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飴と鞭

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美少女戦士セーラームーンの二次創作。まこと×亜美、美奈子×レイでしっちゃかめっちゃな事になっちょりまする。
MOON CHILD
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トップ > 美奈子×レイ > 飴と鞭
「レイちゃんまこちゃんおっはよー」

「美奈子ちゃんおはよう」

日曜の午前。

 集合時間よりも幾らか遅く現れた甲高い声に部屋の主の眉がぴくんと反応し、盛っていたカップの中で沈みそうな闇を称えたコーヒーがゆらりと揺れる。

 手の中の液体と同じように揺れた心が静まるのを待ってからイは冷たく言い放つ。

「遅刻よ」

「ごっめーん。ちょっと寝坊しちゃったのよー。やっぱり日曜日は起きれないわー」

 部屋に来て早々にまことの背中でおんぶお化けになって両手を合わせる美奈子から惑いを隠すようにレイはカップを傾けた。

「日曜日だけじゃないでしょ」

言って苦味のある液体を飲み下す。

「レイちゃんその言い方ひどいわ。私が何時も遅刻してるみたいじゃない。まこちゃんもそう思うでしょ?」

「あ…いや…まぁ…」

 事実を明確に口にしたレイに違うとも、子供が親に、それでいて恋人に擦り寄るように甘える美奈子に事実だという事も出来ずまことは苦笑いをして誤魔化した。

「ま、まぁ…とりあえずクッキーでも食べなよ」

 険悪になりつつある空気を何とか和ませようとまことがテーブルの上のクッキーを勧めるとぱぁっと美奈子の瞳が輝く。

「まこちゃんが焼いたの?」

 「うん。食べるだろ?」

「もっちろんよ」

 背中の重みを物ともせずまことはクッキーを一つ摘んで肩越しに渡す。

それを首に腕を絡めたまま美奈子は唇で受け取った。

 さくさくした食感とバターの香ばしい匂いに幸せな笑みが浮かぶ。

「相変わらず良い腕してるわねー」

「ありがと」

 もう一個と開いた口にくすりと笑んでまことはクッキーを放り込む。

 餌を貰う雛の如く次々とクッキーを納めながら美奈子はゆるりと隣を見た。

「亜美ちゃんは?」

「んー?今日は試験だって」

「あらー」

 微かに残念そうな響きを持った返事ににひっと笑って美奈子はまことの首に腕を絡める。

「じゃあ今日は私がまこちゃん独り占めしていいのねー」

「独り占めってあのね…」

 困ったように頭を掻きながらもまことは美奈子を無理に引き剥がそうとしない。

 すんと鼻を鳴らして顔を摺り寄せる美奈子の好きなようにさせながら自分のお菓子の腕を舌で確かめる。

 こりっと音を立てたクッキーを口の中で丁寧に転がす。

「んー、まあまあかな」

「十分美味しいわよ」

「そっかな?」

「ええ」

 くすりと笑んで嬉しそうなまことの頬に美奈子は唇を寄せた。

 危うく気管支に入りそうになった粉にげほっとまことが咽る。

「美、美奈子ちゃん!」

 頬に残った感触に慌てるまことに人差し指を口元に立てて美奈子はけらけらと笑いながらウインクした。

「お礼よ。お礼」

「お礼って…あのね!」

 過激なお礼にまことは視線を右往左往させ目の端でレイを窺う。

 何も見てなかったと言わんばかりに俯き加減でコーヒーを口へと運ぶレイは平静そのものでほっとまことは安堵する。

 しかしその直後震えるカップに気づき、まことは顔を強張らした。

「あ…あのレイちゃ…」

 躊躇いがちの声を遮るようにカップがソーサーへと戻される。

「美奈子ちゃんのコーヒー淹れて来るわ」

「あ…うん」

 張り詰めた空気を背負って立ち上がったレイにこくんと頷き、ぱたりと襖が閉じられた瞬間まことから大きな溜め息が零れた。

まいったと言うように頭を掻き、次いで前髪を掻き上げる。

「ねぇ美奈子ちゃん」

 「何まこちゃん?」

「あたしを当て馬にするのもう止めない?」

「あら協力するって言ったのはまこちゃんじゃない」

 するりとまことから離れぺたんと横に腰を落ち着け美奈子は一度大きく伸びをした。

 さらりとなびいた髪が絨毯の上をふわりと漂う。

「そうだけどさ。でも…」

 襖が閉まる時見えた揺れる瞳にまことは躊躇う。

「それに当て馬になんかしてないわよ?私本当にまこちゃんの事好きだもの」

 けろりとのたまう悪戯な笑みにまことはテーブルに頬杖をついた。

「それは仲間としてだろ?レイちゃんとは…違う意味じゃないか」

 ぽいっとクッキーを口へ放り込む。

 こりっと音を立てて砕けるクッキーが先刻より苦味を感じるのは罪悪感のせいだろうかとぼんやりまことは思う。

「美奈子ちゃんから言っちゃえばそれで全て解決するのに何でこんな回りくどい事するんだよ」

 自分の気持ちも相手の気持ちもはっきりしているというのに触れるか触れないかの距離を楽しむような美奈子の行動は真っ直ぐに想いを伝える術しか知らないまことには理解出来ない。

