始まり

by 瑞穂

9 2月
2008

「やっと終わったわー」

 レイの部屋で美奈子は開放感を体一杯胸一杯にして机に突っ伏した。

「お疲れ様」

 労いの言葉と一緒に太陽と同じ色のジュースの中で氷をカラカラと遊ばせながらレイはテーブルの上に4つの透明なグラスを置く。

「レイちゃんありがと」

「ところでテストの結果はどうだったの?」

 ぱっと顔を明るくした美奈子を戒めるような問いに暗雲が立ち込もり、テーブルに懐いてごろごろ鳴っていた喉の音が止まる。

「レイちゃん…」

 恨めしそうに名を呼びもっそりと起き上がった美奈子はあたるようにストローにぱくついた。

「…終わった直後くらい忘れさせてよね…」

 ぶくぶくと液体が白い泡に囲まれて波打つ。

「ほほほ。聞くまでも無かったわね。じゃあ…」

 思った通りの反応に高笑いする口元を押さえてレイはくるりと向い側を見た。

 テーブルを挟んだ向こうでは美奈子と学校は違えどテストの時期は一緒だった亜美とまことが美奈子との会話を聞いていたらしくそれぞれ独自な反応示している。

 満足そうな笑みを称える亜美と、話しを振らないで瞳を伏せてジュースを飲んでるまことは何も言わずに十分な返事をしていた。

「…こっちも聞くまでなさそうね…」

 仲間全員の家庭教師の頬が微かに引き攣って見えるのは美奈子のせいだと思いつつレイは自分のジュースを口に含む。

 酸味と甘みが見事に調和された自然の恵みがレイの喉を潤す。

「あーあ…」

 一気にグラスの半分を飲み干した美奈子はころんと床に転がり溜め息をつく。

「折角テストも終わったんだから遊びに行きたいわー」

 大の字でぼんやりと天井を見つめて退屈と美奈子言う。

「ゲーセンでも行くかい?」

「んー…」

 まことの提案に気が乗らないのか難色を示し美奈子は全員がこけそうな事を呟く。

「どこかに良い男いないかしら…」

「ぶっ!」

 喉を逆流しようとした液体をレイは慌てて抑え込んだ。

「突然何言いだすのよあんたは…」

「別にどうこうしようって訳じゃないのよ?ただ目の保養が欲しいなーと思っただけ」

 くるっとレイの方に体を向けて美奈子はレイの膝の上に手を添える。

 かあっとレイの頬が染まり、美奈子はくすりと笑った。

「べ、別に私は何も心配してないわよ…」

 ぺんと膝の上の手を叩き落とし美奈子の言い訳を無下に切る。

「相変わらず冷たいわね」

 痛くも無い手を擦り体を起こした美奈子はまことと目が合う。

「何だい?」

 じーっと見つめて何か言いた気な美奈子にまことの首が傾いた。

「最近まこちゃんのあの台詞聞いてないなーと思って」

「あ、そういえばそうね」

「あの台詞?」

 主語の無い美奈子の話しにあっさりと乗るレイに対して当事者は何の事だか解らないらしく亜美に瞳で問う。

 しかし亜美にも思い当たる台詞が無いらしくゆるりと首を振る。

 すると美奈子はがっしりと祈るように手を組み、瞳に星を瞬かせ高い声で主語を言った。

「先輩にそっくりだぁぁー」

「ぶふっ!」

「まこちゃん!」

 もろにジュースを吹き出したまことに慌てて亜美はハンカチを差し出す。

「あ、ありが…げほっげほっ!」

 咳き込む口元を片手で覆いハンカチをもう片方の手で受け取るとまことは口元を覆う。

 ほどなくして止まった堰にほっとして深呼吸で呼吸を整えたまことは改めて美奈子に言った。

「何を言い出すんだよ急に」

「だって前は1ヶ月に1回は聞いてたのに最近は全然聞かないんだもの」

「1ヶ月に1回って…」

 そんなに酷くないとまことが心で呟く。

 その声が聞こえたのかレイは援助をすると見せかけて止めを刺した。

「1ヶ月に1回とまでは言わないけれど、最近聞いてないのは確かね」

「…レイちゃんまで…」

 乾いた笑みを浮かべながらたまには普通に助け舟を出してとまことは思う。

「まこちゃんが言わなくなったのはもう先輩の事好きじゃなくなったから?」

 流し目で問うレイに惑うようにまことは頬を掻いた。

「ん、んー。そう言う訳じゃないんだけど…」

