逮捕しちゃうぞ(夏実×美幸)にSSを追加
日曜日, 4月 20th, 2008逮捕しちゃうぞカテゴリーにSSを2つ追加しました。
「逮捕しちゃうぞフルスロットル(17話より)」と「料理」です。
逮捕しちゃうぞカテゴリーにSSを2つ追加しました。
「逮捕しちゃうぞフルスロットル(17話より)」と「料理」です。
のんびりした午前中。
ニトロも使わずに無事に警邏を終えた美幸と夏実はお昼前に墨東署
に戻る事が出来た。
「美幸、私コーヒー買って来るから先に交通課に戻ってて」
署内に設置された自販機を指して夏実は言った。
「じゃあ業務日誌貸して」
夏実が手にしている日誌を美幸は指す。
「私から課長に提出しておくわ」
「そう?んじゃ宜しくー」
おどけた敬礼をする夏実に微笑んで、業務日誌を手にした美幸は
交通課に戻った。
「只今戻りました」
「美幸さん、お帰りなさい」
「ただいま。葵ちゃんも戻ってたんだ」
「ええ。先ほど」
ふわりと微笑む葵の隣の席が空いている事に気づいた美幸は聞く。
「頼子は?」
「お茶を入れに行ってます」
視線で給湯室を指す葵になるほどと美幸は思う。
「夏実さんはどうされたんですか?」
「コーヒーを買いに行ってるわ。頼子と同じようなものね」
「そうですね」
似たような行動を取っているお互いのパートナーに美幸と葵は笑
い合う。
一頻り笑った美幸はふと、葵の手元に広げられた雑誌に目を留めた。
「あれ?葵ちゃんその雑誌…」
「あぁ、これですか?」
雑誌を上げて葵は美幸に見せる。
表紙には『和食、家庭の味』と黒で大きな見出しが書かれていた。
「最近和食に凝ってるんです」
「ちょっと見せて貰っても良い?」
「ええ、どうぞ」
ぱらぱらと美幸が雑誌を捲る。
料理雑誌は所々に付箋が貼られていた。
中には赤い文字で調味料の分量が訂正されていたり、材料が付け
加えられていたりと実践した後も窺える。
男にしておくには惜しいと美幸は思う。
「良ければその本、お貸ししましょうか?」
「でも葵ちゃんが困るでしょう?」
「大丈夫ですよ。作ってみようと思っているお料理はもうノートに
纏めてありますから」
当然と言って、葵は一冊のノートを引き出しから出した。
『和食用レシピ』と表紙に書かれている所から察するに洋食用や
中華用のノートもあるのだろう。
「じゃあ借りても良い?」
「ええ、どうぞ」
コマ目さにほとほと感心しつつ、美幸は葵の言葉に甘える事にした。
軽く目を通すと、小鉢に入ったお浸しや、メインになりそうな揚
げ物が丁寧に解説されている。
どれも夏実が好きそうだと美幸は思う。
「葵ちゃんのお勧めとかある?」
「そうですね……。これなんかどうですか?」
言って、葵はページを捲る。
「簡単で美味しかったですよ」
葵が指したのは筍の酢味噌和えだった。
木の芽も添えられ、春を感じさせる盛り付けになっている。
「このレシピで作ると酢味噌が美味しいんです」
言って、葵は別のページを捲る。
「あとこちらの鰆の塩焼きもどうですか?」
「あ、良いわね。春らしくって」
煮付けよりもシンプルに素材の味を楽しむ夏実が喜びそうだと美
幸は思う。
「それからこちらの・・・…」
葵のお勧めは的確で。
話を聞いている美幸は帰りに寄るスーパーでの買い物リストを頭
の中で整理する。
「ありがとう葵ちゃん。お陰で今日のお夕飯が決まったわ」
「いいえ。お役に立てたなら私も嬉しいです」
言って、葵は微笑む。
「きっと夏実さんも喜びますよ」
