まこ亜美、静なつ、夏実×美幸を中心に気の向くまま書いている二次創作サイトです。

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同類(舞-HiME・静留×なつき+黎人)

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 お昼を知らせる鐘が風華学園に鳴り響くと、静かだった学園内は一変して騒がし

くなった。

 友達と一緒にお弁当を広げる生徒がいれば、購買部へと急ぐ生徒もいる。

 食堂では券売機の前で財布と相談する先生もいたが、皆一様に頭の中は昼食

で一杯だ。

 誰もが心を一つにする当然なお昼休みの中で生徒会室だけは雰囲気が違って

いた。

「あ、あの…先輩…」

 躊躇する女子生徒の声は微かに震えている。

 頬は赤く染まり、座っている椅子の端を耐えるように指先が握っていた。

「大丈夫どす」

 女の子の胸元のリボンを指で弄ぶ静留は囁く。

「あんたは何も心配せんと。うちにみんな任せたらええんどす」

「で、でも…」

「安心しよし」

 それでも恥らう女子生徒にリボンから手を離し、静留は耳の前に落ちる長い黒

髪を一房摘んでキスを落とす。
 
「乱暴になんてせぇへんから…な?」

 上目遣いのような瞳に静留がわざと艶を持たせると女子生徒の頬は更に赤く染

まった。

 周囲を確かめるように女子生徒の目が泳ぎ、やがて小さく頷く。
 
「ええ子やねぇ」

 同意と見なした静留は小さくほくそ笑み、細い肩を抱き締めた。
 
 肩越しに長い黒髪を目に映すと、切なく眉を寄せる。
 
 瞳を伏せ、瞼の奥に刻まれている人物を想う。
 
 黒髪を一房指に絡め、瞳を開けないまま静留は唇を寄せた。
 
 今から秘め事が始めようとする静留の表情に喜びは無い。
 
「肩の力を抜きぃ」

 女子生徒のブレザーに手を掛け、淡々とリボンを解く。
 
 そんな秘め事を暴くように、不意に生徒会室の扉が開いた。
 
「静留さん…おっと」

「あら黎人さん」

 微かに驚いた顔をする黎人に動揺する事なく、静留は微笑む。
 
「ごめん。お邪魔したみたいだね」

「ほんま、野暮なタイミングやね」

 のんびり会話する二人とは裏腹に赤かった女子生徒の顔は羞恥で青ざめていた。
 
「せ、先輩……」

「あぁ…堪忍な」

 怯えるように全身を震わせる女子生徒から体を離し、脱がしたブレザーを静留

は羽織らせた。

「邪魔が入ってしもたさかい。続きはまた今度にしましょ」

 静留が囁いても女子生徒の顔は色を取り戻す事は無く。

 乱れかけていた襟元を握り締めて、逃げるように黎人の横を通り過ぎて出て行く。
 
 涙ぐんだ顔を見て見ぬ振りをして黎人は生徒会室の扉を閉めた。
 
「せめて鍵を閉めてあげなきゃ可哀想なんじゃないかな」

 椅子に座ったまま追う事も見送る事もしなかった静留が嘆息する。
 
「せやねぇ。お蔭でえらい中途半端な気分で終わってしまいましたわ」

 満たされなかった欲のみを惜しむ静留に、黎人は肩を竦めた。
 
「それに無用心だよ。僕以外の誰かに見られたらどうするんだい?」

「お昼に生徒会室に来る人なんてうちか黎人さんくらいやないの」

 学園祭などの大きなイベント前ならいざ知らず、お昼にわざわざ生徒会室を訪

れるのは生徒会長の静留か副会長の黎人くらいしかない。
 
 何かと張り切っては、静留に噛み付く執行部の面々もお昼は園内の見回りで忙しい。
 
 それを理解しているからこそ、静留は秘め事の場所に生徒会室を選んだ。
 
「黎人さんなら扉を開ける前に察してくれるとうちは思てたんやけどねぇ」
 
「すまないね。ちょっと寝不足だったもんで気づけなかったんだ」

 わざとらしく欠伸の真似をして、黎人は備え付けの流しへと向かう。
 
「お詫びに僕がお茶を淹れるよ」

 悪びれない黎人に瞳を細め、静留は椅子に深く腰掛けた。
 
 息を紡ぐように吐き出す。

 先の子はもう生徒会室には来ないだろう。
  
 欲の捌け口という意味では代わりの子は幾らでもいる。
 
 しかし、同じタイプはいつもの取り巻き内では思い当たらない。

 久しぶりに新鮮な味が楽しめると思ったというのに。
 
