闇色に染まった河の流れの上で街のネオンが乱反射を重ねる。
高層ビルが舞い降ろした星々が遊ぶ水面は薄い月が浮かぶ夜空よりも強い輝き
を放ち、橋の欄干から覗いても元来の流れを見せない。
実を隠し朧へと帰す闇と光の交差に眩暈を覚え思わず溜め息が零れる。
異なる二つの二重奏に吸い込まれそうで瞳を逸らすと様々な人の行き交う姿が
現実を教えた。欄干に手を掛けたまま眺めると遠かった車の音が近くなる。
それでも、有るべき存在を無き物として映さないその瞳にぐらりと現実が歪む。
自分の存在さえもあやふやになる不安感。 置いてけぼりされた孤独感。
負の感情に押し潰されそうで視線を水面へと戻せば今度は闇に誘われる。
欄干を手が強く握り締めた。固く冷たい感触に実を感じる。
安堵すると同時に寂しいと思う。
人の身に時の流れは早過ぎて何時しか大事なものさえ忘れてしまう。音も無く、
実も見えない河の流れに飲み込まれ辿り着くのは果て無き大海。
失った我を取り戻せば虚だけが広がっていた。
誰もいない。
所詮、人は独りなのだと思い知らされる。
嗚咽が零れた。
抱きしめて欲しいと思う。揺らぎ行く存在でも実が在るのだと耳元で囁いて欲しいと願う。
血の気を失った冷たい手が凍える体を抱きしめた。腕に爪が食い込む程に強く抱きしめる。
それでも震えは止まらない。
寒さに打ち震え、遠のく情に心が悲鳴を上げた。迫り来る闇の流れに何度も首を振って自我を保つ。
音を失った声が助けを求める。
「駄目だろ…そんな薄着じゃ…」
見えない悲鳴を安らぎが包んだ。冬の雪雲色したパーカーが残り香を乗せて温もりを渡す。
両肩に添えられた手の暖かさに振り返ると困ったような切ない笑みが零される。
はっきり認めてくれる視線が 『貴女は此処にいるよ』 と現実を紡ぐ。
「亜美ちゃん」
名を呼ぶ声が言霊のように響き、実を思い出させた。
情を取り戻した瞳に手が差し伸べられる。
「一緒に帰ろう?」
『独りじゃない』と微笑む温もりに頬を伝った雫が闇の水面に光の波紋を広げた。



