている。

「フェイトちゃん、遅いなぁ」

 外回りの多いフェイトの帰りが遅いのはよくある事だが、今日は六課

に一日詰めており、ライトニングの訓練も手伝って貰った。

 その後も、はやてと仕事の打ち合わせや資料整理と、多忙にはしてい

たけれど。

 どれもこんな時間まで残業が必要な程、急ぎの仕事ではなかったよう

に思う。

 突然の出動でも入ったのだろうか。

 しかし、直ぐにその考えをなのはは否定した。

 もしそうならば、なのは自身にも何らかのアクションがある。

 しかし、未だにそれはない。

 と、いう事は、特に大きな事件もなく、この平和な夜は本当なのだろう。

 ならば、フェイトはどうしたのだろうか。

 帰って来ないフェイトがどうしても気になって。

 なのははコンソールを開けた。

 端末を叩き、はやてへの通信を行う。

 数秒の空白の間、画面にはやてが映った。

『なのはちゃん。どないしたん?』

「はやてちゃん、遅くにごめんね」

 はやても今日は早めに仕事が終わったらしく、画面内のはやては私服だ。

「フェイトちゃんって、まだお仕事してるのかな」

『フェイトちゃん部屋に戻ってへんの?』

「う、うん……。まだ、帰って来てない」

『おかしいなぁ。今日は私とあまり変わらんくらいに上がったけどなぁ』

「はやてちゃんは何時に上がったの?」

『私は三十分位前に帰って来たとこやで』

 ならフェイトももう部屋に戻っていないとおかしいという事になる。

 どこで何をしているのだろう。

 束縛するつもりはない。

 けれど、何も解らない状態がなのはの不安を煽る。

『大丈夫やって』

 不安が伝わったのか、安心させるようにはやては言う。

『仕事忙しかったし、気晴らしに散歩でもしてるんだけやろ。今日は天

気もええしな』

 はやての言葉になのはは顔を上げた。

 窓から空を見ると、星がちろちろと瞬いている。

 その中にぽっかりと浮かぶ大きな満月。

 フェイトの行き先に思い当たったなのはは、早口ではやてに言う。

「ありがとう。はやてちゃん」

『へ?あ、ちょお――!』

 一方的に礼を言って、なのはは通信を切った。

 カーディガンを一枚羽織り、部屋を出ると、小走りで階段を駆け上がる。

 はやてとの会話でなのはが思い当たったのは、宿舎の屋上だった。

 まだなのはもフェイトも地球に住んでいる頃。

 よく二人で夜空を飛んだ。

 特に約束する訳でもなく、お互いに気分だけで相手を誘う散歩は、何

時も月が綺麗なだった。

 ミッドチルダに移り住んでからは、仕事の忙しさや飛行許可が必要だっ

たりと、地球とは異なる生活に夜空の散歩が出来なくなったけれど。

 二人で駆けた夜空の美しさと、月光で映し出される金色のシルエットを。

 そして、月が好きだと言っていたフェイトの言葉を。

 なのはは覚えている。

 階段を上りきると、眼前に鉄の扉が現れた。

 静かに扉を開けて、視線だけでなのはは屋上を窺う。

 予想通り、フェイトはそこにいた。

 手摺りに凭れ掛かり、空を見上げている。

 正確には月を眺めているのだろう。

「フェイ――」

 声を掛けようとして、なのはは息を飲んだ。

 風に靡いた長い髪は淡い月の光と交わるように溶け、浮かぶシルエッ

トは魔力光を放つように金色に輝いている。

 フェイトの魔力光と同じ彩の光。

 それに包まれるフェイトは、そこにいて、そこにいなかった。

 声を発する事すらできない程、引き込まれるたなのはは、フェイトを

見つめ続ける。

 何もかもを忘れて、見惚れていると、フェイトが視線を足元に落とした。

 その表情は憂いを秘めていて。 

 認めたなのはは眉根を顰めた。

「……フェイトちゃん」

 そんな表情をさせる原因が己だという事をなのはは知っている。

 そして、知らない振りをしている事をフェイトは知らない。

 罪悪感からなのか、フェイトの表情になのはの胸が苦しくなる。

 何時までもあんな顔をさせたくないのに。

 どうしても足が動かない。

 ゆっくりとフェイトの視線が動いた。

 影を追うようにこちらに気づくフェイトに、なのはの鼓動が速まる。

 視線が合った。

「こんなところにいたんだ」

 まるで今初めて、此処を訪れたようになのはは言った。

 ゆっくりフェイトの元へ歩みながら、痛む胸を押さえ込む。

「フェイトちゃん」

 ふわりとフェイトの瞳が優しく細まる。

「なのは」

 穏やかな声に、なのはの胸の痛みが増した。