 それはまるでレイを試してるようでちくりと胸が痛むまことは何度も全て言ってしまおうかと考えた。

 しかし所詮自分は他人で当事者ではない。

 結局、行く行くは二人の為だと心で謝りながら美奈子に協力する事しかまことには出来なかった。

「そうね。私から言えば全て解決するわね」

 すらりとした足を美奈子は投げ出す。

「でもね、そうするとあんな風に動揺するレイちゃん見れなくなっちゃうのよ?勿体無いと思わない?」

落ち着きと不可視な気を携えたレイ。

知の戦士の次に冷静と沈着を保っている火の巫女も美の女神の計画だけは読めないらしく僅かだが必ずどこかに動揺を見せる。

 そこがまた可愛いと人差し指を立てて最近の観察日記の結果を言う美奈子にクッキーがぽとんとまことの手を離れた。

「美奈子ちゃん…」

 これ以上は無いくらい屈折した愛情を示す美奈子にまことは肩を落とす。

「それでレイちゃんの心が他の人に行っちゃったらどうするんだよ」

「行かないわよ」

 まことの心配をすっぱりと美奈子は跳ね除けた。

「レイちゃんの心は何処にも行かないわ。私だけの物だもの」

 さらりと金色の髪をなびかせて美奈子は自分の想いはおろかレイの気持ちさえはっきりと代弁する。

 一体その自信はどこから来るのだろうとまことは何時も不思議に思う。

 好きだと言っていた唇が嫌いに変わる悲しい現実をまことは過去に経験している。

 今でこそ受け止めているものの亜美に出会うまでは、いや亜美と想いを重ねるまではその辛い過去が心の大半を占めていた。

 そんな自分を救ってくれたのは全てを包み込む優しさで思い出したまことの胸にこの場にいない想い人への愛しさが込み上げる。

 無性に会いたい衝動に駆られ帰りに亜美の家に寄ろうとまことは心に決めた。

「それに昔から言うでしょ?」

 コーヒーをこくりと飲むまことに胸を張って美奈子は悠然と言う。

「飴と縄は使いようだって」

「ぶっ!」

 危うく吹き出しそうになったコーヒーを無理やり飲み込んでまことは口元を手の甲で拭った。

「美奈子ちゃんそれは…」

「解ってるわ。だから今からレイちゃんの様子見に行って来るわ」

 じゃねと台所へと向かう美奈子を呆然と見つめまことがぽそりと続きを口にする。

「それを言うなら…飴と鞭…」

 軽やかに走り去る影を目で追いながら何も解ってないとまことは溜め息をついた。

 コーヒーメーカーがこぽこぽと音を立てて湯を沸かす。

 浄化された水が濾過機を通り一滴一滴丁寧に闇を抽出していく様をぼんやりとレイは見つめた。

 徐々に濃度を増していく闇に思考がぐらりと歪む。

 頭に浮かぶのは先刻の美奈子とまこと。

 元々人懐っこい美奈子だがあそこまで表に出して甘えるのはレイが知っている限りではまこと唯一人だけだ。

 まして投げキッスでは無く直にキスをする所など見た事が無い。

 壊れたビデオのようにまことの頬に唇を寄せる美奈子だけが頭にこびり付いている。

 何も悪くない仲間に対してまで嫉妬している自分に苛つきレイは首を横に振って映像を停止させた。

「本気なの…かしら…」

 不安がぽとりと落され、美奈子への仲間以上の想いを実感する。

 焼きつくような胸の痛みが全身に伝わり強く瞳を閉じる。

 夏だというのに酷く寒さを覚えレイは自分を抱きしめた。

全てを拒絶するように固く身を強張らせる。

そんな崖から落ちそうなレイを不意に温かい腕が包み込んだ。

「レイちゃんどうしたの?」

 耳元に聞こえたのは心を支配している声。

 背中に感じる温もりが静まろとした鼓動を更に逸らせる。

「顔赤いけど具合いでも悪い?」

「美奈子ちゃん…」

 掠れた声を聞き返す事も無くレイの額に美奈子は手を当てる。

「熱は無いみたいね」

「だ、大丈夫よ」

 伝え合う熱を嫌がってレイは顔を背けた。

 宙に浮いた手をレイの腰に回してくすりと美奈子は笑う。

「…離れ…てよ…」

「嫌」

 さっくりと断る美奈子を振り解こうとしても手が震えてレイは解けない。

 それどころか引き寄せるように腕に力を込める美奈子に心まで引き摺られていく。

 終りを知らない気持ちが大きく膨らみ意志に反してレイの口を滑りやすくした。

「まこ、ちゃんは…どうしたのよ…」

「まこちゃん?部屋で待ってるわよ」

