雲が流れる。
空を霞で煙らせながら、ゆっくりと。
太陽を隠す。
陽射しは高く、空気はじめっとしている。
夏はもう過ぎようとしているのに、暑さはまだまだ残っていた。
生徒会室の窓を開け、静留はぼんやり空を眺めた。
雲に覆われた太陽が陰りを帯びる。
同時に、静留を照らしていた光も憂いを帯びた。
ゆるりと静留は天を仰いだ。
雲の端で紅の星が禍々しく輝く。
赤い凶星。
最初に見た時よりも媛星は遥かに成長している。
オーファンはもう出現しない。
凪の言う通りに。
そして、始まった。
Hime同士の戦いが。
最悪の祭りの最高潮の宴が始まった。
「あと…どれ位残ったはるんやろか…」
ぽつりと静留は天に問う。
静留がHimeだとは誰も知らない。
ひた隠しにしてきた功が奏している。
こうしてのんびりと空を眺められるのもそのお陰と言えるだろう。
「そないなつもりで隠してきた訳やないんやけどなぁ」
隠してきたのは、応える為。
想い人の負担にならない為。
本当は言いたかったけれど、それを望む人では無いから。
「なつき…」
愛しい名を囁き、静留は瞳を伏せた。
「無事でおるやろか?」
なつきの無事を憂う静留の顔は暗い。
静留と異なりなつきはHimeだと知られている。
最前線に立ち、率先して相手に向かって行く。
何時倒されてもおかしくはない。
「あと…どれ位…残ったはるんやろ…」
ぽつりと静留は問う。
それは、Himeの人数の事なのか。
それとも……。
「…なつき」
溢れる気持ちがじりじりと心を侵食する。
友達でいたかったけれど。
親友でいたかったけれど。
望まれるままに、演じてきたけれど。
もう限界だった。
好きという留まる事を許さない想い。
飲み込み続けた、たった一言の告白が、静留を苛ませる。
「あかん…もぅ、あかんよ…なつき…」
澱んだ熱に犯され続けた想いは、静留の精神さえも蝕んだ。
触れたい。抱きたい。自分だけの物にしたい。
それが叶わぬなら……壊したい。
誰かに奪われる位ならこの手で命の火を掻き消してしまいたい。
愛しく想う反面、憎しみに近い衝動が静留を掻き立てる。
「どっちが、先やろね…?」
つぅと静留の頬に涙が一筋の痕を残す。
「うちが壊れるのと…あんたを壊すのと…どっちが先なんやろね…」
言って、気づく。
瞳が細まり、唸るような笑みが喉を震わす。
「同じ事やね」
込み上げた笑いが次第に高くなり、生徒会室に響く。
「うちが壊れて…なつきを壊すんや」
見上げる紅の星に負けぬ禍々しさが、静留の瞳に宿る。
「あんたなんかに…運命なんかになつきは渡さへんよ」
言って、微笑む。
「なつきは、うちのもんさかい」
日が傾き、次第に空が晴れる。
明るい陽射しは戻って来たのに、静留の心は暗闇に覆われたままで。
「誰にも渡しませんえ。…なつき」
紅の星に魅せられた静留の残された時間はもう後がなかった。



