よくあるファッション雑誌を捲るとショートカットの女性モデルが現れた。
にこやかな笑顔で艶やかな流行の服が着こなしてる。
まだ訪れていない冬のセーターを羽織るモデルの横には小さな文字がびっしりと書かれていた。
服やアクセサリーの詳細、果ては売っている店の住所と最寄りの地図までが記載されている。
気に入りましたらぜひ!と薦められても気に入った品が無ければ話にならない。
店を出るようにページを捲ると、今度はロングの髪を靡かせたモデルが出迎えてくれた。
後ろ姿で顔だけ振り向かせているモデルに先刻よりも興味が惹かれる。
念の為にと店の住所に目を通し、場所をチェックする。
ふうと息を一つ吐き出して次に移ろうとするレイの目の端に落ち着きの無い肩が映った。
うずうず、もそもそ。
何か言いた気な猫口がじっとレイを見つめ続ける。
ちらりと顔を上げるとにっこりと微笑まれる。
あえて見ないようにしていたレイだったがじわじわと募った苛立ちに仕方無く問いた。
「美奈子ちゃん、言いたい事があるならはっきり言ったら?」
待ち望んでいた一声に猫口が一気に開く。
「ねぇねぇ。10月22日って何の日か知ってる?」
「10月22日?」
眉根を寄せて壁に掛けられたカレンダーをレイは見た。
カレンダーは年始に火川神社が近所に配った残り物で、真っ白な紙面の上部に大きく月を表す数字が書かれ、下には淡々とした日付が書かれている。
日付と日付の間には大きく空白が作られており予定が書き込めるようになっていた。
美奈子に言われた22日の下を見ると何も記載されていない。
つまり、何も予定が無いという事だ。
「何かあったかしら?」
首を傾げたレイは日付の横に小さく印字された二文字の漢字に気がついた。
「ああ…」
思い出したようにレイが頷く。
「大安みたいね。神社も少しは忙しいのかしら?」
巫女として参拝客を心配するレイに硝子のテーブルが大きな音を立てて揺れた。
テーブルに突っ伏す美奈子の隣でマグカップの紅茶が波立ち境界線を越える寸前で戻っていく。
「テーブルと仲良くするのは構わないけど壊さないでよ。これ気に入ってるんだから」
撫でてテーブルを労わるレイに撃沈した体が勢い良く跳ね戻る。
「そうじゃないわよ!」
「違うの?」
「違うわよ!テーブルと仲良くする気も無いし別に大安でも仏滅でも構わないわよ!!」
叫んだ美奈子の動きがぴたりと止まった。
腕を組んで急に首を捻りだす。
「…仏滅はちょっと嫌かも…」
「好きな人は少ないでしょうね」
「そうよねー…ってそうじゃなくてっ!」
お終いと視線を落とすレイの手元から美奈子は雑誌を奪う。
「ちょっと」
不満顔で睨みつけてくるレイを眉間に皺を寄せて美奈子は見つめ返す。
睨めっこのようなガンのつけあい。
じわりと美奈子が近づく。
「何よ」
不満顔を押し戻してレイは雑誌を奪い返した。
「22日に何かあるっていうの?」
皺になった表紙を押さえて伸ばす。
「…本当に忘れてるの?」
「だから何がよ」
雑誌をもう一度捲り直して問うレイに美奈子は俯いた。
ゆっくりと離れ、何も言わずに帰り支度を始める。
パチンと美奈子の鞄が音を立てて閉まった。
「帰るの?」
「見送りはいらないわよ。玄関解るから」
立ち上がろうとしたレイに顔を向けないまま美奈子は断る。
「あ、そう。じゃあ気をつけてね」
あっさり座り直したレイは片手を軽く振った。
ぱらりと捲られるページの音が美奈子の耳に届く。
ちらりと見れば無感情な横顔が時折、何かに反応を示す。
喋らない写真に感情を見せるレイに美奈子の手が鞄を強く掴む。
「じゃあね」
くるりと美奈子は背を向けた。
