まこ亜美、静なつ、夏実×美幸を中心に気の向くまま書いている二次創作サイトです。

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蝕の祭りが終焉を迎え、生活が俗に言う一般的な日常に戻ると、世界はもう雪の季節になっていた。

 深々と降る雪はどこまでも静かで、どこまでも白い。

 音すらも包み込みながら、まるで穢れを払うかのように深く積もっていく。

「静留、寒いと思ったら雪が降り始めたぞ」

 ひらひら舞い降りる雪をベランダの窓から認めたなつきはそそくさと部屋の炬燵
に潜り込む。

「あら、ほんまどすか?」

 両手足をすっぽり炬燵に収めて体を震わすなつきとは逆に静留はいそいそと立
ち上がる。

「綺麗な雪やねぇ」

 ベランダの窓から舞い降りる雪を眺めながら感嘆の息を漏らす静留になつきは
問う。

「静留は雪が好きなのか」

「んーせやね。冬やなぁって感じがしてうちは好きどすえ」

 言って、乱反射する白い絨毯を静留は思い描く。

「なつきも雪見せぇへん?」

「遠慮する。寒い」

 さっぱり断るなつきの背が丸くなる。

「綺麗どすえ」

「綺麗でも寒い」

 頑として首を縦に振らないなつきに静留は首を傾ぐ。

「なつきは雪が嫌いなん?」

「別に嫌いじゃないが寒いじゃないか」

 どうやら雪ではなく寒さが嫌いらしくて。

「しょうのないお人やねぇ」

 炬燵に懐いたまま離れないなつきに静留は苦笑する。

「静留は寒くないのか?」

「寒ない訳や無いけど。こんな綺麗な雪はなかなか見れへんさかい」

 言って、静留はまた雪を眺めた。

 カーテンを開け、雪を見つめる静留は微笑んでいる。

 あまり見せない正直な情に雪が好きなんだとなつきは思う。

「あ、せや」

 ふと、何かを思いついたように静留が窓際から離れた。

「静留?」

「寒がりのなつきにええもんがありますさかい。ちょお待っとってくれやす」

「…あぁ」

 何だろうと不思議に思っているとなつきの横を抜けて静留は台所に向かう。

「熱い茶でも淹れてくれるのか?」

 胸元まで炬燵布団を引き上げてなつきは大人しく待つ事にした。

 ぬくぬくと炬燵で温もり、幸せそうに炬燵に擦り寄る。

 なつきの部屋には暖房とホットカーペットはあっても炬燵は無い。

 この眠気を誘う暖かさは炬燵ならではだ。

「私も炬燵買うかなぁ」

 真剣に考えるなつきの鼻を甘い香りが擽った。

「ん?」

 すんと鼻を鳴らして匂いの元を辿ると台所の方から甘い香りが漂って来ている。

「静留は何を作っているんだ?」

 甘い香りは湯気と共に昇っており、微かにアルコールに近い匂いもしている。

「お待たせさんどす」

 なつきが首を傾げていると、盆を持った静留が戻って来た。

「はい。なつき」

 微笑んで、盆に乗せていた湯飲みを一つ、なつきに静留は渡す。

「何だこれ?」

 湯飲みにはとろみのある白い液体が入っていた。

 米をすり潰したような粒々を幾らか浮いている。

「甘酒どす」

「甘酒って…アルコール入ってるんじゃないのか?」

 アルコールに弱いの自覚しているなつきは飲むのを躊躇した。

「大丈夫。酒粕で作ってありますけど、アルコール分は殆ど無いさかいに」

「ふーん。そういうものなのか」

 物珍しそうに甘酒を見つめるなつきに、静留は薦める。

「体が温まりますさかい。飲んでみとくれやす」

「お前がそういうなら…」

 湯飲みを持ち、ぺろりとなつきは一舐めした。

 アルコールは香る程度で、味はしない。

 代わりに砂糖の甘味と体を温める深い味わいになつきは唇を舐めた。

「美味いな」

 酒粕独特のざらつき感は無く、滑らかで上品な味がなつきは気に入ったらしく。

 湯飲みを持ち直して、しっかり飲み直す。

「気に入ってくれたみたいやねぇ」

「うん」

 こくりと頷くなつきに微笑んで、自分の甘酒に静留は口を付けた。