 しかし先輩を思い出してみるまことの心臓は早くなる事も無く至って普通に鼓動を打っている。

 大好きだった先輩の笑顔を思い浮かべてみても素敵だなと思うだけでそれ以上の衝撃は無い。

「好きには好きだよ…うん…好き…」

 目を細めて視線を落とすその顔は知らない人のようで隣で見つめていた亜美は覚えた喉の渇きを無理やりジュースで潤した。

「でもさ…もう恋じゃないんだ。憧れは残ってるけどもう恋心は残ってないと思う」

 自分の中で決着は着いてるとやんわり言うまことにレイは微笑む。

「だからかな?先輩の影をあまり追わなくなったのはさ」

「それって!」

 自分の心中を吐露した照れにへへっと笑うまことにずずいと美奈子は顔を近づけた。

「それって、他に好きな人が出来たって事?」

「へ?あ…それは…」

 きょとんと丸くなった目を美奈子から逸らすまことの頬が微かに染まる。

 それを見逃さなかった口元がにひっと笑いぐいっと更に美奈子は顔を近づけた。

「そうなのね?そうなのね!?」

「え…いや…」

「そうなんでしょ!?誰よ!?」

 鼻が引っつきそうに突っ込んでくる美奈子を胸の前の両手でガードしながらまことはふるふると首を振って呆ける。

「べ、別に、そういう訳じゃないじゃないよ」

「嘘よ!まこちゃんが他に好きな人が出来てないのに先輩を忘れる訳ないもの!!」

「そ、そうかな…」

 あながち間違いじゃないと自分でも思ってるのかまことの否定に力は無い。

 ちらりと亜美を盗み見れば興味無いという風体でジュースを飲んでいる。

 ただ亜美にしてはジュースの減りが早くてまことはくすりと笑む。

「本当に!?」

「本当だってば!」

 叫んで猪突猛進な美奈子から逃げた視線はまことを盗み見た亜美の視線と絡まった。

「あ…」

 惑う亜美をふわりとした笑みが突然抱きしめる。

速まった鼓動に呼応するように亜美の頬が赤く染まった。

「…まこちゃん」

「本当でしょうね!?」

「もうしつこいなっ!」

 微笑みの意味を問おうとして揺れた瞳は美奈子の猛烈な攻撃の防戦に戻ったまことに伝わる事無く床へと落とされる。

 必死で否定し続けるまことからちらりと視線を変えた美奈子に高まった胸を押さえている亜美は気づかない。

「…いいの?」

 攻撃の最中にふっと囁かれまことも亜美を目の端に移す。

「大丈夫だよ」

 ぽそりと答えるまことにそうっと頷くと隠すように美奈子はまた攻撃を繰り出した。





 レイの家で散々遊んだというか遊ばれたまことは星が天を埋めつくした頃にようやく開放され亜美と帰路に着いた。

「やれやれ。美奈子ちゃんにも困ったもんだ」

 言って嫌じゃない疲れを持った体を休ませるように歩きながらまことは体を伸ばす。

「なーんであんなに人の言ってる事を信じないかなー」

「そ、そうね…」

 レイが止めに入るまで本気で困ってるように見えたまことに亜美は苦笑した。

 それでも楽しかったのか頭の後ろで手を組んで上機嫌に星を数えるまことの様子に亜美は開いた唇を一度閉じる。

 先刻の微笑みの意味を問いたい気持ちはあるのに何故だが聞くのが怖くて亜美はあえて2番目の疑問を口にした。

「まこちゃん本当にもう…その先輩の事…想ってないの?」

「うん。あの時言ってたのは本当だよ」

 頷くまことに迷いは無く、逆に亜美が惑う。

「他に…好きな人が出来たの?」

「ん?」

 星を数えるのを止め美奈子と同じ質問を繰り返す亜美にまことはふわりと微笑んだ。

 瞳に包まれ自分の熱の高まりを感じた亜美の肩を宥めるようにまことはぽんぽんと叩き天を見上げた。

「月が綺麗だね」

 言われてすいと顔を上げれば瞬きの中にはっきりとした真円が浮かんでいる。

「え、ええ…」

「…大丈夫だからね」

「まこちゃん?」

 問いに答えず真円を見つめ続けるまことにふうと溜め息を落とし亜美も空を見上げた。

粉砂糖の中のスプーンのような銀色の光を体に満たしまことはゆっくりと記憶の蓋に手を掛ける。

 平和が続くと信じて疑わなかった月の王国。

