夕暮れが差し掛かる生徒会室はシンと静まり返っていた。
役員会議は終わり残った生徒は誰もいない。
唯一人を除いて。
そしてもう一人。
生徒会の役員でもないのに出入りしている生徒が一人いた。
執行部のブラックリストNO1。
自ら生徒会に寄り付きそうにない経歴の持ち主であるなつきは、
唯一人残った役員、静留に呼ばれ訪れていた。
「静留、用って何だ?」
生徒会長の席の隣に立ち、なつきは腕を組んだ。
「なつき…」
茶を啜っていた静留がふっと息を吐いて立ち上がる。
対峙するように向かい合った静留の瞳にぎくりとなつきに緊張が走った。
「…どうしたんだ?」
思わずなつきは不安を覚える。
飄々とした風のような雰囲気を纏う静留が今は、
燃え尽きる前の灯火のような炎を揺らめかせていた。
追い詰められたような表情がやけに胸を突き、なつきは組んだ腕を解く。
「うちは…なつきが好きどす」
何度も聞いている台詞は、何時もと違う響きを携えている。
苦しそうな切ない声は、まるで本気だと言っているようで。
困惑したなつきは静留から顔を逸らした。
「そんなの、今更言わなくても解っ…」
「解ってへんよ」
苦笑して誤魔化そうとするなつきを静留は許さない。
「なつきは、何も解ってへん…」
ふらりと一歩静留が踏み出す。
「うちの…本当のうちを、あんたは知らん」
「静、留…?」
踏み出す静留に、一歩なつきは後ずさる。
「なぁ…気づいて、や」
ジリとなつきに静留は近づく。
「来、るな…」
ズッと静留からなつきは離れる。
静留が一歩進む度に、なつきは一歩退く。
何度も繰り返す。
それでもなつきに静留の真意は読めない。
理解出来ないままに背が壁に当たった。
振り返ると後が無い。
「なつき…」
それでも静留は歩みを止めなかった。
息が掛かりそうな距離で逃げ場所を失わせるように静留はなつきの両脇に手を突く。
「…好きどす」
揺らぐ瞳が本意を語る。
「静留…まさか…」
本気なのかと続けたいのに見据えられた瞳が声を奪う。
「…なつき、好きどす」
囁く静留の首がゆっくり傾ぐ。
唇が重なった。
「静、留…」
信じられないという思いで見つめるなつきから唇を離し、耳元に静留は寄せる。
「こん気持ち、もう止めれんのや」
ゆらりとなつきの頬を静留の指先が撫でた。
「どうにも…出来へん…」
ついと唇に触れる。
上唇から下唇からゆっくりなぞる。
「なぁ、なつき」
目を細め静留は笑んだ。
「うちを、受け入れてや…」
艶を含んだ囁きを耳元で落とされぞくりとなつきの背がそぞろ立つ。
「静…っ!」
強引に唇を塞がれ、なつきの喉が反った。
歯列を割られ舌を吸われる。
抗おうとする両手は難無く静留に絡み取られた。
「なつき…」
唇を離し、抱きしめて静留は囁く。
「…好きや」
首筋に顔を埋め、腕に力を込める。
「ほんまに好きなんや」
「静留…」
されるがままのなつきの腕が静留の背へと伸び、振り切るように戻る。
「…すまない」
唇を噛み、なつきは顔を背けた。
「私はお前の望みを…」
「…解ってます」
ゆっくり静留は顔を上げる。
想いを溢れさせた瞳が静かに微笑む。
「堪忍なぁ…」
零れた想いを拭い、静留はなつきから離れた。
「今の…忘れてや」
ゆらりと身を翻し、扉へと向かう。
「静留」
呼ばれ、静留は立ち止まった。
「…堪忍」
振り返らないまま静留はぽつんと言う。
「何も言わんといて…」
泣く背中を見つめるなつきの眉が悲しそうに歪む。
カラリと扉が開かれた。
「ほんまに…ごめんなぁ」
首を傾ぐように微笑み、静留は扉を閉める。
残されたなつきは黙って靴音が遠ざかるのを聞いた。
そっと唇を指でなぞり歯を立てる。
胸を焦がすような想いを忘れさせようとするように夕陽は静かに沈んでいった。