 それでも、表情にも口調にも出さないで。

 なのはは微笑んだ。

「部屋に帰って来ないから探しちゃったよ」

「あ、ごめん……」

「謝らなくてもいいよ」

 直ぐに謝るのはフェイトの悪い癖だとなのはは苦笑した。

「何してたの?」

「ん……空、眺めてた」

 視線を上げるフェイトを追うようになのはも夜空を見上げる。

「そっか。今日はお星様が綺麗だもんね」

 言う、なのはの瞳に星は映ってはいなかった。

 満月の輝きだけを感じる。

「なのはは、やっぱり夜空も好きなの?」

「そうだね。夜の空も好きだよ」

「……そっか」

 少し、寂しそうな短い返事。

 伝わっている想いと気づかれない情。

 けれど、どうしても堪えきれない時がある。

 苦しくて、痛いから、息を吐くように少しだけ垣間見せる。

「…でもね」

「ん?」

「空よりも…お月様の方が好き、かな」

 空は今でも大好きだけれど。

 それよりも好きな、大好きな人がいるんだと。

 気づかれないように想いを伝える。

「そうなの?」

「うん」

 不思議そうに見つめてくる瞳は、なのはの予想通りその意味に気がつ

いてはいない。

 そして、解りきった答えを聞く。

「フェイトちゃんは」

「ん?」

「フェイトちゃんは、お昼の空と夜の空と、どっちが好き?」

「私は……昼の空、かな」

 その空に誰を重ねているのか。

「昼の、蒼い空が好きだよ」

 その言葉で誰を想っているのか。

「……そっか」

 知っているからこそ、切ない。

 遠回しにしか伝えてもらえない想いを、直接聞いた事は一度もない。

 心のままに言ってくれたらどんなに嬉しいだろうか。

 懇願に近い願いがなのはの瞳を揺らす。

「なのは?」

「ん?何?」

 努めて、普通になのはは聞き返した。

 窺うようなフェイトの瞳が、痛い。

 しかし、視線を逸らせば心配をさせてしまう。

 必死にフェイトを見つめ返していると、不意になのはは腕を引っ張ら

れた。

 一瞬の間で、フェイトの胸の中に捕らわれる。

「フェイトちゃん?」

「………なのは」

 切ない呼び声に、まただ、となのはは思う。

 時々フェイトは突然、なのはを抱く事があった。

 辛そうな表情で、苦しそうに息を殺して。

 それでも離さないフェイトは何時も自分と闘っている。

 だから、今日もなのはは繰り返す。

「どうしたの?」

「なんでもない……」

 嘘。

 激しい情に飲まれそうになるのを必死に耐えているのに。

「辛いことでもあった?」

「なにもないよ……」

 辛くない筈がない。

 打ち明けようとしない想いで胸が張り裂けそうになっているのに。

「嫌なことでもあった?」

「……大丈夫だよ」

 嫌だった。

 こんなにも苦しそうな姿は見せるのに。

 親友以上を望んでくれないフェイトの心が嫌だった。

「フェイトちゃん」

 そっと、フェイトの背になのはは腕を回した。

 抱き締めた体が、ほわりとした温もりで暖まる。

「私は、いつだってフェイトちゃんの隣にいるから……大丈夫だよ」

 何時だって、隣にいる。

 隣にいたい。

 例え、体の距離が離れたとしても。

 せめて心だけは共に在りたいと、なのはは願う。

「もうちょっと……このままでも、いい、かな……」

「フェイトちゃんが望むなら……このままで、いるよ」

「ありがとう……なのは」

 何時からなんて、解らない。

 気がついた時にはそうしていた。

 そう、なっていた。

 フェイトが先を望まないから、なのはも大切な一言を言わない。

 卑怯なのかもしれないけれど。

 フェイトが大切だから、本当に好きだから。

 その時が来るまで、祈るようにフェイトだけを想う。

 この想いが届きますように、と。

 この気持ちが伝わりますように、と。

「でもね、フェイトちゃん」

 耳元で囁くようになのはは呼んだ。

「私は、月が、大好きなの」

 それは、謎かけのような告白。

 今のままのフェイトには一生その真意に気づかないだろう。

「それだけは、覚えていて、ね」

 けれど、知っていて欲しい。

 同じ想いだという事を、ほんの少しでいいから心に留めていて欲しい

と思う。

「……うん」

 小さく頷くフェイトの肩は震えていた。

 溢れそうな雫を堪える、明るい月の下。

 二人を照らす、明かりだけが二人の心を知っていた。


夜空-フェイト- のなのはさんVer.
もう「言っちゃえよ!」みたいなツッコミは勘弁(^^; 