それは儚い夢のようで、ただ永遠は無いという残酷な事実だけがまことの胸を締めつける。

 数える程しか見た事の無かった故郷は今では何時でも見る事が出来、滅び転生したのだと感じずにはいられない。

 悲しみと寂しさに自然とまことの瞳が揺れた。

 それでも変わらない物は確かにあってそのうちの一つは今隣に在る。

 手の届く温もりを求めて伸された手が躊躇いを握り締めすとんと降ろされた。

「…悲しみだけじゃないわ」

 ぽつりと亜美が呟く。

「楽しかった事も嬉しかった事も沢山あったわ。それはずっと変わらないわよ。だって今でもこうやって…」

 すっと亜美の手がまことの腕に触れる。

「傍にあるもの」

「ん…」

 悲しい記憶にまことは『今』を沢山混ぜた。

 甘いお菓子を作るようにくるくると掻き混ぜて出来上がるのは仲間の顔。

 前世も現世も関係ない仲間はきっと未来でも変わらなくて、それだけは永遠なんだとまことは思う。

「…そうだね」

 微笑むまことに亜美も笑みで応える。

「ねえ、亜美ちゃん明日の夜って家にいる?」

「明日の夜?塾があるから帰りは8時になるけどどうして?」

「ちょっと渡したい物があるんだ。8時半くらいに家に行っても良いかい?」

「構わないけど…」

 何だろうと首を傾げる亜美にまことは秘密と人差し指を口に立てた。

「じゃあ明日の夜ちょっとお邪魔するね」

「解ったわ。でも渡したい物って何かしら…」

 含みのある言葉の意味を図る亜美の手を取ってまことは邪魔をする。

「秘密だって」

 ね?と悪戯を覚えたばかりの子供に亜美は仕方なくこくんと頷いた。

 すいともう一度空を眺め記憶の中から一つの想いを取り出してまことは蓋を閉じる。

「送ってくよ」

「…うん」

 昔から変わらない温もりを亜美に伝えながらエスコートするまことに気恥ずかしさを覚えながらも亜美は身を委ねた。





 夜9時から始まる連続ドラマがテレビから流れ出し亜美は部屋の扉へと目を向けた。

「まこちゃん遅いわね」

 滅多に時間に遅れないまことの連絡も無い遅刻に何かあったのだろうかと亜美の胸に不安が過ぎる。

「事故とかあってないわといいけど…」

 これが美奈子やうさぎなら何時もの事だと苦笑して終わるのに相手がまことなだけに不安も大きい。

 電話を掛けようと立ち上がり家にいる可能性は少ないと気づいた亜美は伸ばした腕をぺたんと戻す。

 何時来るか解らない以上外に様子を見に行く事も出来ずうろうろと玄関と自分の部屋を行ったり来たりする亜美にインターフォンの音が聞こえた。

 安堵と逸る気持ちを押さえて玄関へと急ぐ。

 念の為に覗き窓で確認をすれば待ち人が来たりで亜美は鍵を開けた。

「はぁ…ごめん。遅くなっちゃった」

 肩で息をしながらまことは片手を顔の前に立てて謝る。

「良かった…」

 胸を押さえてほうと亜美は安堵の息を落とす。

「え…何が?」

 中へと招かれ亜美の部屋へと歩みながらまことはきょとんと首を傾げた。

「事故にでもあったのかと思ったの」

「あー…連絡入れれば良かったね。本当にごめん」

「無事ならそれで良いの」

 ぺこりと謝るまことにゆるりと亜美は首を横に振る。

「これに合う鉢がなかなか見つからなくてさ。時間掛かっちゃったんだ」

 園芸センターの一角を陣取って唸りまくって選んで来た渡したい物をまことは部屋の中央のテーブルにことりと置いた。

「まこちゃんが私に渡したい物って植物だったの?」

「うん」

 淡いピンクの半透明なフィルムからすらりと伸ばされた大き目の葉はとても生命力に溢れていてまことに似ていると亜美は思う。

「センニチコウって名前の花なんだ」

 ガサガサとフィルムが外されその身を披露したセンニコウは夏の空色の鉢に根を降ろしていた。

「でもどうして私に?」

 ぺたんとまことの隣に座り名前も聞いた事の無い植物を亜美は珍しそうに眺める。

 そっと葉に触れれば水を与えられたばかりなのかしっとりと湿っていた。

「…約束…だったから…」

「え?」

「何となくだよ」

