にゃー

by 瑞穂

23 5月
2015

ぽかぽかした昼下がり。
お日様は高く、雲は緩やかに、蒼い空を泳ぐように流れている。
晴れ渡った日差しを全身で受け止めながら響はまったり縁側で大の字を模った。
伸びをするように両手足を思いっきり伸ばして、全身の力を抜く。
麗らかな陽気の日光浴は気持ち良く、とろとろと目蓋が降りてくる。
その時、お腹の上にずしりとした重しが乗った。
「うげっ」
小さく響が悲鳴を上げる。
「な、なに?」
首をもたげて腹を見ると毛玉が乗っていた。
しかも、「にゃーん」と可愛い鳴き声が付きだ。
茶色のトラジマの猫が響のお腹の上で丸くなろうとしていた。
時々遊びに来る猫だ。
ふくふくした毛皮はどっかで日向ぼっこしてきた後なのかふわふわだ。
「こーら。お腹の上は苦しいよー」
頭を撫でて身体を起こし、膝の上へと移動させる。
とくに不満はないらしく、猫はそのまま響の膝で丸くなった。
喉元を指先で撫でて響は笑う。
「可愛いなー」
高い声の鳴き声とは裏腹の重低音なごろごろが指先を震わせる。
「え? お、怒ってないよね?」
腹の底に響くような鈍い音に猫の顔色を響は窺う。
幸せそうに猫の目は細まっていた。
ほっと安心して、そのまま喉元を撫でる。
「響、誰とお話してるの?」
「この子とだよー」
響の話し声に気がついたらしく、部屋の奥から未来がひょっこり顔を覗かせた。
響が振り返ると自己紹介するようににゃーんと猫が一鳴きする。
愛嬌のある猫口に微笑んで響の元に未来は歩む。
「またこの子遊びに来てくれたんだ」
「うん。近くのお家の子なのかな」
「少し先のお家の子みたい」
「そうなんだ」
膝を折って未来が猫の頭を撫でる。
ごろごろの重低音が響の膝に伝わった。
「未来、この子のおやつになるものないかな?」
「お出汁用の煮干しがあるから、持ってくるね」
「うん」
台所へと向かう未来を見送って、猫を響は抱き上げる。
おでこと狭い額を引っ付けて、幸せそうに響は笑む。
「よかったねー。未来が煮干しくれるって」
「にゃー」
「へへ。優しいでしょ―? 可愛いでしょー? わたしが大好きな人なんだよー」
「んにゃ?」
「うん。愛してるんだー」
「にゃー」
人の言葉を理解しているのか。
響の惚気を聞く猫はにゃーと相槌を打つ。
「ねー。わたしって幸せだよねー」
ちょっと猫の鼻先を自分の鼻先でついて頬を緩めていると。
「猫ちゃん」
未来が猫を呼んだ。
煮干しを乗せた小皿を持っている。
「煮干し持ってきたよ」
お皿の中を見せて手招きすると響の膝からひょいと猫が飛んだ。
軽やかな足取りで未来の足元へと駆けて行く。
「どうぞ」
お皿を差し出すと、猫は直ぐに顔を突っ込んだ。
ぽりぽりと小気味の良い音が立つ。
夢中になっておやつを頬張る猫の頭を未来が優しく撫でる。
ちらりと視線が響に向いた。
「ん?」
気がついた響が小首を傾げるが、未来の視線は直ぐに猫へと戻る。
「響は優しいでしょ?」
「にゃー」
やはり人の言葉が解っているのか。
響同様に煮干しを食す合間を縫って猫は相槌を打つ。
「猫ちゃんは大好きな子いる?」
「にゃ」
「そっか。でも、ごめんね。響は私にとって一番大切な人だからあげられないんだ」
「んにゃ?」
「うん。私も愛してるけれど、同じくらい私を愛してくれているから」
猫を撫でている未来の視線が上がった。
ふわりとした微笑みが響を直撃する。
「ね?」
「――――っ!?」
同意を求められた響の顔が瞬間湯沸かし器のように沸騰した。
聞かれていた。
猫に話していた惚気は、全て台所にいて聞こえないと思っていた張本人に筒抜けだった。
真っ赤な顔で立ち上がり、ぎゅっと響が拳が握る。
「わ、わたし……」
「なぁに?」
「猫缶買ってくるっ!!」
言うなり響は駆け出した。
慌てたせいで敷居に躓きそうになり、それでも駆ける足は止めないで玄関へと向かう。
「転ばないでねー」
未来が後ろから声を掛けるが返事は無く、玄関の扉が開いて閉まった。
その直ぐ後に外から山びこのような、うわあああと叫び声が聞こえたのは気のせいだと未来は思いたい。
「ご近所迷惑にならないといいけど」
肩を竦めて、煮干しを食べ終わった猫の背を未来は撫でる。
「響はね。自分の気持ちを伝えるのは大丈夫なのに、逆はいつまでたっても慣れないんだよ」
「んにゃ」
「うん。可愛いね」
くすくす未来が笑う。
満足そうに猫は顔を洗い出した。
「響が帰って来るまでもう少しいてね」
オードブルの後のメインを待つように。
のんびり丸くなる猫の隣で未来もまた楽しそうに響の帰りを待つ。
日差しは冴え渡っていた。

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