日常-性質2-

 商店街の中央に設置された公園。

 時計台近くのベンチにまことは腰を下ろしていた。

 腕の時計と時計台の時刻を照らし合わし、狂いが無いか確認する。

「ここが待ち合わせの場所みたいね」

 落ち着いたまことに前屈から美奈子は姿勢を正す。

 公園に入るのを見届けた美奈子とレイは別の入り口から進入した。

「今12時50分だから、待ち合わせの時間は多分1時ね」

 ベンチの後ろに植えられた茂みの奥に添えられた遊歩道でレイは推測する。

「さぁ、ここからが本番よー」

 わくわくした声で嬉しそうな笑顔を作る美奈子は柔軟体操をしながら戦闘準備に入った。

「程々にしなさいよ」

 木にもたれて腕を組むレイの忠告に、ぐっと腕を曲げて美奈子は無い力瘤を作る。

「何言ってるの!これからが探偵としての腕の…」

「亜美ちゃん来たわよ」

 意気込みを遮るレイの一声にぐりんと首を回して美奈子はまことを見つめた。

 近寄って来る誰かに気づいてまことが立ち上がる。

 駆けて来るショートカットの蒼い髪がふわりと風に流れた。

「確かに亜美ちゃんね」

 見届けた美奈子が頷く。

『待たせちゃって御免なさい』

 軽く頭を下げる亜美に合わせて高めの声が言う。

『ううん。そんなに待っていないから大丈夫だよ』

 笑いながら首を横に振るまことに合わせて低い声が続ける。

「…代弁しなくて良いわよ…」

 わざわざ声色まで使う芸の細かい美奈子にレイは呆れた視線を落とした。

 その間にまことと亜美は公園の出入り口に向かう。

「移動するみたいね」

見上げるようにのんびりとレイは二人を見送る。

「暢気な事言ってないでよ。さ、行くわよ」

 意気込み十分。

 意気揚々にレイの袖を引っ張って美奈子は追跡を開始した。

 公園を出たまことと亜美は人の流れに沿って歩く。

遠くに高いビルが見え、線路が真っ直ぐに横を走っている。

「電車に乗って何所かに行くのかしら?」

 駅へ向かうと予測を立てる美奈子はやはり電柱の影に引っ付いている。

 こそこそ加減は気分によるものなのかレイは最早何も言わない。

「あの軽装でそれは無いんじゃないの?時間も午後過ぎてるし」

 手荷物をまことは何も持っていない。

 ジーパンの後ろポケットは膨らんでいる。

 恐らく財布が入っているのだろう。

 亜美は白いトートバックを一つ肩に掛けているが、然程重みがあるようには見えない。

「…遠出には見えないわね」

 右手で日差しを作り、じっくり細目で眺めた美奈子は納得した。

「買い物…って所かしら」

「ま、そんな所じゃない」

 興味無い声が黒い髪を靡かせる。

 二人の考えた通りにまことと亜美は行動した。

 駅前に着いても半地下の改札口には目もくれず、階上のショッピングモールへと足を進める。

 エスカレーターに乗った二人から距離を置いて美奈子とレイが続く。

 2階から3階へ。

 3階から4階へ。

 ひたすらまことと亜美は上階を目指す。

 「何階まで昇る気かしらねー」

 エスカレーターの手すりに肘を突いて、美奈子は6つ先の頭を覗く。

 階間の狭い壁をレイは見た。

 全階案内の縮小POPがゆっくり後ろへと流れ、レイは気づいた。

「そういえば、ここ一番上に本屋が入ってたわね」

「なるほど」

 行き先が読めた美奈子は色気が無いと息をつく。

 結局最上階まで上った美奈子とレイは人込みに紛れた。

 それでも、頭一つ飛び出たポニーテールは見逃さない。

 雑誌、コミック売り場を通り過ぎ、亜美は先を急ぐ。

 横のまことは平積みされた新刊を横目で確認している。

「ねぇ…」

 何と無しに亜美の目的を感じ取った美奈子は眉を顰めた。

「亜美ちゃんが欲しい本って…」

 徐々に見たく無い書籍が目に付き始める。

「ま、一つでしょうね」

 予想ついていたのか至ってレイは平然としていた。

天井まで届く本棚の前で立ち止まった亜美が、とある本を指している。

その隣のまことが微妙に頬を引き攣らせた。

 ずらりと並ぶ書籍。

 書籍と言うよりは数多の参考書。

 足元には御丁寧にも3段脚立が用意されている。

 美奈子が眩暈を覚えたようにまことの肩も落ちていた。

 逆に亜美の背中はやる気が漲っている。

「解りやすいわね」

 言って、レイは視線を隣に落とした。

「美奈子ちゃんもね」

見ざる言わざる聞かざる。

 蹲って目を塞いでいる美奈子に冷たい視線が向けられる。

 くんと美奈子の奥襟をレイは引っ張った。

「そんな事してると見失うわよ。もうやめるなら別に構わないけどね」

 挑発するようなレイの一言にピクと美奈子が反応する。

 逃走心と好奇心に挟まれたジレンマが美奈子の中でぐるぐる回転する。

「やめるなら帰るわよ私は」

 さっさと背を向けるレイの服の裾を好奇心が捕える。

 ゆるゆる立ち上がり眉根を顰めたまま、テスト前以外に会いたくない蔵書に美奈子は逃走心を閉じ込めた。

 意外性100%の光景に眉根が広がった。

「げっ。まこちゃんが参考書取ってる!」

 背伸びして参考書を取ってるまことに美奈子の声が裏返る。

「明日は雪かしら…」

 視線を天井へ移動させてレイも信じられないと呟く。

 互いに酷い感想を述べつつ見守る二人の前でまことは取った参考書を亜美に手渡した。

「何だ…亜美ちゃんの本を取ってただけなのね…」

 ほっと美奈子から安堵の息が漏れる。

「まこちゃんで背伸びしてる位だから、そりゃ亜美ちゃんじゃ届かないわね」

 納得と頷くレイに、にぃと笑んで美奈子は言う。

「亜美ちゃんったら脚立あるのにまこちゃんに取って貰うのねー」

「単にまこちゃん使った方が早かったんじゃないの?」

「…レイちゃん…」

 とことん辛辣なレイを無言で美奈子は見つめる。

「と…やばっ、こっち来るわ。レイちゃん隠れて!」

 レイの腕を引っ張って美奈子は本棚の影に隠れた。

 二人の存在に気づかないまことと亜美は話ながら前を通り過ぎる。

 そのまま亜美はレジへ、まことは近くの平積みの雑誌を取った。

 本棚の影から美奈子の頭が上がる。

「本屋はもう出るみたいね」

 ひょこと美奈子の後ろからレイが顔を出す。

「そうね。このままエスカレーターに向かいそうな雰囲気だわ」

「レイちゃん先回りするわよ」

 言って、エスカレーターへ駆け出す美奈子にレイは続いた。

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