 頭の後ろで手を組んで先の言葉を誤魔化すまことに亜美はくすりと笑う。

「変なまこちゃん」

「そう?」

「…少しだけ」

 目を細めそれ以上何も言わずに生い茂る葉の真ん中にある丸い固まりを指先で突いた。

 数日で開くとは思えない冷たい感触に亜美は問う。

「お花はどれくらいで咲くの?」

「開花時期は7月~9月だから、多分後2週間くらい先じゃないかな」

 蕾に話しかけてつんと突いて固さを確かめると早すぎたかなとまことは唸る。

「やっぱりは一つくらい咲いてるのが欲しかったなー」

「ううん。お花が咲く楽しみがあるもの。これくらいが良いわ」

「そ?」

「ええ」

 思いがけないプレゼントにありがとうと言う亜美は本当に嬉しそうでまことから安堵の息が漏れた。。

「どんな花が咲くのかしら?」

「んとね、小さい花弁の…」

「まこちゃん駄目」

「ん?」

「楽しみが無くなっちゃうわ」

 まだ見ぬ花をわくわくしながら育てる楽しみを奪おうとしたまことを拗ねた目つきで亜美は睨む。

「そっか。そうだよね」

 ごめんと笑うまことに尖った唇がふわりと緩み亜美は囁く。

「お花咲いたら一緒に見ましょうね?」

 どんな花よりも可愛い亜美の綻びと誘いに目を細めてまことは笑む。

「うん…一緒に見よう…ね…」

 この愛情を注がれて咲いた花ならきっと可愛い花が咲くと思いまことはその時を楽しみに待つ事にした。





「で、亜美ちゃんは一生懸命なのね」

「うん」

 ぞろぞろと亜美の部屋にセンニチコウを見に来た美奈子とレイにまことは頷く。

「亜美ちゃんなら愛情を一杯注いで綺麗な花を咲かせれるわよ」

 窓際にちらりと視線を流せば亜美は今まさにその沢山の愛情を注いでる最中だった。

「あたしもそう思うよ」

 焦らず丁寧に世話をする亜美に余念は無く、まことの楽しみにする心を蕾と一緒にどこまでも膨らませていく。

「でも、本を買って勉強する辺りが亜美ちゃんよねー」

 テーブルの上には数冊の植物に関する本が置いてあり、どの本にも青い付箋が何本も挟まれている。

 そんな本の山の一番上を興味深げに美奈子は手に取った。

「2、3冊はあたしの本なんだけどね」

 借した本だけでは満足出来なかったらしく先日一緒に本屋を巡った事をまことは思い出す。

「流石よね」

 どこまでも探求していく亜美の誠実なまでの欲求は真似できなくてレイは感嘆の溜め息を漏らした。

「こうやって付箋が付けられてるのもね」

 細かいわと素直に頷いて表紙から一番近い付箋のページを捲ると花の咲いたセンニチコウの写真が載っている。

「この花なの?」

「そうだよ。どの色の花が咲くかはあたしにも解らないんだけどさ」

 白い花の他に紫や赤い花が鮮やかに咲いている写真にまことは頷いた。

「綺麗というより可愛い花ね」

 小さな花弁が沢山着いた花は牡丹をそのまま縮小したように開いている。

 その下にはセンニチコウの特徴や学名が記載されていて美奈子は流し読みした。

 それでも花にも和名と英名や属性があるんだと知って夢中になりだす。

しかし読めない学名の壁にぶち当たり美奈子は撃沈した。

「学名って難しいわね…」

「それはあたしも読めない」

 植物は好きでもそれだけは苦手とまことは手を上げて降参する。

「あれ?まこちゃんまさか…」

「美奈子ちゃん?」

 難しい学名に顰められた眉がぱっと元に戻り今度は頬を引き攣らす美奈子の横からレイは本を覗く。

「何を見つけたのよ?」

「見つけたっていうか…これ…」

 美奈子の指の先に書かれた文字にレイの眉が顰まる。

「まこちゃん…」

 ゆうっくりと本から顔を上げた美奈子とレイに素知らぬ顔でまことは視線を逸らした。

「幾ら何でも…」

「…キザじゃ…ない?」

「べ、別にそういうつもりじゃないよ」

 言う割には目は泳いでいて美奈子とレイは絶対に嘘だと疑惑の目を向ける。

「ほ、本当だって!あたしはただ…」

「ただ?」

 言い訳するまことはちらりと亜美を見て聞いてないか確認した後にぽそりと呟いた。