不意に出された名前に、美幸は一瞬反応出来なかった。
葵を見つめるとただ微笑まれ。
間を置いて美幸の頬が赤く染まる。
「べ、別に私は夏実の為じゃなくて……」
「私がどーかした?」
「夏実っ!?」
驚いて振り返る夏実が両手を腰に当てて仁王立ちしていた。
口は買って来たコーヒーの缶の端を器用に咥えている。
「どーしたの?そんなにびっくりして」
「う、ううん。何でもない」
不思議そうな夏実に慌てて美幸は首を振った。
「し、知らないうちに後ろに立ってるから驚いただけ」
「あ、そう?」
半信半疑のように首を傾げて口から手へとコーヒーを夏実は持ち
帰る。
「ところでさ。二人して何を見てたの?」
問われた美幸の頭に先刻の言葉が過ぎり。
「お料理の本ですよ」
思わず押し黙ってしまった美幸の代わりに葵は言った。
「私が先日買った本なんですけど、夏実さんもお読みになられます
か?」
「見せて見せて。美味しそうなの載ってる?」
食べ物に目の無い夏実は身を乗り出して葵から雑誌を受け取る。
「どれどれ」
目を輝かせながら夏実は料理の本を読む。
「あ、これ美味しそう。でもこっちも食べてみたいなー」
和食が主体の本のせいか、色々と迷うようで。
目移りしながら夏実はページを捲っていく。
不意に夏実の瞳が輝いた。
「美幸美幸。私これ食べたいっ」
嬉しそうに気に入った料理のページを見せる夏実に美幸は言葉を
失った。
夏実を激しく揺さぶった料理。
それは先刻、葵が薦めてくれた筍の酢味噌和えだった。
「駄目?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「じゃあOK?」
「う、うん。…丁度今日のお夕飯にしようと思ってた所だし…」
「ほんと!?やった!」
嬉しそうに喜ぶ夏実とは裏腹に美幸の心中は穏やかではない。
横目で葵を窺うとただ微笑まれ、思わず美幸は俯く。
葵にそんなつもりがあったとは思わないけれど。
何となく、本当に何となく。
楽しまれている感がする。
そんな美幸の気持ちを知ってか知らずか夏実は上機嫌で美幸に言った。
「筍ってさ、春って感じがして良いよねー」
「そ、そうね」
「そうだ。折角だからさ、春の物ばかりの御飯にしない?私も手伝
うから」
「それは…良いけど…」
夏実の提案に一つの予感が美幸に過ぎる。
その勘は夏実の好みを熟知しているからこそ感じる物で。
普段なら嬉しく思う。
だが、今は少々素直に喜べない。
「んじゃね。あと菜の花のお浸しとふきのとうの天麩羅と…。あ、
あとこれも良いなー」
言って、夏実は刺激された写真を指す。
「鰆の塩焼き」
笑顔で言う夏実に美幸の頬が薄く染まる。
「美幸も魚好きじゃない。どっかな?」
「う、うん。そうね。良いわね…」
困った顔で頷きつつ、横目で葵を覗くと、先刻まで隣にいた葵は
何時の間にか消えていた。
葵の静かな心遣いを心の底から感謝して。
楽しそうな夏実に気づかれぬよう美幸は胸元を押さえた。
***********************
さり気なく葵ちゃんは強いと思います。
料理話の予定が葵ちゃんに遊ばれる美幸のお話に
なってもうた・・・(爆)
「な゛んで、み゛ゆぎはなづみ゛の風邪が移らないのよ゛~」
鼻まで覆う大きなマスクを付けた頼子は、これまた目一杯の鼻声
で美幸に聞いた。
「聞かれても、私にも解らないわよ」
「今、交通課で無事なの゛は、み゛ゆぎだけよ゛~」
言って、咳き込む頼子の顔はやや赤い。
多少熱もあるのだろう。
