まこ亜美、静なつ、夏実×美幸を中心に気の向くまま書いている二次創作サイトです。

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早朝の日差しが落ちる教室に設けられたなつきの席。

 授業をそっちのけにして出掛けたくなるような日溜りが映えるものの

中心のなつきはそれ所じゃないらしく、ひたすら頭を抱え続けていた。

 机に額を擦りつけて、耳を塞ぐように両手で頭を覆う。

低い唸り声は止むことが無くて。

「どうしたのなつき?」

 登校したての舞衣は第一声で聞かずにはいられなかった。

 ふらつくように顔を上げたなつきの声は掠れており、瞳の光は虚ろだ。

「具合悪いの?」

「…そうじゃない」

「じゃあ二日酔いとか」

「な訳あるか」

 言って、なつきは再び机に突っ伏す。

「じゃあどうしたのよ。目の下に隈まで作って。寝てないでしょ?」

 自分の下瞼をなぞり、なつきの前の自席に舞衣は腰を落ろした。

「あぁ。寝れなくてな」

気配を察したなつきが頭を抱えたまま言う。

「何か心配ごと?」

 世話好きの性が疼くのか。

 心配そうに尋ねてくる舞衣に、ゆっくりなつきは体を起こした。

「…心配ごと、と言われればそうかもな」

 曖昧な答えを口にするなつきはその訳までは話す気がないらしく。

「まぁ無理には聞かないけどさ。話して楽になるって事もあるから話す気になったら言って」

 やんわり舞衣は諭す。

「…呆れずに聞いてくれるのか?」

「勿論。友達じゃない」

 言って、舞衣は微笑む。

認めたなつきは視線を逸らし暫し考えた。

舞衣が言うように話したからと言ってどうにかなる問題ではない。

一晩中一人で考えてみたが答えは堂々巡りで何も見出せなかった。

だが、口にしてみれば楽にならずとも解決の糸口くらいは見つかる
 かもしれないとなつきは思い直す。

「じゃあ聞くが」

少し躊躇を覚えながらもなつきはゆっくり問う。

「コウノトリはいると思うか?」

「……………はい?」

 瞬きを忘れた舞衣の口がぽかんと開く。

「どうだ?いると思うか?」

「え、えと。動物園にはいるんじゃないかなぁ……」

「そうか。動物園にならいるか」

 なるほどと納得するなつきに舞衣は何がなんだか解らない。

「ならそのコウノトリは赤ん坊を運んで来ると思うか?」

 立て続けに問われた理解し難い問いに舞衣の困惑は頂点を極めて。

「…なつき」

 御伽噺のようなお話に舞衣は本気で心配するのを止めた。

「やっぱり酔ってるでしょう?」

「酔ってない!」

 呆れ顔で頬杖を突く舞衣をなつきは睨む。

「私は本気で聞いてるんだ!」

 言葉通り真剣な顔のなつきを目を丸くして舞衣は見つめる。

「本気、なんだ?」

「そうだ!」

 大きくなつきは頷く。

「他にも考えなきゃいけない事はあるがまずこれを解決しなきゃ先に進めないんだ」

「これが一番って…」

 一体どんな悩みなのか舞衣は不思議に思う。

「で、赤ん坊を運んで来ると思うか?」

 再び同じ問題を舞衣になつきは突きつける。

「無、無理なんじゃない、かな?檻に入ってるだろうし、赤ちゃんって結構重いし…」

 根本的に間違ってると解っていながら舞衣は言った。

「…そうか。無理か」

 望みが費えたようになつきが肩を落とす。

「じゃあやっぱり静留が言う通りなのか…」

「静留さん?」

 ふと呟かれた名前に舞衣は身を乗り出した。

「コウノトリの話って静留さんが言ってたの?」

「…そうだ」

「で、なつきはそれを信じたんだ」

「そうじゃない」

 はっきりなつきは否定した。

「いくら私でもそんなのは子供騙しだと知っている」

 馬鹿にするなと舞衣をなつきは睨む。

「じゃあ何でわざわざ私に聞いたのよ?」

「そ、それは…」

 口ごもったなつきの眉根が困った。

 幾ばくか赤く染まった頬で周囲を警戒するなつきに悩みの種の原点はここなんだと

舞衣は思う。

「耳を貸せ」

 ちょいとなつきの指が舞衣を呼んだ。

「誰にも言うなよ」

「言わないわよ」

 状況で秘密話だと察している舞衣は耳を寄せる。

