ブラウン管の中で歌う歌手に合わせた歌声が部屋に響く。
椅子から垂れる足がリズムを踏み、体は絶え間なく揺れる。
今にも踊り出しそうな美奈子は、部屋の隅で鳴り始めた電話に立ち上がった。
「はいはーい」
人差し指をくるくる回しながら返事をして、明るい声で出る。
「はーい。愛野でーす」
言う美奈子の指はまだ踊り続けている。
「あら?まこちゃん」
ぴたりと美奈子の指が止まった。
「電話なんて珍しいわね。え?聞きたい事?」
壁に持たれ掛かり耳を澄ます美奈子がこくこく頷く。
「そうねー。少し遠くても良いなら幾つか大きい所知ってるけど、私に聞くより亜美ちゃんに聞いた方が早いんじゃ…あ」
頬と肩で受話器を挟んで美奈子はポンと手を叩いた。
「何か怪しい本買う気でしょ?そりゃ亜美ちゃんには聞けないわよねー」
言って、直ぐに受話器を頭の上まで美奈子は持ち上げた。
降って来る文句にケラケラ笑う。
ひとしきり笑ってもまだ降り注ぐ声に、美奈子は受話器を耳に戻した。
「やーねー冗談よ冗談。そう怒鳴らないで」
怒っている原因は誰なのか?
しっかり棚上の隅に追いやる美奈子に文句がぶちぶち続く。
「あーもう私が悪かったわよ。それより、どうして亜美ちゃん放ったからしにしてるのよ?」
後ろ髪を靡かせて美奈子は話題を代えた。
「うん?うんうん。あ、それでなのね。じゃあ先刻のも?」
まことの説明に納得した笑みが美奈子から零れる。
「あ、亜美ちゃんに言わない理由は解ってるから。私も内緒にしておくわね」
レイと誕生日会の趣向を練っている時の気持ちを思い出す。
「そういう事なら協力するわよ。今、メモできる?」
唇に人差し指を当てて、ピックアップした幾つかの店を美奈子はまことに伝えた。
「でも見つかりそうなの?まこちゃんの話を聞いてると難しそうだけど…。時間ももうあまり無いわよ」
今日の日付と当日を照らし合わせて心配する美奈子に、まことの声がはっきり返って来る。
「そうね。やれる事はやらないと始まらないわよね」
くすりと美奈子は微笑んだ。
「ええ。じゃあ…あ、11日も空けといてね。亜美ちゃんの誕生日会するから」
クラウンで決めた日取りを美奈子は教える。
まるで自分の事のように喜ぶ声に美奈子も楽しくなる。
「ええ。盛大に行きましょう!…ん?…ちっ」
美奈子の指が悔しそうにパチリと鳴った。
「解ったわよ。お酒は持ち込まないから」
前科をしっかり覚えている冷静なまことにつまらなさそうに手を上げて誓う。
しかし、まだ言い続けるまことに受話器を真正面に見据えて言った。
「あーもう!そう念を押さなくても大丈夫よ!…レイちゃんにも同じ事言われたから…」
先に禁止を告げたレイの名にようやく安心したのかまことが黙る。
「もう…」
前髪を後ろへと流して美奈子ほっと息をついた。
「それより感謝してよ。誕生日会、10日はわざわざ避けたんだからね」
壁を押して美奈子は離れる。
「は?今回は覗きもしないから!ちゃんと二人っきりにしてあげるから!!」
続々と出てくる悪行の数々を念入りに止めるまことに過ぎた事は忘れる美奈子はしつこいと思う。
「今回は邪魔しないから。だから頑張ってね」
素直な応援に気合の入った返事がまことから返って来る。
「ええ…うん。じゃあね」
言って、美奈子は電話を切った。
ふっと息を吐いて、電話に背を向けた美奈子だがもう一度受話器を取る。
受話器を胸に当て、少し悩んだ末に番号を押す。
「亜美ちゃんには言えないけど、レイちゃんだったら大丈夫よね」
亜美を心配していたレイを安心させようと美奈子はコール音を聞いた。