閉じられた障子に靡いた髪が影を残す。
ゆっくりと遠のく足音にぱらりと雑誌のページが捲られる。
ふぅと溜め息が一つレイから零れた。
「本気でそう思ってるの…?」
呟かれた問いに答える者はいない。
ゆっくりと雑誌が閉じられた。
「おきゃわり!!」
口を動かしながら美奈子は空になった皿をまことに差し出す。
「はいはい」
給仕の如く目の前のホールケーキを切り分けてまことは皿に乗せる。
作り立てのケーキは今や半分以上姿を消していた。
皿に乗せられたばかりのケーキも怒涛の勢いで美奈子の胃の中へと移動していく。
「ふぇ!ほうおみょう!?」
人語とかけ離れた問いにまことは苦笑する。
「…美奈子ちゃん…とりあえず口の中のケーキ飲み込みなよ」
言われてごきゅりと美奈子の喉が音を立てた。
「っで!どう思う!?」
今度こそ人語で美奈子は同じ問いを重ねる。
「どうって…レイちゃんが美奈子ちゃんの誕生日を忘れてるって事だろ?」
確認するまことに強く美奈子は頷いた。
美奈子の口元からスポンジのカスがころんとテーブルに落ちる。
「うーん…。あたしは無いと思うけどな」
困ったように頭を掻いてまことは否定した。
「でも実際そうなのよ!」
憤慨した顔で美奈子がケーキを咥える。
もしゃもしゃ大きく動く美奈子の口元を見ながら、まことは腕を組んで考えた。
どれだけ考えてもレイが美奈子の誕生日を忘れてるとはまことには思えない。
だが今目の前で、突然押しかけて作ったばかりの会心の作を貪る美奈子を見ると、そうなのかなとも思える。
肯定と否定を繰り返して唸るまことの前にマグカップが置かれた。
紅茶の香りを乗せた湯気がゆるりと立ち上る。
「あ、ありがと」
顔を上げて礼を言うまことに、にこりと亜美は微笑む。
「はい、美奈子ちゃん」
美奈子の前に客用のカップが置かれる。
「ふぁりがと」
人語でない礼に苦笑して自分のカップもテーブルに置くと亜美はまことの隣に座った。
「ごめんね、お茶淹れさせちゃって」
「ううん。気にしないで」
ゆるりと首を振る亜美に緩んだ頬が照れた笑みを零す。
見つめ合って微笑み合うまことと亜美は見てるだけでお腹一杯になりけたたましく動いていたフォークが止まる。
「良いわよねーまこちゃんは」
羨ましそうな呟きが美奈子は落とす。
「当たり前のようにお茶を淹れてくれるお嫁さんのような人が相手で」
とんでもない一言にまことは目を瞬かせた。
慌てて横を覗くとお嫁さんは俯いて完全に顔を隠している。
「や…その…」
惑って言葉を濁すまことにふるふると亜美の首が横に振られた。
否定するのでも肯定するのでも無い合図にまことが赤い頬を掻く。
何時まで経っても新鮮な二人をぼんやり眺めながら美奈子はフォークをケーキに突き刺した。
大きな口にケーキが飛び込む。
噛み締めるケーキは、ほど良い甘さが充実していて柔らかいスポンジが幸せを運んでくる。
口の中に広がる小さな幸福感。
こくりと飲んでもう一口食べてみる。
やはり幸せだと思うのに先刻ほどの幸福は感じられない。
同じ幸せは短期間に何度も重ねられると、少しづつ幸福を感じられなくなる。
それは、幸せが当たり前に変わる瞬間で、それが慣れなんだと美奈子は思う。
当たり前を感じた時、人は違う味が欲しくなる。
「…同じよね」
フォークに刺さったスポンジをゆらゆら美奈子は揺らす。
付き合い始めた頃は傍にいるだけで良かった。
それが楽しくて幸せだった。
例えレイの言動が変わらなくても、新しい関係を持てた事実に甘さを感じていた。
しかし、それに慣れてしまった今は何も変わらないレイに違う味を求めてしまう。
亜美が淹れてくれた紅茶を美奈子は口に含む。