「そうじゃなくて!」

 きょとんとした返事にレイの声が高くなる。

「そうじゃなくて…まこちゃんの事…好き、なん…でしょ…?」

「好きよ」

 さらりとした肯定にレイの胸がちりりと焦げた。

 くっと歯を食い縛って望まない声を絞り出す。

「なら…戻りなさいよ…。私にこんな事してなくて…」

 香ばしい匂いが二人の間に漂いコーヒーメーカーがしゅわと音を立てて終わりを告げる。

 腰に絡まった腕を解こうと美奈子の手首に添えられる。

 しかしそれ以上何も出来ない震える指に美奈子は静かに微笑んだ。

「亜美ちゃんの事も好きよ」

「……え?」

「だって仲間ですもの。当たり前じゃない」

 ゆっくりと振り向いたレイの戸惑いを優しい瞳が受け止める。

 重ねた手を解いてレイを開放した美奈子はそっと頬を撫でた。

 さらりとした感触にレイの体が強張る。

「私はまこちゃんも亜美ちゃんも大好きなの」

 言って指の跡を辿るように唇を寄せる。

「勿論、レイちゃんの事も…大好きよ」

 少しだけ艶を含ませて美奈子は言う。

 本気とも嘘とも取れる笑みに上気した顔が惑って視線を床へと落とす。

「美、美奈子ちゃん…」

「何かしら?」

 首を傾げて次の言葉を待つ美奈子の胸が期待に高まる。

 こんな可愛いレイを見るのも最後かもしれないと思う。

 それならば小さな仕草も見逃したくないと美奈子はしっかりとレイを見つめた。

 惑う唇が何度も開かれては結ばれる。

 見つめ返そうとしない瞳が緊張している事をあっさりと美奈子に告げる。

 すっとレイの瞳が閉じられた。

 微かに呼吸を繰り返す音が耳に届く。

 思い切ったように上げられた顔がしっかりと美奈子を見据え唇がゆっくりと開かれた。

「そういう愛情表現は止めなさいよ」

「は?」

 予想と反した台詞に美奈子の瞳が丸くなる。

「私が誤解…する、でしょ」

 真っ赤な顔で虚勢を張るレイに美奈子はぷっと吹き出した。

「誤解する…ねぇ」

 頬を染めたまま『誤解を招く』では無く、『誤解する』と言い切ったレイ。

 暗に告白している事に気づいていないレイの意外な鈍さに驚きつつも愛しく思う。

 余裕の無いレイが可愛くて可愛くて仕方の無い美奈子は逆に腕を組んでわざと余裕を見せた。

「だって私帰国子女だもの。キスなんて日常茶飯事だったのよ」

「ここは日本なの!そういう挨拶は普通しないわ!」

 言って照れを隠すように身を翻し、洗い立てのカップにコーヒーを注ぐレイの背中を抱きしめたいと思うと同時にまだ早いと自分に言い聞かせる。

 変わりに友達の終止符を打つ為の序章を柔らかい声で美奈子は告げた。

「…そうね。日本じゃ友達同士でキスはしないものね。もう止めるわ」

「そうして頂戴」

 漆黒の液体を最後の一滴まで綺麗にカップに治めレイはふうと息を吐き出した。

 未だ速い音を立てる心臓を全身に張った気で覆いカップを取ると中の液体が波立つ。

「先に戻ってるわ」

 震える手を淡々とした口調で隠しレイは早足で台所を後にした。

 ひっそりと静まった台所で一人やれやれと美奈子は肩を竦める。

「帰国子女でもあんな位置にキスしたのは初めてだったのよ?」

 まことへのキスよりも唇に近い、頬というよりは唇の端と言う方が正しい場所への親愛の印。

 それさえも揶揄ってるだけだと受け取られたのは普段の行いのせいだろう。

 ぎりぎりまで引き出させたつもりの想いは結局はっきりと耳にする事は出来なかったが美奈子は十分感じる事が出来た。

「本当素直じゃないんだから」

 言ってそれは自分も同じだと気づき苦笑する。

 それでも次に情を示した時は、はっきりとこの想いは伝わるだろう。

 その時レイはどんな反応をしてくれるか考えれば自然と口元が綻ぶ。

 そしてそれを何時でも実行出来る位置にいる事を美奈子は知っている。

 ならばもう少しこの関係を楽しむのも悪くないと思う。

「もう少しだけ友達をやりましょ」

 触れた頬の感触を思い出しながらイの元へ美奈子はゆっくりと歩む。

 細い一本の糸を境に繋ぐ事の出来ない手は時折指先が触れるだけで、絡み合うのはまだ先の事だった。

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