 口元に運んだところで無粋な男に邪魔をされてしまった。
 
「……別にどうでもええけど」

 所詮、行き所の無い欲を消化させるだけの相手だ。
  
 情を持って接するつもりもなければ、去る者を追う気もない。
  
 心から欲している相手はただ一人。
 
 それ以外は本当に、本当にどうでもよいと静留は思う。
 
 とはいえ、情は動かなくとも体は本能に正直で。
 
 中途半端なこの状態は少々きつい。
 
 体は少なからず火照っている。

 生徒会の仕事でもして熱を静めない事には隙を作りかねない。
 
「面倒な事をしてくれたもんやわ」
 
 流しでお茶の準備をする黎人を横目で静留は睨む。
 
「静留さん、お茶が入ったよ」

「おおきに」

 黎人の微笑みに笑みで静留は返した。

 視線を流した途端振り返り、さり気なさを装う。
 
 その動作に不自然や隙は全く無く、どんな事でもそつなくこなす。

 絵に描いたような優等生の様は静留が熟知した人物と同じタイプで、静留がこ

の世で一番嫌いな人間と同類だった。

「静留さんの口に合うと良いんだけど」 

「何言うてますのん。黎人さんのお茶はいつも美味しいどすえ」

「お世辞でも嬉しいね」

 微笑みを交わしつつ、黎人と静留はお茶を啜る。

 黎人は立ったまま片手でお茶を持っていた。
 
 デスクに軽く凭れかかり、特に意味を持たない視線で生徒会室を眺めている。
 
 一見はぼんやりしているようにも見えるのに。
 
 隙は無い。

 ほぅと静留は息を吐いた。

 普段なら高校生とはかけ離れた黎人の自然体には同等の自然体で返す所だが

今は体に熱が燻っている。
 
 僅かではあるが、気が散る。
 
「ところで、先刻の事なんだけど」

 不意に、黎人は静留に問いた。
 
「静留さんは僕に口止めをする気はないのかな」

 静かに気を張ってゆっくり静留は顔を上げる。

「あら?必要やったんどすか?」

「僕は言うつもりないけど、一般的にはするもんじゃないかな」

「言うつもりがないお人に口止めしても意味あらへんとちゃいます?」

「確かにね。……でも」

 ふと、黎人の瞳が細まった。
 
「静留さんにだって知られたくない人が一人、くらいはいるんじゃない?」

 含みを持った物言いは、知られたくない一人を知っていると言っているようで。
 
 湯飲みを持つ静留の手が一瞬動揺した。
 
 震えそうになる指を叱咤して、静留は笑む。
 
「誰の事を言うてるんやろか?」

「さぁ。ただの一般論だよ」

 首を傾げて、黎人は微笑む。
 
「誰にでもそういう人が一人はいるもんみたいだからね。静留さんにもいる

んじゃないかと思っただけだよ」

 まるで自分にはそういう相手がいないと言うように。
 
 それでいて静留のそういう相手が誰かと知っているかのように。

「どうかな?」

 黎人は静留に聞く。
 
「さぁ。うちにはそないな人思い当たらへんねぇ」 

「そう。ならいいんだ」

 微笑んで、黎人は茶を啜った。
 
 静留もまた湯飲みを傾ける。
 
 湯飲み口に歯が当たり、カチリと動揺の音がした。

「どうかしたかい?」

 見計らった声に、静留は心中で歯噛みする。
 
「お湯の温度が高かったみたいやね。お茶に渋味が出てはりますえ」

「それは失礼。淹れ直そうか?」

「折角黎人さんが淹れはってくれたんやし。今回はこれでええどす」

「次からは気をつけるよ」

 言葉に含みを持たせ、相手を揺さぶる。
 
 何も知らない顔で全てを見透かした瞳をする。

 真意は裏の裏まで隠して誰にも見せない。

 本当に、本当に己に似ていて。
 
 黎人がにこやかな笑顔を見せれば見せる程、静留の嫌気が増す。
 
「それにしてもあの子、可愛かったね」

 不意に黎人は言った。

「名前は何て言うのかな」

 相手を一人に限定しない黎人が興味を持つのは珍しいと静留は思う。

「黎人さんの好みの子やったん?」

「僕の趣味とはちょっと違うけどね。可愛い子だったとは思うよ」

 言って、黎人は湯飲みを揺らす。
 
「好みで言うなら僕としては、なつきちゃん…」

 口にされた相手にびくりと静留の体が強張る。

「…の友達の鴇羽さんだったかな。彼女の方が好みだね」