甘く広がった世界が紅茶の深い味わいですっきりする。
甘さを知らなければこのさっぱりした感覚は味わえない。
変わらない味はどれだけ好きな味でも何時かは飽きてしまう。
別の甘さでも良い。
渋いスパイスでも良い。
変化が欲しいと美奈子は思う。
「あーあ。私って本当愛されてないわよねー」
咥えたフォークを揺らしながら両肘を突いた美奈子の瞳が何を求めているのか何と無くまことは解る気がした。
気休めにもならないと知っている言葉が自然とまことの口をつく。
「大丈夫だよ。レイちゃんはちゃんと美奈子ちゃんの事想ってるよ」
差し伸べられた優しい手にふわりと美奈子は微笑む。
「ありがと。まこちゃん」
皿の上の最後の一欠けがぽんと美奈子の口に放り込まれる。
「ごめんね愚痴ちゃって」
「話聞くぐらいしか出来ないから」
肩を竦めるまことにもう一度笑んで美奈子は立ち上がった。
「あ、帰るの?」
「うん。少し元気でたし、流石の私もこれ以上二人の邪魔する気は無いわ」
立ち上がろうとしたまことの鼻先を突いて美奈子は座らせる。
「ケーキご馳走様。美味しかったわ」
言って亜美に美奈子はウインクを一つ送る。
「亜美ちゃんも紅茶ありがと。良いお嫁さんになれるわよ」
「ありがとう」
くすりと微笑む亜美に、顎に人差し指を添えて美奈子は唇を尖らした。
「でも、相手の口が肥えてると大変よねー。もしかして家で練習してたりする?」
ぽんと亜美の顔が赤く熟す。
「へ?」
他人事のようにきょとんと覗いてくるまことに亜美の瞳が右往左往する。
「そうなの?」
すいと寄って嬉しそうに詰め寄る相手に慌てふためく亜美に美奈子の口元がにぃと笑う。
「それだけ美味しかったって事よ。じゃあまたね」
「あ、うん。またね」
言って部屋を出て行く美奈子に手を振ってまことは亜美から離れた。
「大分まいってるなー」
最後の最後で揶揄って去って行った美奈子だが何時もよりやり方が甘いとまことは思う。
玄関の扉が閉まる重い音が美奈子の気持ちを表してるようで、やり切れない気分になる。
肩を竦めるように後ろ手を絨毯に突いてまことは亜美に振り向いた。
赤かった顔が原因の退場で白い落ち着きを取り戻し始めている。
「ねぇ亜美ちゃんはどう思う?」
「レイちゃんが本当に美奈子ちゃんの誕生日を忘れてるかって事?」
こくりとまことが頷く。
「そんな事無いわよ」
微笑んで、はっきりと亜美は否定した。
「レイちゃんの事だから恥ずかしくて素直に言えないだけだと思うわ」
気持ちを全部表に出す美奈子と、考えや想いを閉じ込めてしまうレイ。
異なる二人だけにすれ違いが多いのだと亜美は思う。
「気持ちは同じよ。美奈子ちゃんもレイちゃんも」
「うん。そうだよね」
すっきりした顔で同意するまことにくすりと笑んで亜美はゆっくりと紅茶を飲んだ。
釣られるようにまこともマグカップを取る。
美味しいと思う。
「ね…本当に練習してるの?」
不意打ちの質問に亜美は器用に紅茶を喉に詰まらせた。
口元を押さえて咳き込む亜美の背を慌ててまことは擦る。
「ご、ごめん。ちょっと気になっちゃって」
ちらりと涙目がまことを見つめ、小さな呟きを落とす。
「…内緒」
賞賛を浴びた紅茶に負けないくらい亜美の顔は真っ赤に染まっていた。
夕暮れでオレンジに染まった部屋の中央に美奈子は学生鞄を放った。
制服が皺になるのも気にせずにベッドにごろんと転がる。
学校の授業は何も頭に入っていない。
それは、今に始まった事では無いが今日は尚更何も残っていなかった。
最後にレイに会ったのはまことと亜美に愚痴を零したあの日。
その後連絡一つよこさない薄情者に自然と溜め息が零れる。