まこと×亜美に追加

月曜日, 2月 9th, 2009

まこと×亜美にSSを一本追加しましたー。
タイトルは
『繋ぎ方』
だす。
ちょいとやらせてみたかった・・・・・・。

繋ぎ方

月曜日, 2月 9th, 2009

 のほほんとした日曜日の昼下がり。

 レイの神社に行くついでにと亜美と寄った本屋でまことが見かけたの

は仲の良さそうな恋人同士だった。

 取り立てて目立つ服装をしていた訳ではない。

 本当に普通の恋人同士だったけれど、二人がしていたソレが、まこと

の目に留まった。

 気にした事がなかったソレも、一度気になるとなかなか頭から離れない。

 失礼にならない程度に距離を置いて、ソレをまことは暫く眺めた。

 そして、自分と亜美の間の記憶を逡巡する。

「そういえばした事ない、なぁ」

 近しい事はよくするけれど。

 まことの記憶の限りではソレを行った覚えはない。

「……ちょっと、やってみたいな」

 呟いて、本屋の奧へと視線をまことは向けた。

 最奧の壁一面に並ぶ分厚い書籍の数々は、一般的に手にする人が少な

い、所謂専門書が集約されたエリアだ。

 本屋に入るなり一直線にそこに向かった亜美は未だに自分の世界から

戻って来ない。

 時折、棚から本を取り出しては真剣に中身を吟味している。

 流石にそのエリアに長時間付き合うのは難だったまことは、比較的近

いエリアで料理本を読んで待っている最中だ。

 本屋からレイの神社までは徒歩15分位の距離がある。

 それだけあれば十分試す事は出来るだろう。

 一つ、企みを胸に秘めて、壁に掛かっている時計をまことは見た。

 まもなく30分を経過しようとしている。

 そろそろレイの神社に向かわないと約束の時間に間に合わない頃合いだ。

 あまり遅くなっては待っているレイに悪い。

 ついでに美奈子の揶揄も強くなってしまう。

 立ち読みしていた料理本を棚に戻して、まことは亜美の元へと歩んだ。

「欲しい本は見つかったかい?」

 肩越しにまことは話しかける。

「まこちゃん」

 見上げるように顔を上げた亜美は嬉しそうに手にしていた本をまこと

に見せた。

「ええ。これを買おうと思ってるの」

 亜美がまことに見せたのは辞書と同等の分厚い書籍。

 タイトルは日本語で書かれているものの、その意味を解するだけで時

間が掛かりそうな難しさを匂わせている。

 相変わらずだな、と思わずまことは苦笑いをした。

「良かったね。良い本が見つかって」

「ええ」

 まことには難攻不落な本でも、亜美には貴重な本なのだろう。

 大切そうに両腕で胸に抱く姿はとても嬉しそうだ。

「じゃあさ。そろそろ行かない?あまり遅くなるとレイちゃんや美奈子

ちゃんが心配するしさ」

 入り口付近のレジをやんわり示すと、慌てて亜美が腕時計で時間を確

認する。

「あ、ごめんなさい!直ぐにお会計済ませてくるわ」

「ん、あたしは店を出た所で待ってるよ」

 急ぎ足でレジへと向かう亜美の背に言って、まことは出入り口へと向