「私だぢはごんな゛に苦しい思いしてるのに゛、み゛ゆぎだけずる
い~~」
「あのね。ずるいとかそういう問題じゃないでしょ」
「でも、確かに不思議よねー」
この状況の元凶である夏実が言った。
「ちょっと夏実まで何を言い出すのよ」
頼子に同意する夏実を美幸は恨めしく思う。
「だってさ。私ですら風邪を引いたんだよ?なのに美幸だけピンピ
ンしてるんだもん」
「でしょでしょー。み゛ゆぎだけずるいど思わな゛い?」
「ずるいとは思わないけど。不思議ではあるわね」
深く考え始める二人に美幸は溜め息をついた。
実の所、美幸自身が一番不思議に思っている。
夏実に風邪を引かせたウイルスはそれ相応に強力で。
数十分接触しただけの頼子と葵を媒介にして交通課全体を襲った。
頼子や葵は元より、課長や屈強で名高い白バイ組にすらマスクを
付けさせた。
交代で休みを取る事も検討されたが、人数が多過ぎてそれすらま
まならない。
お陰で現在の墨東署交通課は通常業務をこなすのがやっとの状態
だ。
その状況下で美幸だけが健康を保っている。
本来ならば公私共に一番夏実の近くにいる美幸が真っ先に倒れて
もおかしくないのにだ。
「あ、もしかして何とかは風邪を引かないってやつ?」
「夏実、怒るわよ」
信じられない結論に辿り着いた夏実を思わず美幸は睨む。
「日頃の行いの違いでしょ」
夏実や頼子が不思議がるのは最もだが、だからといって健康であ
る事を批判される筋合いはない。
「もしくは夏実の傍にいる私には免疫が出来てたのよ」
付き合いきれなくなった美幸は有り得そうな理由を適当に付け加
える。
「免疫…。おーなるほどぉー」
「やっぱりずるい゛~。そんな゛の持っでるな゛ら私にも分けてく
れればいいの゛に
~」
手を叩いて大仰に納得する夏実の隣で頼子はずるいを連発した。
「分けられる訳ないでしょ。医者じゃないんだから」
「ずるいずるいずるい~~」
「ずるいって。あのね」
「はいはい。頼子もそこまでにしときなって」
駄々を捏ねる頼子の肩を叩いて夏実は言う。
「引いちゃったもんはしょうがないじゃない。諦めなって」
「う゛~。なづみ゛のせいな゛のに…」
「悪かったって。治ったら奢ってあげるから」
「……ほんどに?」
「本当本当。だから美幸に絡んでないで頼子も仕事終わったなら帰
りなって」
「う゛~~。解った……」
完治後の奢りに釣られた頼子は渋々と引き下がる。
「約束だからね゛」
「あーはいはい」
くしゃみを一つを残してロッカールームに向かう頼子に、ようや
く解放された美幸がほっと安堵する。
「夏実、ありがとう。助かったわ」
「いいって。元々は私のせいなんだし」
笑って夏実は言う。
「さて、私達もそろそろ帰りますか」
「頼子が帰ってからね」
また文句を言われたら堪らない。
時間をずらして帰路に着こうとする美幸に夏実は声を出して笑っ
た。
ヨタ8を駐車場に止めて、美幸と夏実はマンションのエレベーター
に乗った。
上階まで上がり、部屋の鍵を美幸は開ける。
「うーん。今日も疲れたー」
「あ、夏実。ちょっと待って」
大きく伸びをして部屋の奥に行こうとする夏実を美幸は呼び止め
た。
「部屋に入る前に洗面所で手洗いと嗽してって」
「手洗いと嗽?何で?」
「交通課があの状態だから予防しておかないと。何時移されるか解
らないもの」
「でも、私はもう完治したし」
「駄目。また貰う可能性も0じゃないんだから」
「えーーー」
「十分も掛からないんだから文句言わない」
面倒臭がる夏実の背を押して、洗面所へと美幸は向かう。