学習机に立て掛けられている卓上カレンダーの今日の日付は花丸で囲われていた。
待ちに待った日だというのに今はただ早く終わる事を美奈子は願う。
「折角、誕生日だって言うのに予定一つ無いなんて寂しいわよね。私も」
まことと亜美からは連絡があった。
明日みんなで集まろうというお誘い。
今日はレイと二人でという配慮だと言う事は考えるに易い。
そんな仲間の心配りもこうしてベッドに転がってる自分を見つめると余計なお世話だったと愚痴りそうになる。
「駄目よね。まこちゃんも亜美ちゃんも私達の事を考えてくれてるのに」
ごめんなさいと美奈子は謝った。
窓から差し込む夕暮れがオレンジから赤に染まっていく。
この後に来るのは暗い夜。
気持ちも一緒に沈んでしまいそうで勢い良く体を起こして美奈子は気合いを入れる。
「あーもう!ごろごろしててもしょうがないわ!!出かけて誰かにナンパでもして貰おう!!」
制服を脱ぎ散らかして箪笥から私服を取り出す。
真っ白なシャツに袖を通してお気に入りのスカートを履いた美奈子は振り返った。
カレンダーの隣の仏頂面の写真にべっと舌を出す。
「薄情者」
高い電子音が聞こえた。
「誰か来たのかしら?」
耳を澄ます美奈子にもう一度高い電子音が聞こえる。
「いけない。お母さんいないんだったわ」
大声で返事をして美奈子は玄関へと急ぐ。
覗き窓で相手を確認すると帽子を被った男の人の顔が湾曲に見えた。
帽子にはアルテミスのような猫が描かれている。
「宅急便?」
扉を開けて隙間から顔を覗かせる美奈子に男はにっこりと微笑んだ。
良い男だと美奈子は思う。
「ども。白ネコ宅急便です。愛野美奈子さんにお届け物です」
「私に?」
差し出されたのは宅急便の伝票。
否、大きな伝票に一面包み込まれた乾いた砂色の小さな箱だった。
「印鑑をここにお願いします」
箱の底面まで伸びた伝票の隅を男は指差した。
「あ、はい」
玄関先に常備されているインク内蔵の印鑑を点線で囲まれた○の中に美奈子は押す。
朱色の愛野という文字が伝票に滲む。
「ども。ありがとうございました」
「ご苦労様」
ぺこりと頭を下げる男に手を振って美奈子は玄関を閉めた。
「誰からかしら?」
廊下を渡りながら差出人を確認する。
ぴたりと美奈子の足が止まった。
訝しむようにもう一度差出人の名前を確認した美奈子の足が部屋へと急ぐ。
部屋の扉が勢い良く閉まり、壊れそうな音を立てた。
鞄を退けて力尽きるように美奈子は尻餅を突く。
大きく深呼吸をする。
届いたたばかりの小箱をそうっと美奈子は絨毯に置いた。
もう一度差出人を確認する。
「間違い…じゃないわよね…?」
差出人とついでに宛先も見直した美奈子は緊張した面持ちで膝を正した。
逸る鼓動を抑えて伝票をゆっくりと剥がす。
一皮剥けてただの砂色の箱に戻った箱に美奈子はぽつりと問いた。
「…もう少し可愛く飾っても良いんじゃない?」
宅急便という方法の為なのか、はたまた単に照れ隠しなのか飾りも素っ気も無い箱の理由を探る。
美奈子が手を叩いた。
「単に面倒臭かっただけだったりして」
送った本人が聞いたら激怒しそうな思いついた理由に美奈子は大きく頷いた。
そうっと箱を開けると中から新たな白い箱が顔を覗かせる。
「…マトリョーシカ?」
開けても開けても縮小された同じ人形が出てくるロシアの土産を美奈子は思い出す。
しかし、箱の上部に書かれた見覚えのある英語に違うと自分の考えを否定する。
「ここって確か…」
先日レイが見ていた雑誌を美奈子は思い出す。
かさりと音を立てて白い箱を開けると次に出てきたのは、箱では無く銀色のドーム。
光を反射させるドーム状の容器に美奈子の顔が湾曲に広がって映る。