「約束を…果たしたかっただけなんだよ」

「約束?」

 こくりと頷いてまだ亜美を気にするまことにずりずりと寄ってレイは囁いて聞く。

「約束ってセンニチコウをあげる約束をしてたの?」

「昔ね」

「昔って何時の事?」

「ずっと昔だよ」

 テーブルに頬杖を突いて懐かしむまことの瞳に記憶の箱からぴょこんと主張する思い出を手の上に乗せた美奈子はなるほどと頷いた。

「でも、あの事は今の亜美ちゃんには多分伝わってないわよ?」

「別に良いんだ。あたしは約束を果たしたかっただけだから」

 散々揶揄った事を覚えてるんだと笑うまことに勿論と美奈子はピースサインを出した。

「何の事?」

 一人理由が解らないレイは照れるまことと次の付箋のページへと飛ぶ美奈子を見比べて問う。

「ん、遠い遠い昔話さ」

「ふうん…」

 まことの言う昔は恐らく地球に生まれていない頃を指しているんだと気づいたレイはそれ以上追求しない。

 その代わり仲間外れにされたお返しだけはきっちりとした。

「私はてっきりまこちゃんがやっとその気になったかと思ったわ」

 意味あり気な視線にまことは顔を赤く染めてさらりと答える。

「それはまた別の時にね」

「あら…」

 この間のように全面否定しないまことに別の時は近いんだとレイは思う。

「今はまだ…このままでいたいんだ」

 仲間全員で遊んで笑って、時には悲しんであの頃出来なかった事をみんなで楽しみたい。

 そんな気持ちで少しだけ立ち止まるまことはそれでも何時かは亜美への想いを伝える時が来るのを自覚していた。

「そう。今はまだ…なのね」

 ゆるりと亜美の背を愛しそうに見つめるまことにレイは微笑んで優しく見守る。

「でもどっちが先に言うのかしらね」

 ぺらぺらと前の付箋へ順番にページを戻し、また次の付箋を捲ると何度も繰り返して全ての花言葉を確認した美奈子はまことに聞こえないように呟いた。

 本から受け取った想いの持ち主にちらりと視線を流せば首だけ振り向かせるその人と目が合い、口元に立てられた人差し指に全てを悟る。

「手強い相手ね。まこちゃん」

 テーブルに両肘を突いて指を絡ませた美奈子は一枚上手の亜美に了解とウインクを送った。

 唇だけでありがと、と礼を述べちらりとまことの横顔に微笑んだ亜美の指が今にも弾けそうな蕾を突つく。

「覚えていてくれて…本当に嬉しかったわ…ジュピター」

 今も昔も大好きよという亜美の告白はセンニチコウだけが聞いていて、応えるように葉がゆらりと揺れた。





『マーキュリーマーキュリー、今度地球に行ったらお土産に花を持ってくるよ』

『お花?』

『センニチコウって言う花なんだ。どうしてもマーキュリーにあげたいんだ』

『どんな花かしら?楽しみにしてるわ』

『うん。その花の花言葉はね…』



『変わらぬ愛なんだよ』

2 Commentsまこと×亜美, セーラームーン(停止中)

2 comments

  • Comment by
    ハル
    2 2月 2013

    こんにちは
    セーラームーンにはまって今いろんな方の小説を読ませていただいています。
    僕はあなたの書くようなほんわかした話が好きです。楽しく読ませていただいてます。
    これを読んでいてまこちゃんの「月がきれいだね」ってセリフは夏目漱石の言った意味でとらえていいのかな?とか勝手に思ったので、コメントさせていただきました。
    いつも楽しい時間をありがとうございます。

  • ハル 様
    コメントありがとうございます。
    「月がきれいだね」は夏目漱石のアレのつもりはなかったです。確か。←よく覚えていない。
    でも言われて読み返したらそんな風にも捕らえられますね。わおびっくり。
    読み手さんが個々で様々な解釈をして頂けたら自分とは嬉しい限りです。
    またお暇な際にでもお立ち寄り下さい。
    ありがとうございましたm(__)m


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