VS高町家(前)

 ハラオウン家の珍騒動から一ヶ月が経った。
 
当初の予定では、ハラオウン家にご挨拶をした勢いが衰える前に、次

の定期休暇に高町家にも挨拶に行くつもりだったのだが、フェイトの短

期出張が入ってしまい、断念せざる得なくなった。

 フェイトが帰ってくるまでの間は、なのはは教導の仕事に精を出して、

ヴィヴィオは楽しそうに学院に通う。

 至って、平穏で忙しい日々を過ごした。

 あれよあれよとしているうちに時は流れて。

 2週間が過ぎた頃、出張から無事にフェイトが帰って来た。

 しかし、運悪くフェイトは出張の事後処理兼緊急要請が重なり、なの

ははなのはで教導の日程が詰まってしまって、なかなかどうして。

 一度逃した機会をもう一度というのは難しかった。

 その上、喫茶店を営むなのはの実家の事情も合わせると、ハラオウン

家へ行くよりも日取りを決めるのは困難で。

 ようやく合わせられた時にはすっかり月を跨いでいた。

 その頃にはハラオウン家を訪れた時の勢いはすっかり息を潜めてしまっ

たものの、この機会を逃すと今度は何時になるか解らない。

 両親や兄姉にも話があると伝えて帰郷したまでは良かったが着いた途

端、なのはが予想した通り、フェイトの足が固まった。

「フェイトちゃーん、大丈夫ー?」

「う、うん。大丈夫………」

 言葉とは裏腹に全力全開で強張っているフェイトになのはは苦笑を否

めない。

 白い開襟シャツの袖から覗く掌は思いっきり拳を握り締めていた。

 黒い細身のズボンに覆われた足は震えているのではないかと、つい疑っ

てしまう。

 作戦失敗と溜め息をつくなのはは、白のTシャツの上に白いパーカーを

羽織り、薄い桜色のスカートを履くラフな恰好をしている。

 化粧もお互いにファンデーションと口紅程度で抑えていた。

「これ位じゃあ駄目だったかー」

 少しはリラックスできるかと思い、普段着を提案したなのはだが、そ

の程度で肩の力が抜けるフェイトではないらしい。

 翠屋という屋号を持つ喫茶店の前で立ち尽くすこと、およそ10分。

 未だにフェイトの足は地に根を生やしたままだ。

 困ったと思いながら、なのはは店を眺めた。

 店内に明かりは灯っておらず、入り口の硝子戸には、CLOSEDの札が掛

けられている。

 わざわざ定休日を選んで来たのだから、それは当然で。

 裏の居住空間には家族が勢揃いしている予定だ。

 久しぶりの実家はなのはにとって嬉しくもあり、また帰って来た理由

が理由だけに緊張もする。

 もっとも、その気恥ずかしい緊張は隣のフェイトを見た瞬間に削げて

しまい、何も始まらないうちに過去形になってしまった。

「フェイトちゃん、裏に回るよー」

「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が」 

「待ちません。フェイトちゃんの心の準備を待ってたら日が暮れちゃうもん」

「うっ」

 自身でもそんな気がしていたのか、指摘されたフェイトが押し黙る。

「それに夕方までに帰らないとヴィヴィオが帰ってきちゃうでしょ」

 喫茶店経営の宿命とでも言うべきか。

 なのはの両親は余程の事でもない限り、平日しか休みが取れない。

 今回の帰郷の目的はフェイトとの関係の報告だ。

 両親の休みに合わせて休暇を取った為に、本日はミッドも地球も平日

で、ヴィヴィオは学院に行っている。

 夕方までに帰らなければ、ヴィヴィオが先に帰って来てしまう。

 あまりゆっくりはしていられない。

「だから、覚悟を決めて」

「そ、それは解ってるけどっ」

 急かしてもフェイトの足は動かない。

 仕方ないと諦めて、最後の手段をなのはは繰り出す。

「フェイトちゃーん」

「な、何?」

「…………呼ぶよ?」

「行ける。私、もう行けるよ」

 暗に言うと、フェイトの足が一歩前に出た。

 ハラオウン家に行った際に冗談のつもりで言った呼び名は、フェイト

の中でぷちトラウマになったらしく。

 背筋を伸ばすフェイトに思わずなのはは吹き出す。

「そんなに笑わなくても……。なのはのせいだよ」

「えー?私のせいかなぁ。フェイトちゃんの踏ん切りが悪いせいだと思

うんだけどなー」

「それは!……あるかもしれないけど……」

 非を認めるフェイトが言い淀む。

「で、でも今日はちゃんと私なりに準備してきたんだよ」

「ふぇ?準備?」

 何だろうと首を傾げると、内緒と唇に人差し指をフェイトは立てる。

 その様子に、なのはは嫌な予感がした。

 仕事では迅速で的確と定評のあるフェイトは、プライベートだとどこ

か抜ける所がある。

 また妙に世間知らずな部分もあるせいで、抜けっぷりがなのはの予想

を超える事もままあった。

「フェイトちゃん、準備って何をしてきたの?」

 窺うようにフェイトをなのはは見回す。

 化粧品や通信機が入っている鞄は持っているが、然程大きくはない。

 仮に両親へのプレゼントを用意しているとしても、掌サイズが限界だ。

 しかし、鞄の膨らみから想像するとそれも可能性は低い。

「後で解るよ」

 少し得意気なフェイトは、どことなくはやてを彷彿させる。

「あー……何だろう。この予感……」

 清々しいまでの良い笑顔のはやてが脳裏を過ぎった瞬間、跳ね上がっ

た不安の度合い。

 思わず、なのはは帰りたくなった。

 とはいえ、次の機会となるとまた休暇を調整しなければならなくなり、

なのはも大変だがフェイトにも迷惑を掛けてしまう。

 両親にも兄姉にも話があると待ってもらっている以上、顔を出さない

訳にもいかなくて。

「とりあえず、程々で頑張ろうね」

「うん」

 フェイトに注意を促して、一抹の不安を抱えたままなのはは自宅へと

足を向けた。


ネタ振りな前編。
後編に続く!………中編になるかもしれんけど。

拍手する
▲上へ戻る
トラックバック

コメントはまだありません »

コメントはまだありません。

このコメント欄の RSS フィード | TrackBack URI
You can also bookmark this on del.icio.us or check the cosmos

コメントをどうぞ

XHTML ( You can use these tags): <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> .