ぽかぽか暖かい陽光。
12月とは思えない日の光はベランダの窓を開け放していても寒くは無い。
それでも、流れる雲は夏のような白さは無く、仄かに雪が混じっている。
窓のサッシに凭れ掛かり外を眺めていたまことは片膝を立てた。
街路樹の枝には雀が一羽留まっている。
忙しく首を動かし、チュンと一鳴きする。
「…暇だなー」
膝の上に左腕で頬杖をつくまことの胸には若草色のエプロンが掛かっていた。
まだノリの利いたスタンダードなエプロン。
横にポケットが二つ付いた新鮮なエプロンの左肩を上げてみる。
耳元でざわりと音がして、少しごわつく。
「固くないのかな?」
首を傾げると蒼い髪がさらりと風に流れた。
右上半身は動かない。
右肩は少しだけ重い。
心地良さそうな寝息が空気に溶ける。
少し困った頬を掻いて、足元に置いたチョコチップクッキーにまことは手を伸ばした。
サクッとした質感に後を引く甘み。
出来栄えは上々。
「得なんだか損なんだか…」
満足いくクッキーと寒い季節の暖かい日。
横には可愛い寝顔。
おまけにエプロンは右肩の眠り姫からのプレゼント。
「得なんだよなぁ…」
他人から見れば得しか無いだろう。
だが、心には憂いが残っている。
綺麗に畳んだプレゼントの包み紙を見てまことは溜め息を吐いた。
「起きてくれるともっと嬉しいんだけど」
眠り姫に問いても答えは無い。
新品のエプロンでクッキーを作るとこまでは良かった。
だが、気合を入れすぎたらしい。
『良い物を作るには時間がかかる』
名人と呼ばれる人がよく口にする台詞は本当だとまことは思う。
待ち草臥れたお姫様はクッキーが出来上がる頃には、壁に持たれて船を漕いでいた。
ゆらゆら夢の世界へ旅立った姫のお供は膝の上の本一冊。
そのまま半時が過ぎてもお姫様は現に帰って来ない。
待たせた分だけ今度は王子様が待つ番だった。
因果応報なんて重い単語に右肩が凝る。
ひょいとクッキーをまことは一つ摘んだ。
出来の良いクッキーも一人だと一味足りない。
持ち上げて雀を誘うと、チュンとソッポ向かれた。
「あ、そう」
振られたクッキーを仕方無しに消化する。
起きそうに無い眠り姫の頭を撫でると、蒼い髪が肩から流れた。
肩から二の腕へ、二の腕から太股へ蒼い髪が滑り落ちる。
「やば!」
焦る気持ちを知ってか知らずか、ぽむと落ちた寝顔はそのまま腿を抱き枕にした。
起きない眠り姫にほっとまことが胸を撫で下ろす。
「こりゃ…一日、二日の寝不足じゃないなー」
言って、柔らかい頬を指で突付くと、ぷにとした感触が応えた。
微動だにしない寝顔にまことは苦笑を零す。
「良い天気なのになー」
損だとまことは思う。
真っ直ぐな日差しが空を突き抜ける。
煙を巻くような雲は綿菓子のように柔らかい。
飛び込むように雀が飛び立った。
反動で梢が揺れる。
一瞬の情景。
捕らえ切れなかった瞳が、両手の親指と人差し指でファインダーを作った。
空と街路樹を写し、比べるように太股を写す。
若草色の上に広がる蒼い髪。
「宿り木の風景ってこんな感じなのかな…」
一本の枝に留まっていた雀のように。
必要として必要とされて。
寄り添うように共に在る。
袂の風景を瞳に焼きつけ、ファインダーをまことは閉じた。
「…うん。やっぱ得だ」
空に戯れる雀のように蒼い髪に指を絡め微笑む。
暖かい光の中で、一瞬の情景が暫しの時を興じた。
HAPPY BIRTHDAY TO MAKOTO…