鏡台の上部に取り付けた棚から嗽薬を取り、洗面台にある夏実専
用のコップに少量注ぐ。
「うわ」
赤茶色の液体と薬独特の匂いに夏実は顔を顰めた。
「大丈夫よ。見た目程、味はしないから」
夏実の気持ちを察しながら、美幸は薬を水で薄める。
「はい。夏実」
色は柔らかくなったものの、匂いは全く変わっていなくて。
「…やらなきゃ駄目?」
手渡されたコップに眉根を顰めた。
「お夕飯抜きで良いならしなくても良いわよ」
「そりゃないよー…」
コップと睨めっこする夏実は口に含む前から苦虫を噛み潰してい
る。
迷う横顔を暫く見つめていると、意を決した夏実が嗽薬を煽った。
眉はヘの字のままだ。
それでもお夕飯の為に、嗽をしている。
子供のようだと美幸は思う。
喉の奥で微かに笑って、美幸もまた自身専用のコップに溶いた嗽
薬を口に含んだ。
数回に分けて丁寧に喉の洗浄をする美幸とは裏腹に夏実は2回で
嗽を止めた。
「うぇ…」
不味そうに口元を押さえる夏実に美幸は問う。
「そんなに変な味がした?」
「しないけど気分的にやっぱり嫌…」
濯いだコップに水を注ぎ夏実は一気に飲み干した。
「美幸は何でこんなのが平気なのよ」
「平気って訳じゃないけど、健康に気を使うは悪い事じゃないでしょ
」
言って、使い終えたコップを美幸は濯ぐ。
「それに交通課で無事なのは私だけでしょ?予防するのに越した事
はないわ」
「頼子に言ってた免疫は?」
「あれは方便。予防接種してる訳じゃないもの」
「してるじゃない」
きっぱりと夏実は言った。
まさか、そこを否定されると思っていなかった美幸が不思議そう
に夏実を見つめる。
「私、病院に行って――」
ないわよ。と続けようとした唇が夏実に囚われる。
「ね?毎日予防接種受けてるでしょ」
意地悪な笑顔の意味を一拍の間を置いて美幸は解す。
「あ、あのねっ」
「こういうの何て言うんだっけ?接触感染?」
「それを言うなら経口感染」
「あ、それそれ」
「って、そうじゃなくてっ!」
至って冷静に聞く夏実に釣られて答えた美幸は思い出したかのよ
うに慌てる。
「キ、キスが予防接種になる訳ないでしょ!」
「解らないわよー?引き始めから受けてたらなるかもしれないじゃ
ない」
「ならないっ!」
「そう?」
「そうよ!」
「ふーん。じゃあさ」
腕を組んだ夏実が不意に身を屈めた。
下から覗き込むように美幸を見つめる。
「な、何よ…」
「もう予防接種はいらない?」
「―――っ!?」
美幸は絶句した。
予防接種にならないと言っただけであって、行為自体を否定した
つもりはない。
「な、何でそうなるのよ……」
「美幸はいらなさそうだから、ちょっと聞いてみようかなと思った
だけなんだけど」
言う夏実の瞳は輝いていた。
例えるなら悪戯を試みる子供と同じ瞳をしている。
「で、どう?」
「どうって……」
返事に窮した美幸は口ごもる。
己がそういう行為に不慣れな事は自覚している。
もっと言えば、夏実の積極さに助けられると言っても良い位だ。
それを止められるとなると―――。
「……夏実」
「ん?」
「交通課を、全滅させる…気?」
遠回しの返事を解しない程、夏実は鈍い人間ではない。
と、いうより最初から答えはお見通しの筈だ。
「あー、そりゃまずいわ」
だから、呆けた口調のしたり顔が悔しくて。
「んじゃ、全滅にしないように努力しましょかね」
もう一度唇を重ねようとする夏実の鼻を美幸は摘む。
「調子に乗らないの」
言う、美幸の頬はほんのり赤く染まっていた。