 手で扉を立て、昨日の出来事をなつきは囁いた。

「はいーーーーー!?」

「馬鹿!声がでかい!!」

 素っ頓狂な声を上げた舞衣の口を慌ててなつきは塞いだ。 

「あんたの方が大きいって」

 言われて周囲を見回すと前置きの警戒は意味を成しておらず。

教室中の視線をなつきは集めていた。

「と、とにかく落ち着こう」

 頬を引き攣らせ、なつきは舞衣を促す。

「そ、そうね…」

 まだ驚いている胸を擦って座り直す舞衣になつきもまた

居心地の悪さを感じながら腰を落ち着ける。

気まずい沈黙を噛み締め、周囲を気にするなつきと舞衣は顔を合わせない。

「あ、あのさ…」

やがて教室の視線が二人を気にしなくなると舞衣が沈黙を破った。

「それ、本当なの?」

「本当らしい。病院で判明した事だしな」

「病院って、産婦人科に行ったんだ…」

 それはそれで凄いと感嘆する舞衣に、待合室での状況を思い出したなつきは

苦々しい顔で告げる。

「最初はそうだと思わなくて静留も内科に行ったんだが…その、紹介されて仕方なくな」

「そ、そっか。…おめでと」

 真っ白になった頭に反射で浮かんだ祝いを呟いて、舞衣は頬を掻いた。

驚きに驚きが重ねられた十二単のような衝撃にもう何から驚けば良いのか解らない舞衣は根を上げたように椅子に深く背を預ける。

「HiMEの事以来大概の事じゃ驚かなくなったつもりだったけど、これはかなりくるわー」

「当然だ。私だってまさかこんな事があるとは思ってなかったからな」

「……だろうね」

 想い合う者同士が同じ屋根の下で暮らしていればそれなりの事があっても不思議は無い。

まして相手がなつき一筋で、代表的なセクハラ魔王となれば無い方がおかしいとも言える。

とはいえ、まさかそれが形になる事があるとは露ほども思わなくて。

ましてこれ程までの衝撃的な事実はなかなかお目にかかれるものでもなく。

「でもさ、どうやったらなつきと静留さんの間で……出来るのよ」

とりあえず気になる事を一つづつ片付ける事に舞衣はする。

「ど…どうってそれは…」

 赤ん坊と言わなかったのは周囲を気にしての事だろう。

それでも、その質問は途方も無いナニカをなつきに思い出させるには十分だった。

「根性だ!」

「あのね」

 碧のような事を言い出すなつきに舞衣は脱力した。

「そうじゃなくて。静留さん女性だし普通は相手が男の人じゃないと無理でしょーが」

 深読みし過ぎだと頭を抱えて舞衣は噛み砕く。

「でもなつきの子なんでしょ?」

「……まぁな」

「もしかしたらなんだけど……」

 神妙ななつきの顔を上目遣いで見つめ、言い辛そうに舞衣は問いた。

「その、静留さんの浮気とか…無いの?」

「あの静留に男を相手するような真似が出来ると思うか?」

 昨日、静留と交わした会話をそのままなつきが返す。

「ごめん。無理」

 なつきの意見を即座に舞衣は受け入れた。

少なくとも考えが甘いと核心出来るだけの行動を在校中に静留は見せている。

その上、その洗礼の一環は舞衣自身も受けていた。

「あ、もしかして」

 暫し、首を捻っていた舞衣は思い立ったようになつきの全身を上から下までくまなく見下ろしていく。。

「な、何だ…?」

 舐めるような視線になつきは身震いした。

「なつき男だったの?」

「貴様一緒に温泉入った事あるだろ!」

「そ、そうよね。コンパクトだけど胸もあるもんね」

「お前がでかすぎるんだ!」

 激しい剣幕に入れられたフォローはフォローというより止めを刺していて。

コンプレックスを刺激されたなつきは腕を組む振りをして胸元を隠す。

「もういい。お前を信じて話した私が馬鹿だった」

「ごめんごめん。確認したかっただけだって」

 顔を背けて話を打ち切ろうとするなつきに舞衣は両手を合わせた。

「正直ちょっと信じられなくてさ」

「だからってそれは無いだろ」

 何をどう考えたら友人の性別を疑う結論に達するのか。

複雑な問題を余計混ぜられなつきは頭を抱える。

「まぁ…気持ちは解らなくもないがな…」

 なつき自身、昨日話を聞いた時は舞衣と同じ事を考えた。