 的中が横に外れ、静留の体から力が一気に抜けた。
 
「静留さん、どうかしたかい?」

「…いいえ。何もあらへん」

 きりりと静留は唇を噛む。
 
 微笑む顔を張り倒したい気持ちを必死で押し殺す。
 
「……ねぇ、静留さん」

 湯飲みを黎人はデスクに置いた。

「先刻から調子悪いみたいだけど体の具合でも悪いのかい?それとも…」

 静留に顔を近づけて、黎人は囁く。

「体が疼いて仕方ないのかな?」

 低音の声は耳から静留の脳へと届いた。
 
 女の性を突くような響きは本来ならそれだけで相手を十分手中に治められるだ

ろう。
 
 しかし、本来の女の性と静留の性は異なる。
 
「…うち、あまりそういう冗談は好きやないんやけど」
 
「冗談のつもりはないと言ったら?」

 吐き気すら覚える顔を静留は見据えた。

「先刻は僕とした事が野暮な事をしたからね」

 言って、黎人は首元のホックを外す。
 
「せめて代わりをしようと思ったんだけど。…どうかな?」

 覗き込んでくる瞳は黒く、情を映さない。
 
 爽やかな微笑みで全てを隠している。
 
「……それもええかもね」

 口の端を歪めて静留は笑んだ。

「黎人さんなら上手そうやし。うちを満足させてくらはりそうやわ」

 デスクに両肘を突いて、指先を静留は絡める。

 流し目のように瞳が細まった。

「男の人は初めてやけど。黎人さん、相手してくらはります?」

 妖艶な笑みが情を映さない瞳を逆に誘う。

「どうどす?」

 笑みと瞳は互いの隙を探り、己の心を隠す。
 
 言葉は無く、想いも無く。
 
 駆け引きだけが心理を探り合う。

 ふと、黎人が身を引いた。
 
「自分から言い出しておいてなんだけど。やっぱり遠慮しとくよ」

 苦笑して、黎人は首のホックを留める。

「僕が食われそうだ」

「あら残念」

 降参と両手を上げる黎人を静留は蔑む。
 
「ええ体験できる思たんやけど」

「臆病者なもんでね」

 肩を竦めて黎人は悪びれない笑みを浮かべた。

「負けたからと言う訳じゃないんだけど、静留さんにプレゼントがあげるよ」

 微笑んで、黎人は湯飲みを手にする。

「時間。というプレゼントをね」

「時間、どすか?」

 静留が首を傾げると生徒会室の扉が開いた。

「静留いるか」

「なつきっ!?」

「やぁ。なつきちゃん久しぶりだね」

 驚く静留とは裏腹に黎人は快くなつきを迎え入れた。

 まるで来るのを知っていたかのような素振りを不審に静留は思う。
 
 一瞬、目配せが送られた。

「…お前もいたのか」

「相変わらずだね」

 嫌そうななつきに肩を黎人は竦める。
 
「そんな顔しなくてもお邪魔虫はもう消えるよ」

 微笑んで、黎人は静留に振り返った。
 
「ねぇ、静留さん」
 
 すぅと瞳が細まる。
 
 黒く、深い瞳は時間をプレゼントするよりも先に恩を売る。
 
 押しつけの恩など願い下げだが、黎人が握る恩は静留にとっては命綱に等しい。
 
「……おおきにな。黎人さん」

 言いたくも無い礼を静留は呟く。
 
「それじゃあね。なつきちゃん」

「ふん。出て行くならさっさと出てけ」

 追い出すなつきと静留を見比べて、黎人は生徒会室を後にする。
 
「あぁ、そうだ」

 扉の手前で、ふと黎人が振り返った。

「静留さん、鍵は閉めとくかい?」

「黎人さんっ!」

「ごゆっくり」

 くすくす笑いながら黎人は生徒会室の扉を閉めた。
 
 扉に凭れ掛かると、なつきの質問に言い訳する焦った静留の声が聞こえる。
 
「本当に可愛いね。静留さんは」

 腕を組んで、喉の奥で黎人は笑う。

「…でも少し残念かな」

 呟いた唇が笑みを消す。

「僕と同類と言うには……君は、純粋過ぎるよ」

 こつりと扉に頭を預けた黎人の瞳がぼんやり宙を見つめた。

 情を映さない瞳が寂しい色を浮かべる。

「だから応援したくもなるんだけどね」

 瞳を閉じて、黎人はゆっくり扉から体を離す。
 
 二人の邪魔にならないように。
 
 頑張れと呟いて、黎人は音を立てずに生徒会室を後にした。

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