 その間もなつきは美味しそうに湯飲みを傾けている。

 酒粕の効果か。

 寒がっていた体は内側から暖められ、ほこほこの気分でなつきは甘酒を飲み干
した。

「はー。美味かった」

 ご満悦でお腹を擦るなつきに静留は微笑む。

「体、温まりはったやろ?」

「うん。熱いくらいだ」

 言って、胸元まで上げていた炬燵布団をなつきは腰まで下げる。

「あ、なつき口元に酒粕が」

 唇の端に付いた白い粒に静留は手を伸ばす。

 なつきが指先を見ると、何かに気づいたかのように指先が止まった。

「ん?」

 躊躇するように指先が震え、触れずに戻る。

「ここに付いていますえ」

 代わりに静留の唇の端を指先は触れた。

「あ…」

 察したなつきが顔を上げると静留は苦笑して立ち上がる。

「まだ甘酒あるんよ。お代わり持ってきますな」

「静……」

 なつきが止める間を与えずに、湯飲みを取って静留は台所へ消えた。

 甘い香りが漂ってくる。

 親指で酒粕を拭って、なつきは炬燵に頬を寄せた。

 ぺろりと親指を舐めると甘酒の味が口に広がる。

「静留…」

 甘いと思う。

 静留はなつきに甘い。

 優しく護って、包み込むように支えて、自分は押し殺す。

 唇の端になつきは触れる。

「…別に触れる位、構わないのにな」

 静留の本当の気持ちを知った時は驚愕したけれど。

 今はもう全て受け入れている。

 嫌悪なんて無い。

 それとも静留の中ではまだ残っているのだろうか。

 あの一瞬の拒絶が。

「なつき、お代わり持ってきましたえ」

 何事も無かったような顔で、甘酒のお代わりを持ってくる静留に炬燵からなつき
は顔を上げた。

 甘酒がなつきの元に置かれる。

 ゆるりと昇る湯気にも甘い甘い香りが詰まっている。

「静留あのさ…」

「…雪が」

「え?」

 窓の外を眺める静留の視線を追って、なつきは振り返った。

「雪、止んでしもた」

 夜の間降り積もると思っていた雪は何時の間にか止んでいる。

 枯れ木に中途半端に咲いた白い華を見つめて残念そうに静留は窓際に歩んだ。

「明日まで降る思たんやけどなぁ」

 窓硝子に手を添えて、雪を惜しむ静留の眉根が微かに寄る。

「ほんまに綺麗なもんは、なかなか触れられへんねぇ…」

 吐息を漏らすように静留は呟く。

「…どうにもあかんね」

 きりっと窓際に爪を立てる静留になつきは立ち上がった。

「静留」

 そっと静留の手を取り、自分の頬になつきは押し当てる。

「なつ……」

「冷たくなってる」

 ひやりとする感触を胸に刻み、なつきは唇へと移動させた。

 唇の感触にびくりと静留が震える。

 なつきが上目で覗くと、静留の頬が微かに紅潮した。

「体も、冷えているんだろう?」

 囁いて、静留の首元になつきは腕を絡める。

「なつ……っ」

「私は、消えない」

 耳元で囁いて、なつきは引き寄せる。

「触れても…お前の前から消えない」

「なつ、き」

 ゆっくりなつきの背に静留は腕を回す。

 抱き締める腕は震えていて、弱々しかった。

 それでも、好いて止まない腕がなつきにを抱き締める。

「なつき、なつき…なつき……」

「…静留」

 耳元で木霊する狂おしい声をもうなつきは知っていた。

 どれだけ欲されているのか。

 どんなに自分を抑制し続けているのか。

 知っていても何も返せない自分になつきは唇を噛む。

 同じ想いを持てたらどれだけ楽にしてやれるのだろう。

 同じ気持ちで抱き締めあえたらどれだけ楽になるのだろう。

 静留の肩越しで再び雪が降り始めた。

 綺麗だとなつきはぼんやり思う。

 冷たくて、儚くて、でも暖かくて。

 ひらひら舞い降りる粉雪は今年初めての雪だった。

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