 どこかで知らない誰かと浮気していたのかと本気で怒りを覚えた。

 だが、現実はもっと途方も無くて。

 一夜明けた今でも問題は多々と残っている。

「なぁ舞衣。私はどうしたら良いと思う?」

「どうって言われても…」

 同性間で子供が出来たという話だけでも信じられない話だというのに、その後の事を聞かれても舞

衣には答えようがない。

「やっぱりちゃんと挨拶に行くべきだろうか」

「……はい?」

 きょとんと舞衣が目を瞬かせる。

「私は両親がいないのも同然だから構わないんだが静留の方はそういう訳にはいかないだろ」

「はぁ…」

「ここは一つ。きちんと父親に挨拶に行くべきか」

 律儀に筋を通そうとするなつきに最早舞衣は何も言えない。

「だが女の私に果たしてうんと言ってくれるとは思えないんだが…どうしたら良いと思う?」

「なつきちょっと待ってくれる?」

 話に連いて行けない舞衣はなつきは引き止めた。

「なつきの悩みって……そういう事なの?」

「他に何がある」

 思いつかないなつきが首を傾ぐ。

「何って……その、堕ろすとか…考えないの?」

「お前はまだ生まれてもいない命を殺せと言うのか!?」

 信じられないと顔で舞衣をなつきは見据えた。

「そ、そうは言わないけど……でも」

 舞衣としてもそれは絶対に賛成できない。

 仮になつきが同じ台詞を言ったのならばきっと同様に怒るだろう。

 だが、世間一般で言えば真っ先に考えるのはその部分。

 生むか、堕ろすか。

「だってなつきまだ高校生だし、静留さんも大学生になったばかりだし」

「それがどうした」

「世間体とか」

「そんな物考えてたら最初から静留と暮らさん」

「じゃあ金銭的な問題とか」

「金には不自由してない」

「あ、そ」 

 一度言ってみたい台詞を言われ、舞衣は冷たく相槌を打つ。

「…嬉しがってるんだ」

 ぽつんとなつきが呟いた。

「静留がとても嬉しがってるんだ。私との間の子供を」

 言って、なつきは遠い空を眺める。

蒼い空は目に染みて痛く、絵空事のように遠い。

「あんな顔されたら堕ろせなんて言えるか」

 言って、なつきは息を吐き出す。

「……なつきは?」

 問われて舞衣になつきは向き直った。

「なつきは嬉しくないの?」

真剣な瞳が見据えてくる。

「それは……」

 口ごもり、なつきは空に視線を戻した。

痛い空はどこまでも続き、それでも暖かく優しい。

まるでなつきと静留の間の子供のように。

 まだこの世に生を受けてはいないけれど。

 それはあと数ヶ月の問題。

「まだ困惑はしているが………嬉しいと思う」

「じゃあ何も問題無いじゃない」

 舞衣が微笑んだ。

「親御さんへの挨拶も必要だとは思うけど、その前に二人がどうしたいか

 考えるのが先だと私は思うわよ」

「そうなのか…?」

「そうよ」

 迷うなつきに舞衣は断言する。

「それにこれからの事はなつき一人で考えるんじゃないの」

 言って、なつきの眉間の皺を舞衣は突付く。

「二人の事なんだから二人で考えなきゃ」

 ね?と微笑む舞衣に、なつきの眉間が悩むのを止める。

「そうだな。もう私だけの問題じゃないんだよな」

 ようやっと困惑が消えたのかなつきが活気を取り戻し、満足そうに舞衣は頷く。

「色々と大変だと思うけど頑張んなさい」

「解ってるさ。親になるんだからな」

 ぽんと肩を叩く舞衣になつきは前を向いた。

「舞衣」

「ん?」

「…ありがとう」

「どういたしまして。って、もう一つ気になってる事があるんだけど…」

 照れ臭そうななつきを伺いながら舞衣は聞く。

「何だ?」

「ん、とね…」

 少し躊躇いながら舞衣は耳打ちする。

「なつきと静留さんって……なつきが攻だったの?」

 舞衣の問いは決して答えられるレベルではなくて。

「……お前はどこでそんな言葉を覚えてくるんだ……」

眩暈を覚えたなつきの視界の隅にあおいと千恵の姿が映り。

 友達は選ばなければならないと言う言葉の真意をなつきは初めて知った気がした。

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