掌に乗る、一見東京ドームを思わせるそれは上部が開閉式になっていた。
ますます東京ドームのようだと美奈子は思う。
ドームを真っ二つに割るように開けた美奈子から感嘆の声が上がった。
「綺麗…」
一面に敷き詰められた真っ白なスポンジの中で二つのオレンジの石が輝く。
今付けているピアスよりも鮮やかな色合いに思わず笑みが零れる。
砂色の箱の中にも白い箱の中にもカードやメッセージは何も無い。
それでも、伝票には日付指定がきちんとされている。
「もう…」
ころんと仰向けに美奈子は転がった。
「言葉でも態度でも教えてくれないくせに」
遠く、解り難い方法で想いを届けてくれた宅急便に心底出掛けなくて良かったと美奈子は思う。
「きっとこれも興味無さそうな顔で選んだんでしょうね」
素知らぬ顔でピアスを横目で選ぶ姿が簡単に想像出来る。
何時かその表情を思いっきり崩させてやろうと美奈子は一つ目標を立てた。
「そうだわ」
がばりと体を起こして美奈子は電話の子機に手を伸ばす。
短い電子音を鳴らして番号を打つ手がぴたりと止まった。
「届いたって連絡するのは…ちょっと悔しいわね」
自分ばかり振り回されるのは不公平な気がする。
たまにはお裾分けするのも良いかもしれないと繋がろうとした電話を切って元に戻す。
「どうせ明日会えるでしょうしね」
一日渋いスパイスを味わって貰う事にした美奈子の手がドームの蓋をぱたりと閉じた。
オレンジ色の太陽が火川神社の鳥居の影を地面に長く浮かび上がらせる。
境内へと続く石段を軽やかに登って行く。
先日は重かった足取りも今は羽のように軽い。
頭の中では学校の帰りに聞いていた音楽の明るいフレーズが回っている。
晴れ晴れとした気持ちで階段を登り切った美奈子は見えた人影に手を振った。
「遅れてごっめーん」
「美奈子ちゃん遅いよー」
笑いながら文句を言うまことに両手を合わせたまま美奈子は駆け寄る。
「学校出るのちょっと遅くなっちゃって」
まことの隣でくすくす笑う亜美と、賽銭箱に持たれ掛かったレイに美奈子はぺこりと頭を下げた。
「待たせちゃってごめんね」
「ううん。そんなに待ってないから大丈夫よ」
胸の前で気にしないでと手を振る亜美とは裏腹にレイの冷たい一言が飛ぶ。
「たまには遅刻しないで来れないの?」
「だからごめんってば。そんなに怒らないでよ」
腰に手を当てて反省の色が見えない謝り方をする美奈子に待ち草臥れたレイの溜め息が落ちる。
「こんな事なら時計にすれば良かったわ」
ぽろっと出された本音に降参と美奈子は両手を肩まで上げた。
「今度から気をつけます」
「そうね。もうその台詞も聞き飽きたしそろそろ実行して欲しいわね」
髪を靡かせてきっちりと釘を刺すレイを慌ててまことは宥める。
「まぁまぁレイちゃんもそれくらいにして。今日は美奈子ちゃんが主役だしさ」
「そ、そうよ。美奈子ちゃんも反省してるもの。ね?美奈子ちゃん」
フォローを重ねる亜美に大きく美奈子は頷く。
「ええ。今日の私は一味違うわよ。ちゃんと反省してるんだから。ほら」
「…美奈子ちゃん…」
胸を張って社の柱に手を添えて反省のポーズを取る美奈子にまことと亜美が痛む頭を抱えた。
「レイちゃん」
引き攣る眉間を押さえたまま無言で背を向けるレイを美奈子は呼んだ。
近づいてそっと顔を寄せる。
至近距離の笑顔を睨むようにレイは見つめ返した。
「どう?似合う?」
美奈子の耳に移った視線が一瞬にして背けられる。
腕を組んで体ごと美奈子を避けたレイの髪がふわりと靡く。
「…悪くないわ」
沈む夕日よりも赤い顔の呟きは想像通りで美奈子の耳朶でサンストーンが嬉しそうに輝いた。



