30 12月
2008

 古今東西。

 挨拶はどこにでも存在する。

 おはよう、おやすみ、いってらっしゃい、ただいま。

 起きてから寝るまで、挨拶は多種多様な形で利用される。

 良くも悪くも気持ちが込められている言葉だ。

 そんな挨拶には、一つの共通点があった。

 伝える者と受け止める相手。

 二つの存在が無ければ成り立たない言葉でもある。

 そんな点と点を繋いで線にする大切な挨拶にも厄介な面があった。

 それは伝える者と受け止める相手の思いが必ずしも一致するとは

限らない。

 使い方を一つ間違えると滑稽な事になりかねない難しい言葉でも

あった。

 - – – – – – – – – – 

 人とははなかなかに欲張りなもので。

 真逆の物が欲しくなる事が多々とある。

 まさに今のまことがそうだった。

 気合いを入れて作ったクッキーは流行に乗って塩クッキーにした。

 初の試みにしては、なかなか満足の行く出来栄えだと思う。

 甘さが控えめな分、食感を重視して、お供には紅茶ではなくココ

アを選択した。

 塩気のあるおやつに甘い飲み物。

 絶妙なバランスでチョイスしたのは食べ終えた後に満足するため

だったのだけれど。

 どこか物足りない気がまことはした。

「ね、亜美ちゃん」

 新作の感想が聞きたいと口実を付けて呼んだ亜美にまことは聞く。

「足りない気がしない?」

「え?」

 不思議そうに瞳を瞬かせる亜美を見つめると困ったように方を竦

められた。

「え、と。何の話かしら?」

「え?」

 疑問を疑問で返されて、先刻の台詞をまことは思い出す。

「あ、ごめん。あたしの言葉が足りてないね」

 失敗したと頭を掻いて、まことは言い直した。

「今日のクッキーなんだけどさ。甘さが足りなくないかな?」

「でも、塩クッキーなのよね?」

「うん」

「それならこれ位の甘さなんじゃないかしら?」

 言って、クッキーを一口、亜美は囓った。

 さっくりとした歯触りと、滑らかな舌触りは、まこと特有の心遣

いがそのまま現れていて、癖になりそうな食感だ。

 甘さはまことが言う通り控えめではあるけれど、物足りないとは

感じない。

 むしろ、何時まででも、どれだけでも食べられる味だと亜美は思う。

「私は美味しいと思うけど…。まこちゃんは違うの?」

「自分で作っておいて言うのもなんだけど。もう少し甘くしても良

かったかなーって」

 腕を組んで、まことは考える。

 何がこの物足りなさに繋がるのだろうと。

「やっぱあそこで砂糖を控え過ぎたのかな。でも、そうするとお塩

とのバランスが悪くなっちゃうしなぁ」

 唸りながら頭を捻っていると、亜美がクッキーを囓る音が聞こえた。

「美味しい?」

「ええ」

「そっか」

 言って、まことも亜美に習う。

 やっぱりちょっと甘さを控え過ぎた気がする。

「まこちゃん」

「ん?」

「もしかして、ちょっと疲れてる?」

「え?」

 意味を解せなかったまことは目を瞬かせた。

「疲れていると糖分が欲しくなるから。もしかしたらと思ったんだ

けど…」

「うーん。別に疲れてないと思うけどなぁ」

 言って、ここ数日をまことは思い返す。

 最近は珍しく平和だった。

 戦わなければならない事件もなく、普通に学校に行って、普通に

食事をして、普通にみんなと勉強をして。

 夜は寝た。

「でも、先刻まで私と一緒にお勉強してたでしょ?」

「うん」

 頷いて、試食を頼んだ時の事をまことは思い出す。

 クッキーの試食をお願いしたら、やっぱりというべきか流石とい

うべきか。

 ついでに一緒に勉強をしましょうという、まことにとっては嬉し

くとも切ない流れになった。

 たまには抜きが良かったな、と思わったまことではあったが、二

人っきりで会えるのはやっぱり嬉しくて。

 それなりに気合いをを入れて亜美に応えた。

「英文の和訳を凄く頑張っていたから、糖分が足りなく感じるんじゃ

ないかしら……」

「あぁ」

 なるほどと、まことは手を打つ。

 しかし、それはそれで、一つ疑問が残る。

「でも、亜美ちゃんも一緒に勉強してたよね?」

 まことに勉強を教えつつ、自分の分も亜美はこなしていた。

 疲労という意味では亜美の方がある筈。

「私はまこちゃんの美味しいクッキーで十分元気でるから」

 言って、もう一つクッキーを取る亜美に、まことの頬が朱に染まる。

 そんなまことに首を傾げて、亜美は普通にクッキーを口に運んだ。

 気づいてないんだろうなとまことは思う。

 何気ない一言で。

 一瞬、呼吸が止まる位に動揺させて、何も考えられなくなる位、

鼓動を早くさせるその言葉の威力に。

「でも、まこちゃんはもう少し甘い物が欲しいのよね?」

「へ?あ、うん」

 顔を覗く亜美に、まことは現実に戻った。

「私はこのクッキーで十分だけど…お買い物に行く?」

「うーん。そうだなぁ…」

 新しくお菓子を作る材料はまだ残っているけれど。

 今から作るのは何となく億劫にまことは思う。

 とはいえ、買い置きのお菓子は丁度切らしている。

 さて。どうしたものか。

 考えながら、ふと亜美をまことは見た。

 きょとんとした瞳が、視線に気づいて首を傾ぐ。

 それを見たまことは、疲れを吹っ飛ばす一番の特効薬と言っても

良い程の甘い物を発見した。

「ね、亜美ちゃん」

 にっこり微笑んで、まことは亜美に近づく。

 少しづつ。ゆっくりと。

 まことは顔を近づける。

「……え。ま、まこちゃん?」

 察したのか、頬を染めた亜美が焦った声を上げた。

 でも、近づくのをまことは止めない。

「あ、あの……」

 徐々に詰める距離に亜美の視線が泳ぐ。

 それがまた何とも可愛くて。

 嬉しそうにまことは瞳を伏せる。

 唇で軽い音が立った。

「うん。満足した」

 唇に残った甘さを堪能して顔を離すと、不意打ちが不満だったの

か、恨めしそうにまことは睨まれた。

「……もぅ」

 そんな亜美が可愛くて。

 悪戯っぽく耳元でまことは一言、囁いた。

「ご馳走様」と。

 - – – – – – – – – –

 なんとなく思いついた『挨拶』シリーズ。
 そのいち?と書いてあるけど続くかどうかは謎(爆)

1件のコメントまこと×亜美, セーラームーン(停止中)

1 comment

  • Comment by
    セン
    10 11月 2013

    こんにちは
    突然申し訳ありません!
    セラムンのまこ亜美、美奈レイがすきでサイトを巡り巡ってであったこのサイト様がドンピシャで私の好み(上からっぽいですかね?でしたらすみません。)こんなサイト探してた!という感じでですね、小説たのしく読ませていただいたのがもう去年の今頃のことです。もうまこ亜美、美奈レイはかかれないのでしょうか?我儘ですがぜひあなた様の書かれた話が読みたいです。
    いきなり現れたものがズケズケと申し訳ありません。久々に読ませて頂いてコメントしようと思い至った次第です。すみません。失礼しました。


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