かう。

 レジには二人、会計を待っている人がいた。

 亜美の前で待っている人は、先刻目に留まった恋人だ。

 一人が本を持っており、もう一人は付き添いと言った感じで横に並ん

でいる。

 まことが気になったソレも、会計待ちのせいか今はしていない。

 横目で見ながらまことは店を出た。

 邪魔にならないようにと隅の壁に凭れ掛かると、その二人が出て来る。

 笑って話しながら、街の中へと消える並ぶ背中をまことは見送った。

 そのまま人の流れを見つめると、ソレをしている人がちらほらと目に

つく。

 気恥ずかしくなり、視線を外したまことは頬を掻いた。

「うーん」

 亜美に拒否されるとは思わないけれど、吃驚はする気はする。

 上着のポケットに両手を突っ込んで、まことは硝子越しに店内を覗く。

 レジで丁度、亜美が会計を済ませている。

 あと数分もすれば店から出て来るだろう。

 短く息を吐いて、両手を上着のポケットに突っ込む。

 掌を握ったり開いたりを繰り返すと、自動ドアの開く音がした。

「まこちゃん、お待たせしちゃってごめんなさい」

「ん、無事に買えた?」

「ええ。大丈夫」

 肩に掛けているトートバックを亜美は揺する。

 トートバッグは本屋に立ち寄る前よりも見た目で重さが変化していた。

 中には勉強会の為の参考書やノート、勉強に必要な物が一式入ってい

る筈だ。

 それらはほぼ亜美の為というよりも教えてもらう人の為に用意されて

いる。

「バッグ重いだろ?あたしが持つよ」

「大丈夫よ。そんなに重くないから」

「でも今から勉強教えてもらう訳だしさ」

 亜美が断る事は予測していたまことはトートバッグに手を掛けてその

まま引き寄せる。

「これ位、持たせてよ」

「で、でも重たいし……」

「いいからいいから」

 ね?と微笑で、まことは空いている手をポケットから出す。

「で、亜美ちゃんはこっち」

「え?」

 不思議そうに掌を見つめる亜美に微笑んで、まことは言う。

「手、繋いでもいいかい?」

「え…ええ」

 少し躊躇しながら差し出された掌がまことと重なる。

「あ、違う違う」

「え?」

 繋がった手を一度離して、指を絡ませてからまことは掌を密着させた。

「ま、まこちゃん!?」

「まだした事なかったからさ」

「…それはそうだけど……でも……」

 まことがした手の繋ぎ方は所謂、恋人繋ぎで。

 掌と掌の密着度が高く、伝わる体温に亜美は思わず周囲に視線を這わす。

「ちょっとだけ。ね?」

「み、美奈子ちゃんにばれたら揶揄られるし……」

「大丈夫だよ。レイちゃんの家に着く前に離すから」

 それは少し寂しいけれど。

 美奈子の鋭い追求はまことも出来れば勘弁したい。

「駄目?」

 焦って困り果てる瞳に窺うと、真っ赤な顔は俯いて指先に力を込めた。

「ありがと」

 嬉しそうにまことは微笑む。

 指先から掌まで。

 何時もよりも繋がりが深い指先は、少し擽たかった。


んで、手を離すのを忘れて美奈子ちゃんに揶揄られます。