5月17日

by 瑞穂

23 5月
2015

「ん……響?」
日差しが高くなりつつある、5月17日。
日曜日の早朝に未来が目覚めると、一緒に寝た筈の響の姿はなかった。
起き立ての目を擦って、二段ベッドの上段から階下を覗く。
響の姿はなく、また物音もしなかった。
ベッドに設置されている梯子を伝って未来は降りる。
物置にしている下段のカーテンも開いてみたけれど、響の姿はなかった。
「どこ行ったんだろ?」
日曜日に響が早起きするのは珍しい。
特異災害対策機動部二課から急遽呼び出しでもあったのだろうか。
テーブルに置いてある端末に目を向けると、メモが置いてある事に未来は気がついた。
メモにはヒエログリフのような文字で、昼までには帰る旨が記載されている。
意図せずに暗号とも思える見慣れた文字は間違いなく響の文字で。
どこに出掛けたのか書いていないのもまた響だった。
「行き先も書いてって言ってるのに」
なかなか治らない癖に溜息をついて、時計を未来は見る。
お昼前に帰ってくるのなら、あと二時間くらいだろうか。
テーブルにメモを戻して、キッチンへと未来は赴く。
コーヒーを淹れながら冷蔵庫を開けた。
食材はあるけれど、なんとなく食事を作る気が起きない。
ヨーグルトだけ出して、コーヒーと一緒に部屋へと未来は戻る。
端末は無音だった。
テレビを着けると、スイーツの特集をしていた。
朝食代わりにヨーグルトを口にしながら、ぼんやり考える。
「響は帰ってくるのかな……」
メモにはお昼までに帰って来ると書いてあったけれど。
実際にその通りに帰って来るとは限りない。
確立でいえば五分五分くらいだろう。
確認した冷蔵庫の食材を思い浮かべながら、コーヒーを飲む。
濃く入れすぎたのか苦かった。
「……変なの」
食べ終えたヨーグルトを横において、テーブルに頬を預ける。
待つ事には慣れているのに、今日はどうにもやる気が起きない。
最近は、一緒にいられる時間が多く、響が一人で出掛けても行き先がはっきりしていたせいだろうか。
それとも季節の変わり目だからだろうか。
つまらない、と未来は思う。
「たまにはいいかな」
自分を甘やかす言い訳をしながら、ころりと仰向けに未来は転がった。
響のように。
近くにあるひよこのクッションを引き寄せて抱く。
「……ばか」
耳に届いた風の音に八つ当たりをして、腕の力を強くする。
響の香りがした。
「ばか、ばか、ばかー」
思いつくままに口にする。
「響のばか」
「未来、さすがに酷くない?」
「だってばかだもの」
クッションを引き寄せた時に聞こえた鍵を開ける音は気のせいではなかったようで。
見下ろしてくる顔に、驚きもせずに未来は応えた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「どこに行ってたの?」
「これ買いに行ってたの」
言って、白い正方形の箱を響は見せた。
外観はケーキの箱のように見える。
「なぁに、それ?」
「未来も喜ぶいいものだよー」
ふふん、と誇らし気に鼻を鳴らしてテーブルの上で白い箱を開ける響に身体を未来は起こす。
箱の中身は外観そのままケーキだった。
黄色いひよこのケーキと抹茶色のひよこのケーキが二つ納まっている。
「このケーキを買いに行ってたの?」
「うん! 朝から並んできたっ!」
先週末ぐらいだっただろうか。
テレビでひよこのケーキは紹介されていた。
一日の販売数が限定されているケーキだと言っていたと、未来は思い出す。
「でもどうして?」
「テレビで観た時に美味しそうだったから」
美味しそうだと話してた覚えはあるけれど。
早起きして買いに行くほど響は食べたかったのだろうか。
「あとね。未来と食べたかったんだ」
言って、響が頬を掻いた。
照れた笑顔に、つまらなかった気持ちが溶けていく。
「ね、響」
「ん?」
「お昼ご飯はなにが食べたい?」
「んー、オムライスが食べたい」
「じゃあオムライスを作るね」
ケーキのお礼と言うわけではないけれど。
沸いてきた作る気力に従って未来は腰を上げる。
「響は座ってていいよ?」
「ううん、わたしも手伝うよ。一緒に作って一緒に食べよ」
半袖なのに腕を捲る仕草をしながら連いて来る響に未来は笑う。
「それで、このケーキも一緒に食べようね」
食べてくれる人がいるから、食べさせたい人がいるから、ではなくて。
一緒に食べたいから。
早起きが苦手な響が一生懸命起きた気持ちが未来は解った気がした。

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